独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下、「産総研」という)知能システム研究部門 比留川 博久 研究部門長は、ゼネラルロボティックス株式会社【代表取締役社長 五十棲 隆勝】(以下、「ゼネラルロボティックス」という)、茨城県立健康プラザ【管理者 大田 仁史】(以下、「健康プラザ」という)と共同で、介護予防リハビリ体操の体操指導士を補助できる人間型ロボット「たいぞう」を開発した。
たいぞうは、体操参加者からも見やすい大きさ(身長70 cm)とキャラクター性、体操を実行できる十分な関節数(26自由度)を持ったロボットで、体操指導士が簡単に指示できるユーザーインターフェースを備えている。また、いすに座って行う体操を中心に、約30種類の介護予防リハビリ体操を実行でき、体操指導士や体操参加者との間で簡単な音声対話を行う機能も備えている。たいぞうを体操指導現場で活用することにより、対象となる高齢者の体操参加意欲を向上させるとともに、体操指導士がより効果的な指導を行うことができると期待される。
なお、本開発成果は、独立行政法人 科学技術振興機構(以下、「JST」という) 地域イノベーション創出総合支援事業 イノベーションサテライト茨城における育成研究課題の一環として得られた。
たいぞうの外観 |
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たいぞう(22軸仕様)内部構造
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わが国は急速に少子高齢化社会に移行しつつあり、2005年から2025年の20年間に65歳以上の高齢者人口は2,576万人から3,635万人へと増加すると予測され(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、2006年12月)、これに伴い、要介護者数の増加も見込まれる。したがって、要介護者数の増加を抑制し、要介護レベルを改善することが求められており、その1つの手段としてロボットの活用が期待されている。
産総研知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループの研究成果を活用することにより、ゼネラルロボティックスは小型ヒューマノイドロボットHRP-2m(通称:チョロメテ)を開発・製品化した。一方、健康プラザでは、大田 仁史 管理者が介護予防リハビリ体操(通称:シルバーリハビリ体操)を考案し、その普及活動を行ってきた。
介護予防リハビリ体操とは、その名前のとおり介護予防を目的とする体操で、関節の運動範囲を維持・拡大し、筋肉を伸ばすことによって、立つ・座る・歩くなどの日常生活を楽にすることができる。身体部位に合わせて約300種類の体操が考案されており、体操指導現場ではそのうちの約30種類の介護予防体操が指導されている。茨城県は、介護予防リハビリ体操として「シルバーリハビリ体操」を指導するボランティアの体操指導士(通称:シルバーリハビリ体操指導士)の育成事業を展開しており、現在2,700名以上のシルバーリハビリ体操指導士が誕生して各地で活動している。
大田 仁史 管理者は、体操に参加する高齢者の意欲向上のため、体操を実演できるロボットの活用構想を長年温めてきたところ、JST地域イノベーション創出総合支援事業 イノベーションサテライト茨城【館長 後藤 勝年】における育成研究課題として、その構想の実現が図られることとなった。本課題は2007年1月に開始され、人間型ロボット「たいぞう」の試作につながった。
これまで、たいぞうは2007年11月の茨城ねんりんピック、2008年11月の「介護の日」等で試作機として披露されたり、シルバーリハビリ体操の指導現場で実証試験を重ねたりしてきたが、この度開発と実証試験を完了したので最終成果を発表することとした。
たいぞうのロボットハードウエアとしては、新たに開発した軸剛性の高いサーボモーターモジュールと軽量高剛性の板金機構とを組み合わせ、体操を安定して実行できる剛性を備えたものを開発した。体操の主要な動作を表現するため、肩のヨー軸と腰のピッチ・ヨー軸を含め、全体で26自由度を持っている。
サーボモーターモジュールは、モーターの現在角度を読み出すためのエンコーダーを搭載していること、出力軸の軸受けを両持ちにするとともに剛性の高い構造で支持して軸剛性を高めたこと、身長70 cmのロボットを駆動できる大きな出力トルクを持つことが特徴である。さらに、デジタル入出力およびアナログ入力のインターフェースを有しているため、サーボモーターモジュールに直接センサーを接続することが可能となっている。これらの特徴は、中型以上のロボットでは一般的であるが、ホビー用などを主な用途とする小型のサーボモーターモジュールではこれまで開発例がなかった。
ロボットの構造体は、素材配置の適正化と閉断面の活用によって薄板板金構造の高剛性化を実現し、身長70 cmという比較的大きなロボットの動作を安定に実行することが可能となった。
体操動作の生成には、産総研の人間型ロボットの動作生成技術を応用し、いすに座った状態での体操動作を容易に生成する方式を開発した。
音声認識には、連続音声認識コンソーシアムの成果物でありオープンソースで開発されている汎用音声認識エンジンJuliusの記述文法音声認識機能を使用した。JuliusとRTコンポーネント化された対話制御エンジンSEAT/SATによる文脈に応じた動的な認識モデルの切り替え機能とを組み合わせることで、柔軟な音声対話機能を実現した。この音声対話機能を用いると、約30種類の体操の再生制御ができる。また、音声対話機能を用いて、体操の開始前や体操の合間などに場を和ませるための簡単なやりとりを行うことが可能である。
これまでの実証実験では、前期高齢者に属する体操指導士が体操指導の際にたいぞうを使用できることが確認された。また、他の体操指導士の報告によれば、指導現場にたいぞうがいて一緒に体操すると体操参加者が普段よりも集中して体操に取り組む傾向が見られ、体操参加者の意欲向上に対する一定の効果が認められた。
たいぞうは、単にシルバーリハビリ体操指導士と一緒になって共に体操動作を表現して見せるという機能を持っているだけではない。体操現場にたいぞうがいることで、体操指導士と体操参加者から構成される体操指導の現場が和んだり明るくなり、ともすれば身体を動かしたり会に参加したりすることに消極的で傍観者的な立場になりがちな高齢者の、体操への参加意欲の向上に貢献することが期待される。また、体操指導士がたいぞうを活用することで、より効果的な指導ができるようになり、介護予防の啓発運動にも繋がると考えられる。
たいぞうは、事業化に向けて、さらに動作の安定性を向上させる、コストを下げる、構造をシンプルにしてメンテナンス性を向上させる、などの面からの検討を図り、関節数を22軸としたプロトタイプを開発中である。
JSTイノベーションサテライト茨城の育成研究課題終了後、2010年度を目処に短期リースの形での事業化を予定している。