NEDO技術開発機構は、産総研、JBiC、NITEなどと共に、約2万2千個と言われるヒト全遺伝子の約70%にあたる約15,000種に対応するヒトGateway®エントリークローン1)を作製。世界最大規模の極めて品質の高いタンパク質発現リソースを構築し、研究者等への提供を開始しました。
本研究成果の詳細は、Natureグループの科学雑誌Nature Methods12月号に掲載(DOI:10.1038/NMETH.1273、電子版は11月24日午前3時に公開)されます。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム(JBiC)への委託により、独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、民間企業等との共同研究により、平成12~17年度の6年間、「タンパク質機能解析プロジェクト」及び「タンパク質機能解析・活用プロジェクト」を実施して参りました。
これらプロジェクトは、わが国が世界をリードしてきたNEDO「完全長cDNA2)構造解析プロジェクト(FLJ cDNAプロジェクト)3)」の成果をもとに、タンパク質機能解析分野でも優位性を保つことを目的として実施したものであり、本プロジェクトの一環として、世界最大のヒトGateway®エントリークローンの整備を進めてきたものです。
この度今までの成果を踏まえ、約2万2千個と言われるヒト全遺伝子の約70%にあたる約15,000種に対応するヒトGateway®エントリークローンを作製し、世界最大規模のタンパク質発現リソースを構築致しました。本リソースはコムギ無細胞タンパク質合成系で合成可能であることを確認し、酵素活性等にて機能を保持していることを確認した極めて品質の高いリソースです。
本リソースは、NITEバイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)から、分譲を希望する国内外の研究者等への配付を11月24日から開始致します。また、ヒトGateway®エントリークローンの情報が閲覧できるヒト遺伝子・タンパク質データベース(Human Gene and Protein Database, HGPD: http://www.HGPD.jp/またはhttp://HGPD.lifesciencedb.jp/)も同時に公開致しました。
本クローンを用いることで、遺伝子産物であるタンパク質を簡単に、またハイスループットに生産することが可能となります。ポストゲノム研究を支える重要なバイオリソースであり、各方面でご活用いただくことによって、機能未知タンパク質の解析や、創薬研究等が促進されることを期待しております。
ヒトGateway®エントリークローンは、21,485個のヒトcDNAのORF領域4)をPCRで増幅し、Gateway®pDONR201ドナーベクターと組換えを行い、12,754個のN-型(ORFの終わりで翻訳終結シグナルをもつもの)と20,521個のF-型(同じ場所で翻訳終結シグナルをもたず、C末端にタグを付加できるもの)の総計33,275個を作製しました(詳細情報はhttp://www.HGPD.jpで公開)。タンパク質の生産には、このヒトGateway®エントリークローンをGateway®発現ベクター(デスティネーションベクター)と組換えを行い、ヒトGateway®発現クローンを作製し、このクローンをもとにタンパク質合成を行います。実験系を改良し、ヒトGateway®発現クローンのタンパク質合成に必要な部分のみをPCRでDNA増幅し、インビトロでのmRNA合成の鋳型としました。PCRで作ったDNA断片を鋳型としmRNAを合成し、それをコムギ胚芽抽出液5)と混ぜることによってタンパク質が合成されます。DNA組換えからタンパク質合成までの過程をすべてインビトロ合成にすることによって、ヒトの網羅的なタンパク質を簡便かつハイスループットに合成することが可能になりました。このようにして13,364個のヒトGateway®エントリークローンからタンパク質合成を試み、その合成効率を調べたところ、程度の差はあるが基本的に全てのタンパク質が合成されることがわかりました。また、殆ど全てのケースで可溶性画分6)にタンパク質が確認され、コムギ胚芽発現系は優れた系であることが再確認されました。フォスファターゼやサイトカインを例にとり、コムギ胚芽抽出液で作られたタンパク質に活性があることを確認しました。また、ヒトタンパク質の網羅的な発現の応用例として、13,277個のタンパク質を発現させ、スライドガラス上に合成タンパク質をスポットしてタンパクチップを作製しました。チロシンキナーゼ7)の活性測定を行うことにより、タンパクチップの有効性を示しました。このようにインビトロで網羅的に合成したタンパク質全体を対象とした研究を「インビトロ プロテオーム研究8)」と呼び、今後のプロテオミクス9)研究の新しいアプローチとして推進して行きたいと考えています。
これらのヒトGateway®エントリークローンは、現在進めているNEDO「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発(平成18~22年度)」プロジェクトにおいて、タンパク質の相互作用研究、創薬に繋がる化合物スクリーニングへの利用、iPS研究等、基礎研究から応用研究まで幅広く活用しております。
ヒトGateway®エントリークローンの詳細情報、発現タンパク質情報、クローンの入手案内等はヒト遺伝子・タンパク質データベース(Human Gene and Protein Database, HGPD: http://www.HGPD.jp/またはhttp://HGPD.lifesciencedb.jp/) で公開しています。
今回作製されたヒトGateway®エントリークローンは、製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NBRC)から入手可能です。価格は、1クローンにつき、大学・教育機関・国公立試験研究機関が15,750円(税込)、民間試験研究機関が31,500円(税込)です。詳細はホームページを参照(http://www.nbrc.nite.go.jp/hgentry.html)して下さい。