発表・掲載日:2012/05/01
電子スピンの共鳴運動を電圧で制御することに成功
-超低消費電力スピンデバイスの基盤技術を開発-
JST 課題達成型基礎研究の一環として、産業技術総合研究所(元 大阪大学大学院 基礎工学研究科)の野崎 隆行 研究員は、大阪大学 大学院基礎工学研究科 鈴木 義茂 教授らの研究グループと共同で、超薄膜化した磁石を用いて、電子スピン注1)(磁気)の共鳴運動を電流ではなく電圧で制御することに成功し、超低消費電力デバイス(電子素子)の基盤となる技術を開発しました。
電子が持つ磁石としての性質であるスピンを利用した、新しい情報処理技術「スピントロニクス注2)」は、低消費電力で環境に優しいグリーンITの最有力候補として期待されています。スピンは、振り子にタイミング良く力を与えると同じ力でも強く揺れるのと同様に、小さな入力によって大きな運動を効率よく起こすことができる共鳴という特長を持っています。最近、この共鳴運動の高効率という特長を利用した磁気記録や磁気メモリーに期待が高まっており、共鳴運動はスピンの高効率利用の要として注目されています。
ところが、これまで情報処理には電流や磁界によってスピンを制御していましたが、ジュール熱注3))によるエネルギー損失が超低消費電力化の障壁となっていました。この問題を根本的に解決するため、電圧によるスピン共鳴運動の制御法の開発が強く望まれてきました。
本研究グループは、ありふれた磁石材料である鉄コバルト合金を、数原子分まで超薄膜化し、そこに絶縁体を介して高周波電圧を加えることによって、スピンの共鳴運動を誘起することに成功しました。磁石材料におけるスピン共鳴運動の制御は世界初であり、この技術により、従来の電流駆動型と比較して200分の1以下の低消費電力化が可能になることも確認しました。
今回開発した技術は、すでに応用に用いられている材料を数原子層まで薄くするナノ製造技術によって初めて達成されたもので、今後は磁気メモリーや磁気記録、さらには現在開発が進められているスピンを用いた低損失情報伝送や論理素子など、さまざまなスピンデバイスに応用され、低消費電力駆動と高密度化を飛躍的に促進すると期待されます。
本研究成果は2012年4月29日(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Physics」のオンライン速報版で公開されます。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
研究領域:「ナノ製造技術の探索と展開」
(研究総括:横山 直樹 産業技術総合研究所 連携研究体 グリーン・ナノエレクトロニクスセンター 連携研究体長/株式会社富士通研究所 フェロー)
研究課題名:「ナノ構造スピン系の電界制御」
研究者:野崎 隆行 産業技術総合研究所 ナノスピントロニクス研究センター 研究員
(元 大阪大学 大学院基礎工学研究科 助教)
研究期間:平成20年10月~平成24年3月31日
JSTはこの領域で、ナノテクノロジーの本格的な実用化時期に必須となる「ナノ製造技術」の基盤を提供することを目的としています。
研究の背景と経緯
省エネルギーで環境に優しい情報技術である「グリーンIT」の実現のため、低待機・駆動電力のナノエレクトロニクスデバイス技術の開発が求められています。電子が持つ磁気的な性質であるスピンを利用することで、新しい機能の発現を目指す「スピントロニクス」もその1つです。電力を供給しなくても記憶が保持できる磁石の不揮発性を利用することで、待機電力がほとんど要らない磁気メモリーなどの開発が進められています。例えば、磁石で非常に薄い絶縁体をサンドイッチした構造からなるトンネル磁気抵抗素子注4))は電源を切っても情報が失われない待機電力ゼロの低消費電力メモリー素子として実用化段階に入っています。
スピントロニクスにおいて重要な基盤技術の1つが、共鳴現象を利用したスピンの集団運動である強磁性共鳴です。振り子を揺らした時に、うまくタイミングを合わせると同じ力でも強く揺らすことができる(共振)ように、磁石の中のスピンも、固有の周波数に同調した入力を行うことで、小さなエネルギーにより高効率な運動制御が可能です。この共鳴現象はこれまで基礎物理の解明手段や磁石材料の特性評価法としてよく用いられてきました。最近ではその高効率の特長を生かして、磁気記録や磁気メモリーにおけるスピン反転アシスト技術や、低損失情報伝送・論理素子への利用が検討されているスピン波注5)や純スピン流注注6)を生成する技術としての重要性が高まっており、新しいスピンデバイスの道を開く可能性を持っています。
これまでは、外部配線に交流電流を流すことによって発生する磁界(電流磁界)や素子に直接電流を流すことでスピンに作用する力、スピントルク注7)などを用いて共鳴運動の制御が行われてきましたが、どちらも非常に大きな電流を必要とするため、ジュール熱によるエネルギー消費(抵抗損失)が発生し、低消費電力制御が困難でした。
この問題を根本的に解決するために、磁界や電流ではなく、電圧によってスピンの状態(向き、運動など)を制御することが理想的な低電消費力化技術として長く望まれてきました。これまでにも、電力を圧力に変えるピエゾ素子と磁石を複合させた素子において機械的な歪(ひずみ)を利用して制御する方法や、磁性半導体、マルチフェロイック材料などの磁気的な性質と電気的な性質の結合を有する材料を利用した方法が試みられてきましたが、①室温で動作する、②固体素子に適用できる、③繰り返し情報を書き込みできる高い耐性を持つ、④高周波信号の入力が可能である、⑤情報を出力する構造(トンネル磁気抵抗素子など)との複合化が容易であるなど、実際のデバイスで要求される特長を全て満たすものは見いだされていませんでした。
本研究グループでは近年、ごく一般的な金属磁石材料である鉄において、スピンの特定の方向への向きやすさ(磁気異方性)を電圧で制御できることを発見いたしました(参考論文1)。通常は、金属材料に電圧を加えても含まれる電子数が非常に多いためにその効果は遮蔽(しゃへい)されてしまいますが、鉄の膜厚を数原子層まで超薄膜化させることによってその効果を顕在化させることができます。さらにその後、この技術を用いて双方向スピン反転制御(注4参照)にも成功しています(参考論文2)。そして、最後に残された基盤技術として、上記の共鳴運動の制御法の開発が望まれていました。
研究の内容
コマの回転軸が傾いた状態で回転する運動は歳差運動、もしくは首振り運動と呼ばれ、身近に観察することができる物理現象です(図2(a)参照)。このように回転体(=角運動量を持つ)に回転軸を変えようとする力(コマの場合は重力)が働くと、その力の直角方向に回転軸が動くように力が働きます(ジャイロ効果)。
スピンは角運動量であるため(注1、図1参照)、外から静磁界を加えると、コマと同様に歳差運動が起きます。しかし、コマが床との摩擦でいずれ倒れてしまうように、スピンもさまざまな摩擦の影響によって、やがて磁界の方向に向いて運動は止まってしまいます。そこで、静磁界と直交するように、スピンの共鳴周波数と同じ周波数で変化する高周波磁界を加えると、エネルギーの供給を受けて定常的に効率の良いスピン歳差運動を持続することができます(図2(b)参照)。磁石の場合はたくさん含まれるスピンが集団で揃って歳差運動を行い、この現象を強磁性共鳴と呼びます。
上記の例は磁界による共鳴ですが、電圧によってこの運動を制御する方法はこれまで分かっていませんでした。鉄などのごくありふれた金属磁石においては、電圧とスピンの相互作用は期待できないというのがこれまでの常識でした。しかし、磁石を数原子層まで超薄膜化し、絶縁層を介して電圧を加えると、界面に蓄積する電子によって電子軌道の占有状態が変調され、スピンの向きやすい方向(磁気異方性)を制御することが可能であることが最近分かってきました。スピンの向きやすさが変わるということは、見かけ上外部から磁界を加えているのと同等の効果が得られます(有効磁界)。
本研究では、図3に示すような超薄膜磁石/絶縁層/対向電極からなる積層構造に対して、超薄膜磁石のスピンの共鳴周波数に一致する高周波電圧を加えて、共鳴運動が起こるかどうかを検討しました。具体的には、超薄膜磁石に鉄コバルト合金(FeCo)、絶縁層に酸化マグネシウム(MgO)、対向電極に磁石材料である鉄(Fe)を用いた強磁性トンネル接合素子を作製しました(図4)。FeCo層の下部に配置されている金(Au)はFeCo層のスピンを膜面垂直方向に向きやすくさせるために用いています。MgOの膜厚を比較的厚く設計することにより、電流がほとんど流れないように工夫しています。この素子に高周波信号発振器から高周波電圧を加えると、超薄膜FeCo層のスピンに対して、周期的な有効磁界が膜面垂直方向に働きます。その結果、外部から加えた静磁界の周りを回転するように共鳴運動を誘起することに成功しました(図4)。
図5は観測された共鳴信号の例です。共鳴が生じる周波数は外部磁界強度に依存して変化し、その挙動は理論予測とよく一致することも確認されました(図5挿図)。
電圧によるスピンの共鳴運動の制御は、磁石材料の種類(金属、酸化物、半導体など)や実験温度に関わらず、世界で初めてとなります。さらに、超薄膜を用いるというナノ製造技術を利用するだけで、すでにハードディスクの磁気ヘッドや磁気メモリーなどの応用に用いられている代表的な材料および構造において実証に成功した点は非常に重要であり、迅速な応用デバイスへの展開が期待されます。
他の研究で用いられている技術(電流磁界型、スピントルク型)と比較すると、電流磁界型の場合、外部の配線に電流を通電することで発生する磁界を用いるため、磁界が空間的に広がり、ナノスケールの微小素子に磁界を集中して加えることが困難となります。さらに、スピンと磁界との相互作用が間接的であるため、磁界発生に用いられたエネルギーのほとんどが無駄となり、非常に消費電力が高くなってしまいます。スピントルク型の場合、素子に直接通電させることでスピンと電荷の直接的な相互作用を誘起させるため、電流磁界型と比較して高効率で単一素子に集中して共鳴運動を制御することができます。しかしながら、電流を用いる限りジュール熱によるエネルギー損失は避けられません。一方、本研究で開発した電圧型は、単一素子へのアクセスが可能であり、かつスピントルク型と比較して約200分の1の低消費電力化が可能であることが確認できました(図6)。
今後の展開
本成果で開発された電圧による共鳴運動制御法を用いることで、微小磁石のスピンの運動を低消費電力で制御することが可能となりました。この技術は磁石を数原子層まで超薄膜化するナノ製造技術によって実現可能となったものであり、これまで応用に用いられてきた材料・構造をそのまま適用できることが重要なポイントです。
現在のハードディスクでは、磁気記録密度の増大(記録ビットの微小化)に伴って大きな磁気異方性を有する磁石材料が利用されるようになってきています。これは熱エネルギーによって情報が失われないために必要な対策ですが、一方で情報を書き込むために大きな磁界が必要となるため、外部からエネルギーアシストをしなければ制御できない状況にまで達しています。その打開策の1つとして、外部より高周波磁界を加えることで共鳴運動を引き起こし、スピンの反転に必要な磁界を下げる(マイクロ波アシスト磁化反転)ことが検討されていますが、現在の電流による制御では書き込みのエネルギーが非常に大きくなってしまいます。今回実証した高周波電圧による共鳴制御を磁気記録の書き込みプロセスに導入することができれば、超低消費電力なアシスト法を提供することが原理的に可能であり、さらなる記録密度の増大に寄与できると期待されます。同様の原理は磁気メモリー素子にも適用可能であり、特定の素子のみ共鳴運動でスピン反転に必要なエネルギーを下げることで、選択的に低エネルギーで情報を書き込むことも可能になります。
一方、最近の新しい展開として、スピンの揺らぎ(スピン波)やスピン角運動量(純スピン流)の流れを利用した情報伝送、さらにそれを用いた論理演算素子が提案されています。これらの技術の特長は電荷の流れを伴わないため、ジュール熱による損失がない低損失伝送が可能であるという点です。しかしながら、現状でこれらの流れを生成するためには電流が必要であり、信号の生成に大きなエネルギーを必要とする点が応用展開の弊害となっています。本研究で開発した電圧によるスピン共鳴制御は、これらの信号を低消費電力で、ナノスケールの微小領域においても生成可能であり、新たなスピンデバイスの低消費電力駆動化を飛躍的に促進すると期待されます。
半導体分野において電流駆動型のバイポーラトランジスタから電圧駆動型のCMOSへの変遷が大きなイノベーションを生み出したように、電圧によるスピン制御はスピンを用いたナノエレクトロニクスを真にグリーンITに押し上げるための重要な基盤技術となると期待されます。
今後は実デバイスへの適用を検討するとともに、さらなる低電圧駆動化を目指して、電圧によってスピンの向きやすさが高感度で変化する磁石材料、絶縁層材料の探索を進める予定です。
参考図
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図1 スピン角運動量と磁気モーメントの関係 |
スピンの状態には上向きと下向きの2つの状態が存在します。このスピン角運動量により電子は小さな永久磁石となっていると考えることができます。このスピンを起源として磁石の磁気モーメント(S極からN極方向へのベクトルで定義される)が発生しますが、スピンは角運動量であるためその方向は逆方向となります。単位体積あたりの磁気モーメントを磁化と呼び、磁石の強さを表します。
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図2 コマとスピンの歳差運動 |
(a)コマの歳差運動のイメージ図。ジャイロ効果によって、回転軸が鉛直軸の周りを回転する現象です。
(b)スピンの歳差運動のイメージ図。(ここでは直感的な理解を容易にするため、スピンと逆方向を向く磁化の方向(S極からN極への方向)を赤矢印で示しています(注1参照))。静磁界下において、スピンの共鳴周波数と同じ周波数を持つ高周波磁界を加えると、高周波磁界のエネルギーが効率的に吸収され、共鳴による歳差運動が定常的に引き起こされます。
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図3 電圧によるスピンの共鳴運動制御の概念図 |
超薄膜磁石/絶縁層/対向電極からなる接合構造において、超薄膜磁石と対向電極間に高周波電圧を加えると、超薄膜磁石のスピンは周期的に有効磁界の変動(黄色矢印)を感じます。そのため、スピンの共鳴周波数と同じ周波数を持つ高周波電圧を加えることによって、静磁界下において共鳴による効率的な歳差運動を引き起こすことができます。
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図4 実験に用いた素子、および測定回路の模式図 |
図3で説明した原理により、高周波信号発信器を用いてトンネル接合素子に高周波電圧を加えると、超薄膜FeCo層のスピン(上図では磁化を矢印で示しています)に共鳴運動が引き起こされます。磁気抵抗効果に起因する素子抵抗の時間的な変動と、素子に微量に流れるトンネル電流により直流電圧が発生するため、素子両端に発生する直流電圧を測定することで共鳴運動を電気信号として検出することが可能になります。
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図5 電圧による共鳴運動制御の検出例 |
本研究で観測された共鳴信号の例。さまざまな強さの磁界下において、特定の周波数に分散型の信号が観察され、共鳴運動が引き起こされていることが確認できました。挿図は共鳴周波数の外部磁界強度依存性の実験データ(黒点)と理論予測(赤線)を示しています。
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*消費電力は断面積100×100nm2の微小磁石において、振れ角1度の共鳴運動を引き起こすために要するエネルギーに換算しています。
図6 電流(電流磁界、およびスピントルク)および電圧による共鳴運動制御の素子スケーリング、消費電力比較表
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電流磁界による制御方法は配線周りに発生する磁界を用いるため、単一素子に集中して磁界を加えることが困難であり、かつ消費電力が大きくなります。スピントルク型の場合、素子への直接通電によって引き起こすこと可能であるため、単一素子へのアクセスが容易であり、また、電流磁界と比較すると低消費電力となりますが、ジュール熱によるエネルギー損失は避けられません。今回開発した電圧による制御は単一素子へのアクセス性と低消費電力性を同時に満たす理想的な方法であると言えます。
付記
本成果は大阪大学 大学院基礎工学研究科の鈴木 義茂 教授らとの共同研究によって得られたものであり、実験は主として大阪大学で実施されました。
論文タイトル
“Electric-field induced ferromagnetic resonance excitation in an ultrathin ferromagnetic metal layer”
(超薄膜強磁性金属層における電界強磁性共鳴励起)
参考論文および資料
<参考論文1>
“Large voltage-induced magnetic anisotropy change in a few atomic layers of iron”
(数原子層Feにおける巨大な電圧誘起磁気異方性変化)
T. Maruyama, Y. Shiota, T. Nozaki et al. Nature Nanotechnology 4, 158 (2009).
関連資料 http://www.suzukiylab.mp.es.osaka-u.ac.jp/Top/090116press.pdf(PDF:319KB)
<参考論文2>
“Induction of coherent magnetization switching in a few atomic layers of FeCo using voltage pulses”
(数原子層FeCoにおけるパルス電圧誘起コヒーレント磁化反転)
Y. Shiota, T. Nozaki et al. Nature Materials 11, 39 (2012).
関連資料
http://www.suzukiylab.mp.es.osaka-u.ac.jp/topics/press2011-11-11.pdf(PDF:313KB)
用語解説
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参考図:トンネル磁気抵抗素子の模式図。絶縁体の上下に配置された磁石のスピンが平行、反平行の場合で抵抗値が異なる特長を持っています。 |
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◆注1)スピン
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電子が有する角運動量を表現する内部自由度の1つであり、自転運動として説明された歴史からスピン(角運動量)と呼ばれるようになりました。スピンの状態には上向きと下向きの2つの状態が存在します。このスピン角運動量により電子は小さな永久磁石となっていると考えることができます。このスピンを配列させることによって永久磁石が作られ、その配列を制御することで磁気記録が行われています。[参照元へ戻る]
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◆注2)スピントロニクス
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従来の半導体を用いたエレクトロニクスでは、電子が有する"電荷"の性質のみを利用してダイオードやトランジスタなどのさまざまなデバイスが開発されてきました。スピントロニクスでは、電荷だけでなく電子が持つ磁石としての性質であるスピン(注1参照)をエレクトロニクスに導入することによって、これまでの技術では実現できなかった機能を有する新しいデバイスを創出することを目指しています。[参照元へ戻る]
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◆注3)ジュール熱
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抵抗体を電流が流れることによって発生する熱。ヒーターなど、ジュール熱を積極的に利用する電化製品もありますが、電子機器などでは入力したエネルギーが本来の目的には無用な熱として損失されるため問題となります。 [参照元へ戻る]
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◆注4)トンネル磁気抵抗素子
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それぞれの膜厚が数ナノメートルオーダーの磁石/絶縁体/磁石からなる接合構造であり、素子両端に電圧を加えると量子力学的効果により絶縁体を通して微小なトンネル電流が流れます。トンネル電流の流れやすさは両側の磁石のスピンの相対角に依存して大きく変化し(トンネル磁気抵抗効果)、一般的にはスピンが平行配置で低抵抗、反平行配置で高抵抗となります。この現象はハードディスクドライブの読み取り用磁気ヘッドや磁気メモリー素子などに利用されています。磁気メモリーでは上下磁石のスピンが平行、反平行となった状態をデジタル情報の"0"、"1"に対応させて情報処理を行うため、一方の磁石のスピンのみ、外部入力(磁界やスピントルク、電圧など)によって方向を反転させて、情報の書き込みを行います(双方向スピン反転制御:下図参照)。[参照元へ戻る]
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◆注5)スピン波
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磁石内のスピン間に働く交換相互作用、もしくは磁気双極子相互作用を起源として、スピンの歳差運動が位相ずれを持って磁石内を伝搬する現象です。電荷移動を伴わない情報伝送や波の性質である位相を利用した論理演算などの新デバイスへの利用が検討されています。[参照元へ戻る]
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◆注6)純スピン流
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電荷の流れを伴わず、スピン角運動量のみが流れる現象であり、上向きスピンと下向きスピンが同数で逆方向に流れることによります。電荷の移動を伴わないため、ジュール熱によるエネルギー散逸がない、低損失な情報伝送が可能であると期待されています。[参照元へ戻る]
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◆注7)スピントルク
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トンネル接合素子などの接合構造に電流を流すと、伝導電子は片側の磁石のスピンの情報を保持したまま他方の磁石に流れ込みます(スピン注入)。流れ込んだスピンは他方の磁石内のスピンと相互作用することで力(トルク)を与え、この現象を利用してスピンの反転制御や歳差運動の励起が可能となります。[参照元へ戻る]
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