独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】資源テクトニクス研究グループ 下田 玄 研究グループ長らは、平成25年10月25日~11月14日に海洋調査船「第七開洋丸」(499トン、芙蓉海洋開発株式会社 所有)により沖縄県硫黄鳥島の周辺海域の海洋地質調査を実施し、硫黄鳥島の西方海域の浅海において、海底火山を発見した。さらに硫黄鳥島北方海域では、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域を発見した。
水深200 m以浅のごく浅海で活発な熱水活動を伴う海底火山の発見は、火山防災の観点から重要である。また、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域の発見は、海底鉱物資源の広域調査を進める上で極めて意義深い情報である。今後、経済産業省や諸機関と連携して火山防災・海洋資源ポテンシャルの把握に向けた調査を進める。
|
音響異常のあった浅海から引き上げた流紋岩質岩石 |
プレート沈み込み帯に位置する日本は、地震や火山噴火が数多く発生し、多大な被害を繰り返し受けてきた。浅海部での海底火山の活動は、2013年11月20日に発見された東京都小笠原村西之島での新島を形成するようなものだけではなく、高温のマグマと海水の接触により爆発的な噴火が起こるものもある。また、火山弾・火山灰の落下やベースサージと呼ばれる低温・高速の火山性重力流が発生し、火口から数kmの範囲の海面上に被害をもたらすこともある。1952年の伊豆諸島南部での明神礁噴火では観測中の海上保安庁の測量船が噴火に巻き込まれるという事故も発生した。このような、噴火の可能性のある海底火山を事前に把握することは、火山防災の観点から極めて重要である。
一方で、海底での火山活動は熱水活動を伴うため、海底鉱物資源をもたらすことがある。日本は世界有数の広大な領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚をもち、そこに賦存する海底資源は将来の安定的な資源供給源として注目されている。その資源ポテンシャルの把握と探査にむけて、産総研は独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」という)と連携して資源探査タスクフォースを発足させた。
産総研は経済産業省の知的基盤整備計画にのっとり、日本周辺海域の地質情報整備のため、海洋地質図の作成・出版を継続して行っている。これらは日本周辺海域の海洋地質の基本情報として、活断層の評価や地殻変動の解析などの防災に関連する研究や、海域の物質循環や環境研究の基礎データなど、さまざまな目的に使用されている。また、経済産業省の海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に基づき、産総研は日本の領海・排他的経済水域・大陸棚において、エネルギー・鉱物資源の調査に資する研究も実施するとともに、防災上重要な情報については、気象庁や海上保安庁など、関連機関との情報共有を行っている。
平成22、23年度の海洋地質調査航海では、久米島西方海域で複数のカルデラ地形を伴う海底火山を確認し、平成24年の航海では新たな海底熱水活動を発見した(平成24年12月12日 産総研プレス発表)。さらに、平成25年度には、最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」およびその搭載観測機器を用いて海洋地質調査を実施し、新たな熱水活動域を発見している(平成25年9月9日 産総研プレス発表)。今回の調査は、これらの航海で得られた海洋地質情報を検討した結果を踏まえて硫黄鳥島周辺海域で実施した(図1)。
|
図1 海洋地質調査の実施場所
黒丸が久米島西方海域、赤丸が徳之島西方・硫黄鳥島周辺海域 |
硫黄鳥島周辺海域で行った海洋地質調査では、マルチナロービーム測深機(MBES)による広域で詳細な海底地形調査、サブボトムプロファイラーによる表層地層探査、計量魚群探知機による音響異常調査、ドレッジとグラブ採泥器により海底の岩石と堆積物の採取を実施した。
MBESによる地形調査により、硫黄鳥島堆と呼ばれる海底の隆起部が複数のカルデラから構成される大型の火山であることが明らかとなった(図2)。また、計量魚群探知機の調査により、プルーム状の音響異常が確認された(図3)。音響異常のあった海域で有索式無人潜水艇(ROV)によるリアルタイム海底観察を行い、複数の海底面からのガスの発泡と熱水の噴出口を確認した(図4)。熱水活動や発泡活動が確認できた地域の一つは水深が200 m以浅であった。熱水活動がさらに活発化すると、その影響が海面上にまで及ぶ可能性があるため、日本周辺の海運の安全を確保する上で、この発見は重要な情報となる。
|
図2 MBESによる地形調査結果
右から4番目、下から5番目のマスにある、ひょうたん型の黒い場所が硫黄鳥島。 |
|
図3 計量魚群探知機で観測されたプルーム状の音響異常
(左)火山山頂部で確認された水深200 m以浅の熱水活動
(右)火口状地形で確認された熱水活動
色の違いは反射強度を示している。赤は強い反射、青が弱い反射。 |
|
図4 ROVが撮影したガスの発泡と熱水の噴出口 |
また、硫黄鳥島周辺海域の海底より火成岩である玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩を採取した。特に北方海域の調査では、プルームを確認するとともに、ドレッジにより、多金属塊状硫化物を採取した。多金属塊状硫化物の生成は、有用元素が海底下で濃集する過程が存在することを示す。世界中の熱水活動域として500カ所以上が報告されているが、高温の熱水噴出を伴うのは約300カ所である。その中で塊状硫化物が発見されたのは165カ所しかなく、今回の発見は我が国周辺海域の資源ポテンシャルを把握する上で貴重な情報の一つである。
今回の調査結果より、硫黄鳥島堆がごく浅海の活動的な海底熱水活動の密集地帯であることが明らかとなった。このため、火山防災上万全を期す観点から、すでに海上保安庁と共有しているほか、気象庁火山噴火予知連絡会にも報告し、活火山に該当するかどうかや噴火活動に至る危険があるかどうかなどが検討される予定である。
また、硫黄鳥島北方海域で明らかとなった多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動については、今後、経済産業省およびJOGMECとの密接な連携のもと、資源ポテンシャルなどに関するさらなる検討を行っていく予定である。