株式会社 東芝(以下「東芝」)と、独立行政法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)は、高密度集積回路(LSI)向け露光技術の精度を約20 %向上できるマスクパターン最適化技術を共同開発しました。本技術により、現行の液浸ArFエキシマレーザー露光装置を1技術世代以上延命することが可能となります。
今回開発した技術は、マスク上の非解像パターンの最適配置を決めるアルゴリズム(計算手法)であり、局所最適化を繰り返して効率的に最適解を得る「最適勾配法」の採用等により、寸法精度を約20 %向上しています。非解像パターンは、メインパターンの転写像を変調させて解像度・寸法精度を向上させるサブパターンであり、その配置を最適化する計算は、露光精度が限界に近づくにつれて困難となり、精度向上の制約となっていました。
東芝と産総研では、本成果について、2010年度中の実用化を目指して改良を続けます。なお、本成果については、2010年2月21日~25日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催されるリソグラフィ国際学会SPIE(International Society for Optical Engineering)において、2010年2月25日(現地時間)に発表します。
ArFエキシマレーザー光源による露光技術は、光の位相変調を利用する位相シフトマスク、水によって光の屈折率を高める液浸技術など各種高解像技術により、30 nm世代まで延命されてきました。しかし、次の世代では液浸ArF露光が精度限界となり、2段階で微細な像を転写するArF2回露光や、より短波長なEUV露光への移行が必要との予測もあります。一方、液浸ArFエキシマレーザー露光装置のさらなる延命も期待され、東芝と産総研では、露光マスクの改良による延命を目指し、研究に取り組んできました。
従来、非解像パターンの配置を決める計算手法として、メインパターンとの距離を規定した上で最適化する「ルールベース手法」や、光学系の非線形関数を用いて推定する「干渉マップ手法」、所望の転写パターンから逆演算する「インバースリソグラフィ」などの手法があります。しかし、それぞれ、パターン配置の多様性を欠く、高速だがパターンによっては最適配置からの微小なズレが生じる、処理時間が膨大になるという課題を抱えており、露光精度向上の障壁となっていました。
今回、東芝と産総研では、非解像パターンを最適配置するための「最適勾配法」をベースとした独自アルゴリズムを開発しました。「最適勾配法」は、局所探索の代表的手法で、現在の解の近傍において最も改善される解を採用するという作業を繰り返し、効率的に最適解に到達できます。これにより、寸法精度は従来から約20 %改善となる6 nmを実現しました。また「干渉マップ法」と組み合わせることで、高精度化と高効率化の両立を実現しました
(本技術による非解像パターン最適化の手順)