独立行政法人物質・材料研究機構の門馬綱一研究員と独立行政法人産業技術総合研究所の池田拓史主任研究員は、千葉県立中央博物館、国立大学法人東北大学、アマチュア研究家の西久保勝己氏、本間千舟氏、結晶形態研究者の高田雅介氏と共同で、千葉県内で採取された鉱物が新鉱物であることを突き止め、『千葉石』と命名した注1。千葉石は、ケイ素原子と酸素原子から構成された『かご』状の結晶構造を持ち、『かご』の内部にはメタンなどの分子が閉じ込められている。この結晶構造は、同じく『かご』状の構造を持つ天然ガスハイドレート中の水分子を、ケイ素と酸素で置き換えた構造に相当し、主成分にメタンを含む鉱物としては世界で2例目の発見である。本研究成果は日本時間の2月16日午前1時に英国の科学誌Nature Communications電子版に掲載される。
メタンハイドレートは、水分子から構成される『かご』状の骨格構造の隙間にメタン分子が取り込まれた物質で、日本周辺の海底下に大量に存在することから、エネルギー資源として注目されている。メタン分子のほかに、エタンやプロパンなどのガス分子が含まれることもあり、これらは天然ガスハイドレートと総称される。『かご』の直径は1 nm程度で、大きなガス分子は大きな『かご』にしか入ることができない。そのため、含まれるガス分子の種類によって天然ガスハイドレートの結晶構造は異なり、自然界では、I型、II型、H型の3種類の存在が確認されている(図1)。
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図1: 天然ガスハイドレートとシリカ鉱物の結晶構造。千葉石の結晶構造はII型である。
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シリカ鉱物の中には、天然ガスハイドレートと組成は異なるが、同様の構造を持つものがある。たとえば、メラノフロジャイトという鉱物は、ケイ素と酸素から構成される骨格構造を持つが、骨格の形状はI型のメタンハイドレートと同一である。また、合成物では、II型やH型の骨格構造を持つ高シリカゼオライトが報告されている。しかし、II型やH型の骨格構造を持つシリカ鉱物は見つかっていなかった。我々は、千葉県に分布する堆積岩の地層中の亀裂や細脈から、II型の構造を持つシリカ鉱物を発見し、『千葉石』と命名した(図2)。千葉石は八面体と立方体の組み合わさった径1~5 mmの結晶として見られる。さらに同時に、H型の構造を持つシリカ鉱物も発見した。これらの発見により、天然ガスハイドレートと同様、シリカ鉱物でも、3種類の構造が自然界に存在することを世界で初めて確認した。
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図2: (a) 千葉石の結晶, (b,c) 結晶の形態
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千葉石などが発見された地層は、プレートの沈み込みに伴って形成された、付加体注2と呼ばれる地質構造の一部であると考えられている。天然ガスハイドレートに含まれるガスには、微生物起源のメタンと、熱分解起源のガスの2種類があるが注3、プレートの沈み込み境界は、熱分解起源ガスの主要な発生源である。微生物起源のガスはほぼ純粋なメタンであるが、千葉石の中には、メタンのほかに、エタン、プロパン、2-メチルプロパンの4種類の炭化水素分子が含まれていることが確認された。このガス組成は、熱分解起源の天然ガスハイドレートの特徴と良く一致する。
以上のことから、今回発見したシリカ鉱物は、熱分解起源の天然ガスハイドレートと同じ起源の炭化水素分子を、地層中のより深い場所で結晶構造中に捕獲(記録)したものと見なすことができる。そのため、千葉石は、天然ガスハイドレートの起源や、プレートテクトニクス注4に伴う地球規模での炭素循環を解明する上で、新たな物証となる可能性を秘めている。
本研究の一部は、東北大学グローバルCOEプログラム「変動地球惑星学の統合研究教育拠点」の支援を受けて行われました。
New silica clathrate minerals that are isostructural with natural gas hydrates
Koichi Momma, Takuji Ikeda, Katsumi Nishikubo, Naoki Takahashi, Chibune Honma, Masayuki Takada, Yoshihiro Furukawa, Toshiro Nagase and Yasuhiro Kudoh
Nature Communications電子版(日本時間2月16日1:00掲載)