独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)と株式会社 東芝【取締役 代表執行役社長 佐々木 則夫】、清水建設 株式会社【代表取締役社長 宮本 洋一】、東芝ホームアプライアンス 株式会社【代表取締役社長 山下 文男】、株式会社 関電工【取締役社長 山口 学】、東芝機器 株式会社【代表取締役社長 長阪 健】、積水化学工業 株式会社【代表取締役社長 根岸 修史】、株式会社 先端力学シミュレーション研究所【代表取締役社長 安藤 知明】は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)のエネルギー使用合理化技術戦略的開発/先導研究フェーズ「生活行動応答型省エネシステム(BeHomeS)の研究開発」(2007年度~2009年度)(開発責任者:産総研 企画本部 企画副本部長 松岡 克典)において、住宅内ネットワークを通じて得られる家庭内機器等の運転情報から生活状態を推定する生活行動推定技術を開発し、各生活状態に合わせた合理的な省エネを実現する生活行動応答型省エネシステム(BeHomeS)を試作した。今回、BeHomeSを組み込んだ実験住宅を構築し、4人家族が8月から半年間、実際に生活する滞在実験を実施して、その省エネ効果を検証することとした。
BeHomeSを用いると、消し忘れの照明・空調等を自動停止するだけでなく、普段の給湯量を判断して無駄な湯沸かしを抑える給湯制御、採光・遮光・遮熱と窓による排熱を照明器具・空調機の運転と適切に組み合わせた省エネ環境制御、生活シーンに合わせた調光・温熱制御による省エネ制御などを自動的に行えるようになる。生活状態を自動判別し、生活状態に合わせた省エネを行うことから、生活者に我慢を強いることも、制御のための負担を与えることもなく、つまり、意識せずとも省エネを継続することができると予想される。
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4人家族が滞在実験を行う実験住宅
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わが国においては、民生・家庭部門の空調機、テレビ、給湯器等の個別機器の省エネ化が大幅に進んできたものの、家庭内の総エネルギー消費は機器の大型化・多様化などにより増加の一途をたどり、2007年度の世帯当たりのエネルギー消費は1973年度に比較して1.4倍となっている(資源エネルギー庁編「平成20年度エネルギーに関する年次報告書」)。そのため、個別機器の省エネ化に加え、家庭内機器の協調した最適化運転を実現して無駄を省くことができる新しい省エネ技術の開発が求められている。また、家庭への広い普及と持続的省エネ活動を実現するために、生活者が面倒な操作をしなくてもよい省エネを実現する技術への期待感がある。
産総研は、社団法人 人間生活工学研究センターらとともに、NEDOの委託事業「人間行動適合型生活環境創出システム技術」(1999年度~2003年度)の中で「生活者支援のための住宅設備機器高度化支援技術」として、住宅内での生活行動を常時・連続的に計測・蓄積する技術を開発し、普段の生活行動からの逸脱を自動検知して、緊急通報や健康管理支援を行うリアルタイム生活支援技術を開発した。本委託事業では、焦電型赤外線センサー情報や照明・家電機器等の住宅内設備機器類の稼働情報を基に、13種類の生活行動を時系列情報に自動変換する技術を開発し、実験住宅での1ヶ月にわたる居住実験を通して、複数の生活者が生活している場面で、平均約70%の精度で日常の生活行動を推定できる結果を得た。
今回の先導研究事業では、住宅内での人間の行動情報や機器の運転情報を用いて生活状態を理解し、生活状態に合わせた家庭内機器の最適協調運転を行うことにより無駄な稼働を抑制し、居住者の快適性や利便性を損なうことなく継続性のある省エネを実現する省エネシステムを試作した(図1、図2参照)。その試作のために、センサー情報や家庭内機器の運転情報から生活行動を推定して省エネ運転の判断情報を提供する行動推定エンジンの開発を行った。生活行動予測に基づいた省エネ運転ルールを実行する機器としては、協調制御対応家庭電化機器、照明等を対象とした光環境制御システム、エアコン等を対象とした温熱環境制御システムの開発である。
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図1 研究開発の概要
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図2 生活行動応答型省エネシステムの構成
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本先導研究事業の最終年度にあたる2009年度、開発した技術と機器をすべて統合したシステムを組み込んだ実験住宅での実証実験により、開発システム全体の機能と効果についての総合評価を実施することにした。既存住宅で冬季に収集した家電機器等の運転データにBeHomeS の省エネ制御ルールを適用してみると、約12 %の省エネを達成できる場合があることが分かった。今回は、このBeHomeS を実験住宅に設置し、実際の生活の中でどの程度の省エネ効果を得ることができるかを実験的に検証する。
BeHomeSでは、システム側が居住者の生活行動を自動学習し、居住者の生活状態に合わせた機器運転を行って省エネを達成する。したがって、各家庭での生活状態により達成できる省エネ効果は異なる。本先導研究事業では、居住者が省エネを意識することなく自然な生活を営む中で、平均値として約10 %の省エネ効果を達成することを目標としている。
本先導研究事業では、居住者行動に基づく設備・機器類の協調制御による省エネ技術における課題抽出と実用化開発の可能性についての確認を主課題として研究を進めてきた。事業化に向けては、今回の先導研究事業終了後に実用化開発・実用化研究( 5~6年程度)を実施し、実用化のための検証を行う予定である。また、行動推定エンジンを付加したインテリジェントシステムの事業化開始は、2016年~2018年ごろを見込んでいる。