NEDOが、2007年度から実施してきた「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発プロジェクト」が今年度で終了、以下の成果を達成しました。
(1) 空冷動作する超小型100Gbps光トランシーバーを世界で初めて開発し、回路基板間の100Gbps接続を実現。
(2) 高速低電力の160Gbps光LAN-SANシステムを構築することにより、2チャンネルの非圧縮スーパーハイビジョン
信号の配信実験に世界で初めて成功。
これらの成果の一部は2012年3月4日から8日まで米国ロサンゼルスで開催されるOptical Fiber Communication Conference and Exposition and the National Fiber Optic Engineers Conference(OFC/NFOEC)で展示される予定です。
なお、このプロジェクトには技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)、アラクサラネットワークス株式会社、財団法人国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)、日本放送協会(NHK)、一般財団法人光産業技術振興協会(OITDA)(順不同)が参加しています。
高速インターネットやスマートフォンの普及に伴い、ネットワーク上での通信量が急速に増加しています。これに伴い、LANスイッチやルーターなどのネットワーク機器の消費電力は、2025年には、2006年の13倍に急増し、国内電力消費量の8.5%がネットワーク機器により消費されると予想されています。
一方、ネットワーク機器の性能に関しては、電子(電気信号)処理の処理速度の上限が見えてきており、さらなる高速化を図るには、光技術を導入することが急務になっています。
こうしたなかで、NEDOでは、2007年から5年間にわたり「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発プロジェクト」を実施し、2012年2月29日に終了しました。このプロジェクトでは、日本が高い技術力と国際競争力を持つ光デバイス技術を中心に、低消費電力で高性能なデバイス共通基盤技術開発と、開発した技術を統合して動作させるシステム化技術開発に取り組んできました。
2-1.空冷動作可能な100Gbps超小型光トランシーバーの開発
電子機器、特に複雑な処理をするルーターなどでは、多数の回路基板をバックプレーンとよばれる接続基板を介して電気信号により接続をして処理を行ってきました。しかし、電気信号を用いた接続は通信速度に限界があり、また、消費電力も多くなるため、光トランシーバーを用いて、電気信号を光信号に変換した後に、光信号により回路基板を接続する方式が実用化されはじめています。しかし、例えば100Gbpsの光信号で基板間を接続する場合、100Gbpsの光トランシーバーは、手のひら程度の大きさであるか、あるいは、小型のものは水冷による冷却が必要でした。本プロジェクトでは25Gbps×4個構成の面出射型レーザ、超高速受光ダイオード、インターフェイスCMOS-LSIそれぞれの消費電力低減を図り、消費電力がわずか2Wで、空冷にて100Gbps動作する、実装面積が約1.2mm2と指先に乗るほどのサイズの、超小型光トランシーバーを開発しました。また、開発した超小型光トランシーバーの動作を実証するため、エッジルーターに開発した超小型光トランシーバーを実装して、動作実証しました。
開発した超小型光トランシーバーは、空冷動作が可能なため、これまでの大掛かりな冷却装置が不要となり、光トランシーバーの適用範囲が飛躍的に拡大することが期待できます。
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図1:100Gbps基板間光接続(光バックプレーン)実証システム(左) および超小型100Gbps光トランシーバー(右)
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2-2.非圧縮スーパーハイビジョン配信可能とする超高速光LAN-SANシステムの開発
映像の制作現場ではネットワークを介して記憶装置に格納された映像信号を読み出し編集することが一般的になっています。しかし、将来の超高精細映像であるスーパーハイビジョンを制作する場合、1秒あたり72Gbitの膨大な映像データを、複数の映像を切り替えながら配信する必要があります。このプロジェクトでは、160Gbps OTDM方式の光ネットワークを採用して、2系統のスーパーハイビジョンデータをネットワーク上で切り替えて配信するため、デバイス、モジュール、システム開発を実施し、2チャンネルの72Gbps非圧縮スーパーハイビジョン信号の配信動作に世界で初めて成功しました。
スーパーハイビジョン配信において、開発した技術は以下です。
- ハイブリッド集積化OTDM-NIC: 40Gbpsイーサネットシリアル光トランシーバー、量子ドット高効率半導体光増幅器に超高速全光スイッチを組み合わせて160Gbpsの超高速動作を達成。
- 全光スイッチ:小型、低挿入損失、低電力励起パワーが特徴の反射型ISBTをベースに低消費電力の光ゲートを開発。
- スーパーハイビジョン収容システム:160Gbps光信号へのスーパーハイビジョン信号を変換する技術を開発。
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図2:超高速光LAN-SANシステムの構成図 |
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図3:160Gbps超高速光LAN-SANシステムによるスーパーハイビジョン配信実験 |
2-3.プロジェクトにおけるその他の成果
(1) LAN-WAN間のシームレス相互接続技術
複数のLAN間を、WANを経由して接続するLAN-WAN間のシームレス相互接続技術を開発しました。開発した技術では、次世代のLAN-SANの規格として有望な40Gbpsシリアルイーサネットを想定して、40G LAN-WAN信号変換技術、40GbEインターフェイス変換技術、小型40Gシリアル光トランシーバー、ダイナミックレンジ拡大SOA-MZI型波長変換技術を開発し、これらを接続し、LAN-WAN間のシームレスな信号転送を世界で初めて実証しました。
(2)40Gbps対応トラフィック分析装置
エッジルーターの超高速ネットワーク対応技術として高速トラフィック分析技術として、AFM分析アルゴリズムをベースに40Gbps対応トラフィック分析装置を開発しました。
(3)50GS/s、5bitリアルタイムオシロスコープ
25Gbpsの光信号波形をソフトウェア補正無しに観測できるSFQ回路で構成した50GS/sの5bitAD変換器を用いたリアルタイムオシロスコープを開発しました。
(4)標準化
開発したデバイス/モジュール技術の蓄積に基づき積極的に標準化活動を進め、100Gbpsトランシーバー、40GbEシリアル、LAN-WAN間変換規格の確立に主導的に貢献できました。
光通信技術の主要国際会議であるOFC/NFOEC-2012(2012年3月4日~8日)に於いて、(1) 空冷動作可能な100Gbps超小型光トランシーバーを用いたデータ転送の動態展示と、(2)超高速光LAN-SANシステムによる非圧縮スーパーハイビジョン信号72Gbpsの配信システム実験のビデオ公開を行います。