発表・掲載日:2014/03/06

沖縄県硫黄鳥島周辺海域のごく浅海に海底火山を発見

-火山防災や鉱物資源広域調査の検討資料に-

ポイント

  • 硫黄鳥島の西方海域に、海底火山に伴う海底熱水活動の密集域を確認
  • 活発な熱水活動域の一つは水深が200 m以浅で、火山防災の観点から重要
  • 硫黄鳥島の北方海域にも熱水活動域があり、多種類の金属を含む塊状硫化物を採取


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】資源テクトニクス研究グループ 下田 玄 研究グループ長らは、平成25年10月25日~11月14日に海洋調査船「第七開洋丸」(499トン、芙蓉海洋開発株式会社 所有)により沖縄県硫黄鳥島の周辺海域の海洋地質調査を実施し、硫黄鳥島の西方海域の浅海において、海底火山を発見した。さらに硫黄鳥島北方海域では、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域を発見した。

 水深200 m以浅のごく浅海で活発な熱水活動を伴う海底火山の発見は、火山防災の観点から重要である。また、多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動域の発見は、海底鉱物資源の広域調査を進める上で極めて意義深い情報である。今後、経済産業省や諸機関と連携して火山防災・海洋資源ポテンシャルの把握に向けた調査を進める。

音響異常のあった浅海から引き上げた流紋岩質岩石の写真
音響異常のあった浅海から引き上げた流紋岩質岩石

研究の社会的背景

 プレート沈み込み帯に位置する日本は、地震や火山噴火が数多く発生し、多大な被害を繰り返し受けてきた。浅海部での海底火山の活動は、2013年11月20日に発見された東京都小笠原村西之島での新島を形成するようなものだけではなく、高温のマグマと海水の接触により爆発的な噴火が起こるものもある。また、火山弾・火山灰の落下やベースサージと呼ばれる低温・高速の火山性重力流が発生し、火口から数kmの範囲の海面上に被害をもたらすこともある。1952年の伊豆諸島南部での明神礁噴火では観測中の海上保安庁の測量船が噴火に巻き込まれるという事故も発生した。このような、噴火の可能性のある海底火山を事前に把握することは、火山防災の観点から極めて重要である。

 一方で、海底での火山活動は熱水活動を伴うため、海底鉱物資源をもたらすことがある。日本は世界有数の広大な領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚をもち、そこに賦存する海底資源は将来の安定的な資源供給源として注目されている。その資源ポテンシャルの把握と探査にむけて、産総研は独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「JOGMEC」という)と連携して資源探査タスクフォースを発足させた。

研究の経緯

 産総研は経済産業省の知的基盤整備計画にのっとり、日本周辺海域の地質情報整備のため、海洋地質図の作成・出版を継続して行っている。これらは日本周辺海域の海洋地質の基本情報として、活断層の評価や地殻変動の解析などの防災に関連する研究や、海域の物質循環や環境研究の基礎データなど、さまざまな目的に使用されている。また、経済産業省の海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に基づき、産総研は日本の領海・排他的経済水域・大陸棚において、エネルギー・鉱物資源の調査に資する研究も実施するとともに、防災上重要な情報については、気象庁や海上保安庁など、関連機関との情報共有を行っている。

 平成22、23年度の海洋地質調査航海では、久米島西方海域で複数のカルデラ地形を伴う海底火山を確認し、平成24年の航海では新たな海底熱水活動を発見した(平成24年12月12日 産総研プレス発表)。さらに、平成25年度には、最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」およびその搭載観測機器を用いて海洋地質調査を実施し、新たな熱水活動域を発見している(平成25年9月9日 産総研プレス発表)。今回の調査は、これらの航海で得られた海洋地質情報を検討した結果を踏まえて硫黄鳥島周辺海域で実施した(図1)。

海洋地質調査の実施場所の図
図1 海洋地質調査の実施場所
黒丸が久米島西方海域、赤丸が徳之島西方・硫黄鳥島周辺海域

研究の内容

 硫黄鳥島周辺海域で行った海洋地質調査では、マルチナロービーム測深機(MBES)による広域で詳細な海底地形調査、サブボトムプロファイラーによる表層地層探査、計量魚群探知機による音響異常調査、ドレッジグラブ採泥器により海底の岩石と堆積物の採取を実施した。

 MBESによる地形調査により、硫黄鳥島と呼ばれる海底の隆起部が複数のカルデラから構成される大型の火山であることが明らかとなった(図2)。また、計量魚群探知機の調査により、プルーム状の音響異常が確認された(図3)。音響異常のあった海域で有索式無人潜水艇(ROV)によるリアルタイム海底観察を行い、複数の海底面からのガスの発泡と熱水の噴出口を確認した(図4)。熱水活動や発泡活動が確認できた地域の一つは水深が200 m以浅であった。熱水活動がさらに活発化すると、その影響が海面上にまで及ぶ可能性があるため、日本周辺の海運の安全を確保する上で、この発見は重要な情報となる。

MBESによる地形調査結果の図
図2 MBESによる地形調査結果
右から4番目、下から5番目のマスにある、ひょうたん型の黒い場所が硫黄鳥島。

計量魚群探知機で観測されたプルーム状の音響異常の図
図3 計量魚群探知機で観測されたプルーム状の音響異常
(左)火山山頂部で確認された水深200 m以浅の熱水活動
(右)火口状地形で確認された熱水活動
色の違いは反射強度を示している。赤は強い反射、青が弱い反射。

ROVが撮影したガスの発泡と熱水の噴出口の写真
図4 ROVが撮影したガスの発泡と熱水の噴出口


 また、硫黄鳥島周辺海域の海底より火成岩である玄武岩、安山岩、デイサイト、流紋岩を採取した。特に北方海域の調査では、プルームを確認するとともに、ドレッジにより、多金属塊状硫化物を採取した。多金属塊状硫化物の生成は、有用元素が海底下で濃集する過程が存在することを示す。世界中の熱水活動域として500カ所以上が報告されているが、高温の熱水噴出を伴うのは約300カ所である。その中で塊状硫化物が発見されたのは165カ所しかなく、今回の発見は我が国周辺海域の資源ポテンシャルを把握する上で貴重な情報の一つである。

今後の予定

 今回の調査結果より、硫黄鳥島堆がごく浅海の活動的な海底熱水活動の密集地帯であることが明らかとなった。このため、火山防災上万全を期す観点から、すでに海上保安庁と共有しているほか、気象庁火山噴火予知連絡会にも報告し、活火山に該当するかどうかや噴火活動に至る危険があるかどうかなどが検討される予定である。

 また、硫黄鳥島北方海域で明らかとなった多金属塊状硫化物の生成を伴う熱水活動については、今後、経済産業省およびJOGMECとの密接な連携のもと、資源ポテンシャルなどに関するさらなる検討を行っていく予定である。



用語の説明

◆多金属塊状硫化物
3種類もしくはそれ以上の金属元素を含む塊状の硫化物。銅、亜鉛、鉛、鉄などの硫化鉱物で構成される。[参照元へ戻る]
◆1952年の伊豆諸島南部での明神礁噴火
1952(昭和27)年9月24日に、噴火を観測中の海上保安庁の測量船「第五海洋丸」が爆発的な活動に巻き込まれ、乗務員・観測員を含む全31名が犠牲となった。[参照元へ戻る]
◆資源探査タスクフォース
日本周辺海域に分布する海洋鉱物資源の権益を確実に保全するため、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と産総研が協同で有望海域を絞り込み探査候補地を特定するために設置したタスクフォース(平成25年8月7日 JOGMECニュース発表)。[参照元へ戻る]
◆マルチナロービーム測深機(MBES)
調査船の船底から扇状に発信される多数の音響ビームで、海底面からの反射を受信して海底の細かい水深を広範囲で計測する装置。[参照元へ戻る]
◆サブボトムプロファイラー
調査船の船底から発信する音波を使って海底面や海底面下の地層からの反射波をとらえ、海底表層の地質構造を調べるための装置。[参照元へ戻る]
◆計量魚群探知機
魚群探知機の一種で船底から海中に発射された超音波の反射を利用して魚の大きさや数を調べる装置。[参照元へ戻る]
◆ドレッジ、グラブ採泥器
海洋調査で底質を採取するための装置。採泥器はグラブなどにより未固結の堆積物を採取し、ドレッジは鋼鉄製の円筒・角形の容器を海底で曳航することで固結した岩石を採取する。[参照元へ戻る]
◆堆(たい)
比較的浅い海底の隆起部。船舶の航行に支障がない水深であり、比較的平坦な頂部をもつ。[参照元へ戻る]
◆プルーム
上下方向にできる流体の流れで、流体の底を持続的に加熱した場合などに生じる。熱水プルームは熱水の比重が周囲の海水と比べて小さいうちは上昇するとされる。ここでは、海底面から立ちのぼる音響異常を示している。[参照元へ戻る]
◆有索式無人潜水艇(ROV)
船上から遠隔操作して、海底面の観察や試料採取を行うことのできる無人の潜水艇。[参照元へ戻る]
◆活火山
活動的な火山のことで、気象庁・火山噴火予知連絡会では、「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義している。南西諸島地域ではこれまで、硫黄鳥島と西表島北北東海底火山が認定されている。海域では、水深500 m以浅に達する火山で活動記録(海面上へ影響を及ぼす活動実績)があるものが認定対象になっている。[参照元へ戻る]


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