発表・掲載日:2013/10/28

世界最小、配線幅3μmの超微細インクジェット銅配線技術を開発

-次世代IC基板や超小型プリント基板へ応用-


 NEDOと(株)SIJテクノロジ、(株)イオックス、日本特殊陶業(株)、(地独)大阪市立工業研究所、(独)産業技術総合研究所は、インクジェット方式による銅配線で世界最小線幅となる3μmの超微細配線形成技術を開発しました。今回開発した技術はインクと基板の十分な密着力によりICパッケージ基板に求められる信頼性を確保しつつ、低抵抗で微細な銅配線を形成でき、スマートフォンやICタグに利用される次世代IC基板や超小型プリント基板などへ展開が可能です。今後さらにこの技術を発展させ高精細な3次元実装への応用を目指します。

*NEDOプロジェクト「ナノ粒子と極低酸素技術による超微細銅配線樹脂基板のインクジェット形成技術の研究」(期間:2010年10月~2013年9月、事業総額:1.3億円)の成果によるもの

*上記成果は以下の期間一般公開予定
   2013年10月31日~11月1日に産総研つくばセンターにて開催される産総研オープンラボ
   2014年1月29日~1月31日に東京ビッグサイトにて開催されるnanotech 2014 NEDOブース

超微細インクジェット描画装置と描画例の写真
図1:超微細インクジェット描画装置と描画例

1.背景

 現在、市場が大きく拡大しているスマートフォンに用いられるLSIでは高機能化が著しい速度で進んでいます。このようなLSIではICチップの小型化とICチップ端子数の増加が顕著であり、ICパッケージ用配線パターン描画のさらなる微細化が望まれています。ところが、従来のICパッケージ用配線パターン作製工程には、フォトリソグラフィー装置が用いられており、微細なパターン描画の限界を迎えています。本プロジェクトで研究された超微細インクジェット技術は、従来のICパッケージ基板用フォトリソグラフィー装置では実現が難しいマイクロメートルオーダーの配線パターン作製が可能であり、また従来のフォトリソグラフィーで発生する有機廃液、エッチング液廃液を大幅に削減できることから、環境にも非常にやさしい技術です。本技術は高機能化するスマートフォン市場を支え、また環境に配慮できる技術として注目されています。

超微細インクジェット描画装置と描画例の写真
図2:ICパッケージ 図3:微細配線

2.今回の成果

 今回の成果として特に以下の3点があげられます。

  • ナノ粒子製造技術により、インクジェットの吐出性に優れた銅ナノ粒子インクを開発
  • 超微細インクジェット技術により、デジタルデータに基づき配線幅3μmの銅配線を直接描画
  • 極低酸素還元技術を進化させ、銅の配線抵抗率4μΩ・cmを達成

 ICパッケージ基板に求められる信頼性を達成するために、インクと基板との十分な密着力を実現しつつ、インクジェット方式に適合する銅ナノ粒子インクを開発しました。その銅ナノ粒子インクを用い、インクジェット適合性評価や吐出条件の最適化などにより、超微細インクジェット技術で線幅3μm、ピッチ6μmのラインをエポキシ基板上に直接形成することに成功しました(図4、5)。本手法では、版を作ることなく、パソコン上のデジタルデータのみに基づいて、微細配線が形成できます。銅インクで必須となる還元焼成については、極低酸素還元技術を進化させた新プロセスの開発に成功し、配線の抵抗率を4μΩ・cmまで低減させることができました。インクジェット技術による銅配線形成において、線幅3μmかつ配線抵抗率4μΩ・cmは、これまでで最も優れた値です。

本技術による成果(線幅3μm、ピッチ6μm)の写真
図4:本技術による成果(線幅3μm、ピッチ6μm)

配線パターンサンプルの写真
図5:配線パターンサンプル(実物写真)

3.今後の予定

 本プロジェクトでは各要素技術の有効性、実用化に向けた問題点の洗い出しおよび方向性の検証を行いました。今回得られた成果を基に、今後は実用化に向けた開発フェーズに移行し、製品化を目指します。本成果は次世代ICパッケージ基板だけでなく、スマートフォンを初めとする小型情報通信端末向けの超小型プリント基板、ICタグなどのRFID用アンテナなどの新規産業へ展開していく予定です。 



用語の説明

◆3次元実装
複数のチップをパッケージ内で3次元方向に積層して実装する技術です。メモリーやマイコンで用いられ、ワイヤボンディング技術を使い、チップとチップ、あるいはインターポーザーを接続することが一般的です。[参照元へ戻る]
◆超微細インクジェット技術
超微細インクジェット技術は、(独)産業技術総合研究所が発明した独自の吐出方式(特許登録済み)により、0.1 fl(フェムトリットル)~10 pl(ピコリットル)の超微量な液滴から比較的大きい液滴までの吐出制御が可能であり、かつ非加熱で0.5~10,000 cps(センチポワズ=mPa・s)の低粘度から高粘度まで幅広い粘度範囲で吐出が可能な技術です。また、当該技術は経済産業省2010年版技術戦略マップ、ナノテクノロジー分野の技術マップにおいて、ナノプロセスのうち主要なトップダウン手法(大きなものから小さなものを生み出す微細加工技術の総称)の一つとして挙げられています。[参照元へ戻る]
◆ナノ粒子
物質をナノメートル(10億分の1メートル)のサイズの粒子にしたもの。[参照元へ戻る]
◆極低酸素還元技術
一般のガスを透過せず、酸素イオン(酸化物イオン)を透過させる能力を持つ固体電解質は燃料電池の基本構成要素として知られています。一方この物質に外部から電圧を掛けることで、酸素ガスのみを輸送するポンプとして動作させることができます。(独)産業技術総合研究所はキヤノンマシナリー(株)との共同研究で、この酸素ポンプを不活性ガスの循環系に適用することにより、600℃における酸素分圧が10-30気圧を切るような極低酸素分圧の発生に成功しました(特許登録済み)。低い酸素分圧は強い還元力を意味し、窒素やアルゴンといった不活性ガスの酸素分圧を下げることで、強い還元性雰囲気を作り出すことができます。このような雰囲気中での熱処理により、銅などの金属を比較的低温で還元し、金属粒子表面の酸化膜を除去する技術が極低酸素還元技術です。[参照元へ戻る]
◆配線抵抗率
電気の通り易さを比較するための物性値。抵抗の大きさは長さに比例し、断面積に反比例するので、寸法によらない指数として抵抗率という値を用います。電気抵抗率、比抵抗とも呼ばれます(単位は[Ω・m]または[μΩ・cm])。電気抵抗R[Ω]の値は、抵抗率をρ[Ω・m]、導体の長さをL[m]、導体の断面積をA[m2]とすると、R = ρ・L/A、すなわち抵抗率は、ρ = R・A/L で表されます。抵抗率は温度や不純物の量などさまざまな条件により変化し、室温20℃での各種金属の抵抗率の値はそれぞれ、銀 1.59、銅 1.68、金 2.21 [μΩ・cm]になります。[参照元へ戻る]


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