国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」という)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)、国立大学法人東京大学地震研究所(以下「地震研」という)の共同研究チームは、小笠原諸島の西之島から4.5km以上外側の海域において、JAMSTECの海洋調査船「なつしま」に乗船し、学術調査を実施しました。(※)
今回の調査では、西之島周辺海域の海底面の撮影や海底地形調査、海底にある溶岩試料の採取を行うとともに、西之島の噴火活動で噴出した火山灰を採取したり、間断なく続く噴火の様子を観察したりすることができました。
今後、今回の調査で得られた試料を分析し、私たちが住む大地がどのように誕生したかという「大陸成因の謎」の解明につながる成果の創出を目指します。
(※)NT15-E02航海(主席研究者:田村 芳彦 JAMSTEC海洋掘削科学研究開発センター マントル・島弧掘削研究グループ グループリーダー、調査期間:平成27年6月11日~6月21日)
乗船研究者ら:JAMSTEC(門馬 大和、Alexander Nichols、佐藤 智紀)、産総研/JAMSTEC(石塚 治)、地震研(前野 深)、NHK(高野 克彦)、NHKエンタープライズ(小山 靖弘)
東京から南へ約1,000km、小笠原諸島父島西方に位置する西之島では、平成25年11月から活発な火山活動が続いています。海底火山の噴火により誕生した「新」西之島は、直径およそ2.1㎞、海抜140m以上に成長し(海上保安庁、国土地理院)、今も拡大を続けています。海底火山が一度にこれほどの量の溶岩を吹き出し続けることは極めて珍しい現象であり、西之島のこの噴火現象は、単なる島の拡大ということではなく、科学的に大きな意義を持っていると考えています。
一般的に、地球の地殻は、大陸地殻が「安山岩」と「花崗岩」から成り、海洋地殻は「玄武岩」から構成されています。一方、これまでの調査で、西之島で約40年前に噴出した溶岩はすべて安山岩であることが分かっています(産総研)。なぜ安山岩マグマが西太平洋の島で噴出しているのか。この問いに対し、西之島の噴火プロセス及び噴出する溶岩の生成プロセスが、海洋からの「大陸の誕生」をまさに現出しているのではないかという仮説が提唱されています。39億年前の太古の地球は海で覆われた水惑星であったと考えられていますが、その後、海面よりも高い大地がどのようにできたか、それを知る手がかりが、西之島の噴火活動に隠されている可能性があります。
このような科学的な背景のもと、JAMSTECでは、西之島での噴火現象という機会を逃さないため、「なつしま」による調査を今回実施しました。また、西之島周辺海域の調査という、西之島に接近できる極めて貴重な機会を有効に活用するため、西之島から噴出する火山灰試料の採取および噴火現象の目視観測を行うこととしました。
3-1.海底地形調査
西之島から4.5km外側において、船舶に搭載したマルチビーム音響測深機による詳細な海底地形調査を実施しました(図1)。その結果、平成20年の海上保安庁による海底地形調査と比べて顕著な変化はなく、島から4.5km外側に今回の噴火による溶岩流が届いていないことや海底噴出口が新たに形成されていないことを確認することができました。4.5km圏外から見た西之島までの海上には、火山性浮遊物は見当たらなかったことも、この調査結果を裏付けています。
3-2.海底面の撮影および溶岩試料の採取
今回の調査において、全11回の深海曳航調査システム「ディープ・トウ」での潜航調査を実施し、西之島火山の浅海域(水深約200mまで)から深海域(水深約2,000mまで)の海底面の観察・撮影(写真1)を行うとともに、ドレッジ(海底地質の試料採取に用いられる箱型の器具)により多様な溶岩試料を採取することができました。いずれの溶岩試料も今回の噴火活動に伴うものではありませんが、かんらん石を含む溶岩と、マリアナ島弧における海底火山で採取された初生マグマに似た特徴を持つ溶岩が採取(写真2)され、大陸誕生の鍵を握る試料の可能性があります。
3-3.火山灰の構成粒子
今回の調査において、船上に西之島由来の火山灰が複数回降灰したことが認められ、船首部及び船橋部に30×24cmのトレイを24–36時間程度設置して、5日間で計4回火山灰試料を回収しました。採取量はそれぞれ3-20mgでしたが、これとは別に船橋及び舷側部の船体に積った火山灰約6gも採取しました。
トレイで採取された火山灰の粒径は採取ごとに異なり、100μm程度より細かいものから最大粒径が500μm程度のものまでありました。粒径の違いは、船が噴煙を横切った位置、火口からの距離、当時の風速、噴火の強弱などに起因していると思われます。
構成粒子は、黒色及び褐色透明のガラス粒子が主体でした。黒色ガラスの多くはガラス光沢と、鋭利な破断面あるいは保存された気泡壁を持つと同時に、球状、液滴状、リボン状の粒子も観察されています(写真3)。黒色粒子の1割程度はガラス光沢が見られない緻密あるいはやや発泡した岩片でした。一方褐色の粒子は、緻密なものとよく発泡したものが見みられ、緻密なものが8-9割を占めており、多くの粒子がガラス光沢を示しています。褐緻密な粒子の一部は、やや丸みを帯びた形態を示しており、斜長石の遊離結晶や破片がごく少量見られました。
これらの観察結果から、火山灰構成粒子の多くは、現在活動中のマグマに由来し、噴出後に急冷された、いわゆる本質ガラスと考えられます。ただし、火口内で以前に噴出したガラス片や岩片が巻き込まれて再度噴出したものも含まれていると考えられます。
3-4.火山体近傍での噴火活動状況の観測
6月13日から18日の6日間、船上から西之島(4.5km以遠)の噴火活動状況について観察し、ストロンボリ式噴火と溶岩流出が絶えることなく、マグマ供給は依然として継続していることが確認されました。船の位置、同じ位置から撮影した島の形状、島の輪郭(海上保安庁)をもとにスコリア丘の海抜を見積もったところ、140-150m程度であったことから、海抜137mと計測(国土地理院)された平成27年3月1日以降、スコリア丘はやや高くなったと考えられます。
溶岩流はスコリア丘東山腹に形成された小火口丘(海抜約100m)の麓から南方向に流出し、緩斜面を形成して海に達し、島を拡大し続けています(写真4左上)。
スコリア丘の山頂火口(直径50-60m)から数10秒〜1分程度の間隔で濃い茶褐色の噴煙が勢い良く上げ、噴煙には弾道放出物が伴われることが多いことが確認できました(写真4右上、左下)。
西之島の南東端では溶岩流が海に流入し、水蒸気の白煙を上げている様子が確認されました(写真5)。地形的特徴や白煙の分布状況、赤外カメラによる熱画像(写真6)をもとにすると、溶岩流は小火口丘の麓、海抜70-80m付近から流出し、南東斜面を流下して島の南岸で海に流れ出ていると考えられます。
今後、今回の調査で得られた多様な溶岩や火山灰の試料をより詳細に分析・解析することにより、現在の西之島噴火を引き起こしているマグマの特徴や変化を調べ、前述の大陸成因の仮説を検証し、地球において、大陸物質である安山岩をつくるマグマがどのように生成するのか、を明らかにすることを目指します。
また、観測結果は平成25年11月の噴火開始確認以降、海上から6日間にわたって継続的に行われた数少ない観察事例であり、噴火活動の推移を知る上で大いに役立ちます。