独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)コンパクト化学プロセス研究センター【研究センター長 水上 富士夫】コンパクトシステムエンジニアリングチーム【研究チーム長 鈴木 明】川波 肇 主任研究員と北海道立工業試験場【場長 尾谷 賢】環境エネルギー部 環境システム科 松嶋 景一郎 研究員は、メタボリック症候群、高血圧、糖尿病などに予防効果の期待される、ヒドロキシメチルフルフラール(以下「HMF」という)をグルコースなどの安価な糖類から、高温高圧の水を用いてすばやく(10秒以内)高収率・高純度で簡便に連続合成する技術を開発した。
本技術は、高温高圧水と糖類を含む水溶液を瞬時に混合し、これを瞬時に昇温(400℃)、瞬時に冷却(25℃)できる高温高圧マイクロリアクターを開発することにより実現した。
HMFは、血圧降下作用(血液サラサラ効果)、メタボリック症候群、高血圧、糖尿病などへの改善効果のある医薬品や食品添加物等への応用が期待されている。しかし、従来の製造法では効率が悪く、グルコース等からの合成は低効率で、大量生産はできない上、価格も高価である。
今回開発した本技術により、HMFの大量製造に道がひらけ、実用化できれば、将来は生活習慣病の予防への適用なども含めて、高価なHMFの低価格化が期待できる。
本技術の詳細は、平成21年4月21日~23日に東京ビックサイトで開催される第8回国際医薬品原料・中間体展で発表する予定である。
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写真左 HMF製造装置。写真右 HMF水溶液(未精製のため着色している。)
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ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は、はちみつなどの多くの食品に微量に含まれる化合物として古くから知られていたものの、あくまでも不純物としての扱いで、特に注目されてはいなかった。近年、米国で鎌型赤血球病の特効薬として使われ(米国FDA認可2007年2月)、また血圧降下作用(血液サラサラ効果)や、血中の遊離脂肪酸を低減する働きがあるなど、メタボリック症候群や、高血圧、糖尿病に、そしてこれらの予防に効果があることが報告され、にわかに注目され始めた。しかも、HMFはプラスチックやさまざまな石油代替有機化合物の原料にもなるので、バイオマス由来のグルコースなど糖類から安価に変換されるようになれば広範な応用発展が期待される。
しかしながら、HMFは合成の効率が悪く、水に溶解しやすいため、従来法では精製までの工程が複雑で大量に入手することが難しく高価であった。したがって、優れた生理活性や現代病の改善・予防の効果が期待されながら、医薬品としての利用や健康食品などから日常的に摂取することはできなかった。
産総研では、超臨界水による有機合成法の研究開発をはじめとして、室温状態の水から超高温高圧水(600℃、300MPa)に至るまでの幅広い温度・圧力の状態の水を溶媒として利用し、コンパクトで環境にやさしい、有機合成や各種材料の合成プロセスの研究開発を行っている。コンパクト化学プロセス研究センターは、長年にわたって開発してきた、幅広い高温高圧下での合成技術や分光学的な測定による高温高圧水中での基礎物性測定技術を有しており、これらを駆使した物質・材料の製造技術の開発についても高度な蓄積がある。これらの蓄積を活用し、植物性バイオマスから得られる各種の糖類を原料に、高温高圧水利用技術によって石油代替物質へと変換する研究を進めてきた。この研究の中から、石油代替物質の製造では副生成物でありながら、さまざまな生理活性が期待されるHMFに特に着目し、水を反応溶媒に用いて高収率・高選択的に合成する、環境にやさしい製造法の研究開発を行ってきた。
今回の技術では、高温高圧マイクロリアクターを用いて、高温高圧水と糖類を含む水溶液とを瞬時に混合し、室温(25℃)から高温(400℃)へ0.01秒以内で昇温し、また急速に冷却する急速昇温急速冷却を実現した。高温高圧マイクロリアクターの模式図を図1に示す。
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図1 高温高圧マイクロリアクター模式図(実際の大きさは約 10cm×15cm)
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この高温高圧マイクロリアクターにより、加熱・冷却の時間を限りなくゼロに近づけ、必要な温度・圧力・時間を精密に制御することで、副反応や生成物の分解を大幅に抑えることができた。そして、原料からのHMFの収率を70%以上、純度80%以上で連続的に製造することが初めて可能になった。しかも、反応時間は10秒以内であり、連続反応なので生成物は直ちに冷却され、生成物の熱分解反応も少ない。
従来法(バッチ式)では、目的温度(400℃)への加熱は、少なくとも30秒以上必要であり、加熱・冷却の途中での副反応が避けられなかった(図2の青線のグラフに従来法での反応温度の時間変化を示す)。また、従来知られている方法では、安価なグルコースからのHMF製造には、2段階以上の反応が必要であり、収率・選択率も数10%程度と低い。さらに、収率の向上にはイオン液体などの特殊な溶媒や、クロムなどの錯体触媒などが必要であり、製造されるHMFは高度な精製が必要であることから生産プロセスの開発は困難を極めていた。
今回、本技術開発により、有機溶媒を用いず水を溶媒として、すばやく、簡便に一段階の反応で、高収率・高選択率の環境にやさしい製造プロセスを実現したことから、得られるHMFは特殊な精製をすることなく、不純物のために若干着色しているがそのままでも飲食料品への応用が可能である。
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図2 今回開発した技術(赤)と従来技術(青)の反応温度の時間変化
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急速昇温・急速冷却ができるので、副反応を起こさず、目的の反応のみを起こす。バッチ式では昇温途中や冷却途中に目的反応以外の反応が起こってしまう。マイクロリアクターによる連続反応なので生成物は直ちに冷却され、生成物の熱分解反応も少ない。
今回の開発した製造法をより一般的に広め、中小事業所でもHMFを簡単に合成できるよう、さらに省エネ型、小型のデスクトップ型など、より安価なHMF製造装置の開発を目指す。そのため、共同研究を希望する企業を募り開発を進めたい。
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プレスリリース修正情報
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修正箇所
1,「概要」の図に記載の「ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)」の化学構造式の修正(2009年4月21日 10:00)
2,「用語の説明」の「ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)」に記載の化学構造式の修正(2009年4月21日 10:00)