独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)フレキシブルエレクトロニクス研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】印刷エレクトロニクスデバイスチーム 吉田 学 研究チーム長、植村 聖 主任研究員、延島 大樹 産総研特別研究員は、伸縮性の高いデバイスを実現するため、導電性繊維をバネ状に形成した高伸縮性バネ状導電配線を開発した。
また、導電性の短繊維を高い配向性を持たせてパターニングした高伸縮性短繊維配向型電極を用いて、静電容量の変化を用いた容量型圧力センサーを作製し、この圧力センサーを多数、高伸縮性バネ状導電配線を用いてマトリクス状にし、高伸縮性圧力センサーシートとした。このマトリクス状圧力センサーシートは、伸ばしても折り曲げても壊れにくい高い耐久性を持ち、柔軟で人体表面などへのフィット性が高い。今回開発した高伸縮性導電配線は、各種の高伸縮性センサーシートにも応用できると考えられ、快適で信頼性の高いウェアラブルデバイスや心拍・血流センサーなどの医療・ヘルスケアデバイス実現への貢献が期待される。
なお、この技術の詳細は、2015年3月4~5日にドイツ・ミュンヘンで開催される7th International Exhibition and Conference for the Printed Electronics Industry(LOPEC 2015)と2015年3月11~14日に東海大学 湘南キャンパス(神奈川県平塚市)で開催される第62回応用物理学会春季学術講演会で発表される。
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今回開発した高伸縮性・高耐久性の導電配線を用いた電極を伸長した時の様子 |
近年、人体に装着可能なウェアラブルデバイスが注目を集め、特に医療・ヘルスケア分野での活用が期待されている。例えば、長期の心拍モニタリングや体の動きのセンシングなどに用いて日常の体調管理を行うことが検討されている。ウェアラブルデバイスは、人体表面などの曲面にフィットさせて用いるため、高い伸縮性と共に、伸縮・屈曲の繰り返しに対する耐久性が必要である。伸縮性の高いウェアラブルデバイス実現のために、さまざまな伸縮性配線が開発されてきたが、伸長時の抵抗値変化が大きく(伸長率が200 %の時に抵抗値が100倍以上変化)、センサーなどの信号配線に用いる場合には、20~30 %程度までしか伸長できなかった。また、従来のセンサーシートの信号配線として用いられるフラットケーブルは、屈曲耐性が低く、曲げ半径を10 mmとしたとき1万回程度の屈曲耐性しかなかった(折り曲げると断線)。
このため、快適で信頼性の高いウェアラブルデバイスを実現するため、高伸縮性・高耐久性の導電配線やそれを用いたセンサーシートの開発が不可欠であった。
産総研では大面積フレキシブル電子デバイスや形状任意性の高い電子デバイスの研究開発を進めている。印刷製造プロセスを中心とした技術の開発を目指しており、これまでに全印刷メモリーアレイ、RFタグ、蒸散量センサー、大面積圧力センサーなどを開発してきた。特に、最近は人体などの曲面にフィットする柔軟な大面積デバイスの開発に注力している。
今後は、産業化に対応するため効率的な生産プロセスを開発していくと共に、今回開発したマトリクス状センサーシートを用いた日常的な体調管理システムや高齢者介護のための見守りセンサーシステムなどのトータル設計を推進していく予定である。