独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】高耐久性材料研究グループ【研究グループ長 橋本 等】 宮島 達也 主任研究員は、国立大学法人 豊橋技術科学大学【学長 榊 佳之】(以下「豊橋技科大」という)逆井 基次 名誉教授と株式会社 三弘【代表取締役 伊藤 弘一郎】(以下「三弘」という)と共同で、材料のミクロ領域における力学物性を簡便に定量評価できる試験装置を開発した。
この試験装置(以下「顕微インデンター」という)はダイヤモンドやサファイアなどの微小で透明な圧子を固体試料の表面に圧入し、透明圧子に光を透過させて光学顕微鏡でその場観察することによって、圧入による圧子と試料の接触面積の変化を定量的に測定するものである。接触面積と負荷荷重の関係から直接的にミクロ領域の力学特性を評価できる。圧子の形状や圧入の速度など、適切な条件を選択することにより、ミクロ領域における弾性・弾塑性パラメーターであるヤング率、硬度、降伏値や粘弾性関数を評価できる。
|
図1 開発した装置の外観写真
|
近年、薄膜や微小構造体などの力学物性評価のニーズが高まり、試料表面に微小圧子を圧入する押し込み深さ計測型の計装化インデンテーションが注目されている。この試験では試料を弾性体と近似して、圧子押し込み深さから接触面積を推算する解析法が標準法として採用されている。しかしながら、塑性変形が著しい材料や硬い基板からなる膜/基板複合体では、圧入によって生じる表面変形(pile-up、盛り上がり、hc>h、下図2(b))は弾性体の変形挙動(sink-in、沈み込み、hc<h、下図2(a))とは大きく異なる。そのため、圧子押し込み深さから見積もった接触面積は大きな誤差を含み、力学物性の定量化は不可能であった。この問題を解決し、圧子と試料の接触面積をその場定量して厳密な力学物性評価を行える新たな装置が求められていた。
|
図2 試料表面に微小圧子を圧入した際に生じる表面変形の相違
(h:圧子押し込み深さ(試料表面から圧子先端までの深さ)、
hc:圧子接触深さ(試料と圧子との接触端から圧子先端までの深さ))
|
産総研は豊橋技科大と共同で、標準試験法の適用範囲外にある新素材に対し厳密な力学物性評価を行うため、微小圧子を用いる新規な試験法の開発を進めてきた。従来、微小圧子は試料表面と接触させて凹みを付けるための機械部品として使用されてきたが、今回、光学力学結合型圧子して活用することで新たな試験法の開発を試みた。
なお、本研究開発の一部は、財団法人 科学技術交流財団の委託事業「平成21年度育成試験」による支援を受けて行ったものである。
今回開発した顕微インデンターは、ダイヤモンドやサファイアなどの微小な透明圧子を固体試料の表面に圧入し、透明圧子に光を透過させて光学顕微鏡でその場観測することによって、圧入による圧子と試料の接触面積の変化を定量的に測定するものである。圧子の駆動機構と荷重検出装置に加えて動画像解析機能が組み込まれ、光学顕微鏡の光学軸上の焦点位置にダイヤモンドなどの透明な圧子先端を配置し、その圧子先端を試料表面に押し付ける際の接触面積の変化をその場計測できる。接触面積(A)と負荷荷重(P)との関係から直接的にミクロ領域の力学物性を評価できる。微小圧子の先端形状や接触の速度などをさまざまに選択することにより弾性・弾塑性・粘弾性などの各種の力学物性をこの試験装置一台で定量評価できる(図3)。
三角錐または四角錐の圧子を一定速度で押し込んで負荷荷重と接触面積の関係を測定することから、硬度(マイヤー硬度HM)を求めることができる。また球形の圧子に変更して同様の試験を行えば弾性率(ヤング率E)や降伏値(Y)が求められる。さらに、負荷荷重をステップ状に変化させたり、負荷荷重もしくは接触面積を一定値に保持するように制御して、接触面積もしくは荷重の時間変化を測定することで、高分子材料などが示す時間依存型変形特性であるクリープ特性や応力緩和特性を評価できる。
|
図3 今回開発した試験装置の概略と評価例
|
図4は三角錐圧子を用いて測定したポリウレタンのクリープ曲線(A(t))である。接触面を測定した動画から切り出した6枚の連続写真を示しているが、試料表面と三角錐圧子との接触面は各写真の中央に白く見えている。時間とともに増大する接触面積を定量的に測定できることがわかる。
|
図4 圧子圧入クリープ試験の計測例
|
今後は、今回開発した顕微インデンターの高性能化を進めていく。また、三弘による製品化を予定している。