独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 近江谷 克裕】 生物時計研究グループ 大石 勝隆 研究グループ長は、株式会社 日清製粉グループ本社【代表取締役社長 大枝 宏之】(以下「日清製粉グループ本社」という)、オリエンタル酵母工業株式会社【代表取締役社長 中川 真佐志】(以下「オリエンタル酵母工業」という)と共同で、食餌性肥満モデルマウスを用いて、小麦ポリフェノールが持つ活動リズム改善効果や、肥満や耐糖能異常の抑制効果を発見した。
今回、小麦の表皮に含まれる小麦ポリフェノールが、食餌性肥満モデルマウスの活動リズムの乱れや耐糖能異常を抑制し、顕著な抗肥満効果を示すことを明らかにした。小麦ポリフェノールを含む全粒粉の摂取による、糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームなどの代謝異常の予防につながる可能性が期待される。
なお、この成果の詳細は、2013年5月24~26日に国立大学法人 名古屋大学(愛知県名古屋市)で開催される第67回日本栄養・食糧学会大会で発表される。
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図1 小麦ポリフェノールによる活動リズム改善効果と肥満抑制効果 |
近年、社会の24時間化や食生活の乱れが、体内時計に影響し、睡眠障害やうつ病などの精神疾患だけでなく、肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病も増加させている可能性が指摘されている。特に食の西洋化に伴う摂取カロリーの増加は、直接的に代謝異常を誘発するだけでなく、行動の夜型化を誘発し副次的に代謝異常を悪化させる可能性が指摘されている。しかし、今のところ体内時計の乱れを根本的に治療するための薬剤はなく、食品の機能性を利用した生体リズム改善法の開発が期待されている。
産総研は、体内時計の乱れによる疾患発症メカニズムの解明とともに、生体リズムの積極的な制御による疾患の予防・改善方法の開発を目指している。近年、ポリフェノールの様々な機能性が注目されている。2011年より産総研は、日清製粉グループ本社、オリエンタル酵母工業と共同で、日常的に摂取可能な食品成分である、小麦全粒粉や小麦ブランに含まれる小麦ポリフェノールの新規機能性について研究を行ってきた。
体内時計は、摂食のタイミングや食餌の内容によって影響を受ける。マウスなどのげっ歯類を用いた研究により、高脂肪食の摂取が、活動時間帯の夜型化を誘発することが報告されている。今回は、活動リズムの夜型化や、耐糖能異常、肥満などを示す食餌性肥満モデルマウスを用いて、小麦ポリフェノールの機能性についての評価を行った。
マウスを、普通食摂取群、高脂肪高ショ糖食摂取群、小麦ポリフェノール0.4 %入り高脂肪高ショ糖食摂取群、の3群にわけ、10週間にわたって飼育し、活動リズムと体重を測定して比較した。また、試験終了時に、糖負荷試験によって耐糖能を評価するとともに、肝臓の組織を採取して、脂質の蓄積を調べた。
夜行性であるマウスは、通常暗期の前半に活動量がピークとなるが、高脂肪高ショ糖食を摂取したマウスでは、10週後には活動量のピークが暗期の後半にずれこみ、活動リズムの夜型化が観察された(図1)。一方、高脂肪高ショ糖食とともに小麦ポリフェノールを摂取したマウスでは、活動リズムの夜型化が見られず、活動リズムの改善効果があることが分かった。
さらに小麦ポリフェノールを含んだ高脂肪高ショ糖食を摂取したマウスの体重変化は普通食を摂取したマウスとほぼ同様であり、小麦ポリフェノールが高脂肪高ショ糖食摂取による体重の増加を抑制することも分かった(図1)。
耐糖能試験によってマウスの糖代謝機能への影響を検証した結果、10週間の高脂肪高ショ糖食摂取による耐糖能の低下が、小麦ポリフェノールの同時摂取により抑制されていた(図2)。また、肝臓における脂質の蓄積を比較した結果、高脂肪高ショ糖食摂取による脂質の蓄積が、小麦ポリフェノールの同時摂取により抑制されていることが分かった(図3)。
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図2 小麦ポリフェノールによる耐糖能低下の抑制効果 |
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図3 小麦ポリフェノールによる脂肪肝の抑制効果 |
今回の研究成果は、小麦の表皮に含まれる小麦ポリフェノールの新たな機能性を示すものである。今後、産総研、日清製粉グループ本社、オリエンタル酵母工業の共同研究により、小麦ポリフェノールによる活動リズム改善効果や抗肥満効果の分子メカニズムの解明を目指す予定である。