独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 関口 智嗣】スマートグリッド通信制御連携研究体【連携研究体長 樋口 哲也】は、太陽光発電パネルからの直流電力線をそのまま通信線に利用する通信技術を開発し、試作機による原理実証に成功した。この通信技術により、太陽光発電パネルごとの発電状況をモニタリングして、容易にパネルの不具合検知やメンテナンスができるようになる。
今回試作した通信装置の子機は小型で、太陽光発電パネルの端子箱に収納でき、安価(量産時で200 円以下を目標)に生産できる。また太陽光発電パネルからの直流電力線をそのまま通信に使うので、新たな配線工事を必要としない。さらにパネルごとの発電状況の推移を親機の画面に表示できるので、これまでよりパネル不具合の検知が容易になる。一方、太陽光発電パネルごとに最大電力を取り出せるようにするための分散型MPPT(最大電力点追従)に用いる高効率な電力変換回路方式も開発した。これにより発電パネル全体での日照条件などの影響を軽減できる。また、この回路により直流―直流の電力変換で98 %もの高効率を達成した。
このような太陽光発電向けスマートグリッド技術により、低コストで太陽光発電パネルを不具合のない状態で高効率に稼働できるので、太陽光発電システムの普及を加速し、低炭素社会実現に貢献すると期待される。
本技術については2010年6月16日から東京ビッグサイトにて開催される「スマートグリッド展2010」 において通信装置の試作機を展示する。
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図 太陽光発電パネルからの直流電力線を通信に利用する新方式
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低炭素社会実現のための再生可能エネルギー導入において、太陽光発電の普及は極めて重要である。太陽光発電パネルの寿命は一説には20年といわれるが、工業製品である以上、その期間中の不具合の発生を皆無にすることは困難である。加えて現状の太陽光発電システムでは、パネル単位での不具合を発見することが難しい。このため、太陽光発電パネルの価格上昇や通信工事の手間の増加を招くことのないモニタリング手段が望まれているが、現状では適切な手段がない。
一般家屋での太陽光発電システムでは、いったん屋根に設置するとメンテナンスされることはまれであり、出力低下からパネルの不具合が予想されても、現状では不具合のあるパネルを特定することができない。不具合を放置すると、本来発電されるべき電力をロスし、太陽光発電システムの能力がフルに活かされない可能性があり、結果として費用対効果の面から、太陽光発電の普及の妨げとなる。
産総研では、昨年来、太陽光発電パネルからの直流電力線をそのまま通信に利用して、パネルの発電情報を送れば、新たな通信ケーブルを敷設することなく安価に発電のモニタリングができることに注目してきた。このための新たな通信方式の開発、発電パネルに組み込む通信装置の小型化、安価な市販電子部品による実装をポイントとして研究開発を進めてきた。
太陽光発電パネルごとに通信機能を与えることは価格の上昇につながるため、国内では行われていなかった。本研究では直流電力線を通信に利用し、CDMAを応用したノイズに強い通信方式を開発して、図1に示すように太陽光発電パネルの端子箱の中に小型の通信子機を実装した。これにより、各太陽光発電パネルの電圧、電流、温度等の情報を直流電力線を通じて、一括してパワーコンディショナー側の通信親機に伝送できる(図2)。
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図1 太陽光発電パネルの端子箱に実装した通信子機
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図2 全体構成
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通信子機は、市販の安価な電子部品で構成した。図3の左側が通信子機、右側が通信親機である。この通信方式では非常に低い周波数を用いているので、無線通信への影響は一切ない。
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図3 通信子機(左)と通信親機(右)の試作基板
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これらの通信装置により、太陽光発電パネルの電圧、電流の推移を図4に示すようにパネルごとにモニタリングができ、不具合検知など、パネル単位での太陽光発電システムの監視を行うことができる。
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図4 太陽光発電パネルのモニター画面例
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また、個々のパネルで発電した電力を最大化する分散型MPPTに用いるスイッチング回路方式を新たに開発した。スイッチング回路ではトランジスタのオンオフを行っているが、オンオフに伴って失われるエネルギーを、コンパクトな回路で有効に回収できるため、直流-直流の電力変換効率98 %というトップクラスの性能を持つ。
今回の試作機をベースに、耐ノイズ性の強化、装置のさらなる小型化、低コスト化をはかり、早期の技術移転により実用化を目指す。また太陽光発電パネルからのモニタリング情報を元に、不具合を検出するためのアルゴリズムの開発を進める予定である。