独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【研究部門長 千葉 光一】量子放射科 放射能中性子標準研究室 海野 泰裕 研究員、柚木彰 研究室長、齋藤 則生 研究科長、無機分析科 無機標準研究室 三浦 勉 研究室長は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構【理事長 堀江 武】 食品総合研究所 【所長 林 清】(以下「食総研」という)放射性物質影響ワーキンググループと共同で、放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質を開発した。
この認証標準物質は、2011年に収穫された玄米を、食総研で十分な混合により均質化し、その放射能を産総研のゲルマニウム半導体検出器で測定し、放射性セシウム濃度の値付けを行ったものである。放射能の検査機関における測定の妥当性確認に用いることができ、放射能測定の信頼性向上への貢献が期待される。開発した認証標準物質は、2012年8月31日から委託事業者を通して頒布を開始する。
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頒布する放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質 |
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、放射性物質による食品の汚染が懸念され、多くの検査機関で放射能測定が行われている。検査機関では、公益社団法人 日本アイソトープ協会が頒布している標準ガンマ体積線源を用いて測定器を校正し、測定のトレーサビリティを確保している。しかし、食品中に含まれる放射性セシウムの放射能を測定する場合、放射能が微小であるため、装置が置かれた場所の放射線や、測定試料中の放射性セシウム以外の放射性物質の影響を受け、正しい測定ができている確証が得られない場合がある。そこで、測定対象と類似の物質で構成され、同程度の放射能をもち、放射能の値が分かっている認証標準物質を測定し、認証値と同じ結果が得られることを検査機関が自ら確認し、評価することが重要となる。そのため、放射能測定用認証標準物質の頒布が求められていた。
産総研は、放射能の国家計量標準を維持し放射能標準を供給するとともに、放射能の高精度測定法を開発してきた。食総研は、食品研究の専門機関として、食品の安全性・信頼性確保と革新的な流通・加工技術の開発、食と健康の科学的解析など、幅広い研究を行ってきた。両研究所は、東京電力福島第一原子力発電所の事故で生じた放射性物質による広範囲の汚染に対応して、2011年に収穫した放射性セシウムを含む玄米を原料とした認証標準物質の開発に取り組んだ。放射能の認証値の決定に際しては、産総研のほかに、財団法人 日本分析センターおよび公益社団法人 日本アイソトープ協会で放射能測定を行い、産総研の測定結果を検証した。完成した認証標準物質は国や地方自治体、地方衛生研究所、登録検査機関などを中心に広く活用されることが期待できる。
今回頒布する放射性セシウムを含む玄米の認証標準物質の仕様は、次の通りである。
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容器 標準U8容器(外径 55 mm、高さ55 mm)
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試料 玄米粒
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試料量 81 g(正味質量)
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放射能濃度 セシウム134とセシウム137の合計で約85 Bq/kg
作製に当たっては認証標準物質生産に関する国際規格であるISOガイド34およびISOガイド35、ならびに試験所や校正機関が有するべき能力を定めた国際規格であるISO/IEC 17025に従った。開発の手順は次の通りである。
先の東日本大震災に伴う原子力発電所事故に由来する、放射性セシウムを含む約60 kgの玄米を食総研において均質化し、標準U8容器に81 gずつ詰めて試料とした。次に、産総研で、全試料の中から12個をサンプリングし均質性を評価した。その結果、試料の放射能測定値のばらつきは、相対標準偏差で3 %程度であり、サンプリングの範囲では放射能が大きく外れた試料はなかった。そこでこの試料を用いて標準物質を作製することとし、産総研で認証値の付与のためにゲルマニウム半導体検出器を用いて放射能測定を行い、その結果から放射能濃度を決定した。
今回頒布する認証標準物質の放射能濃度は約85 Bq/kgであり、厚生労働省による一般食品の放射性セシウムの基準値(100 Bq/kg )より若干低い。そのため、検査機関がこの認証標準物質の放射能を正しく測定できれば、基準値を超える食品の放射性セシウムの測定ができることの確証となる。
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認証値の付与のための放射能測定に用いた外径110 mmのゲルマニウム半導体検出器 |
開発した認証標準物質は、2012年8月31日から委託事業者を通して頒布する。頒布価格は、U8容器入り1個当たり1万円程度の予定。