発表・掲載日:2008/10/22

人と共存する次世代生産ロボットを実現する高速ビジョン安全領域センサの開発


高速ビジョンセンサ(カメラ)を用い人の存在や位置を確実に検知しロボットを制御する
国際安全規格に準拠した日本初の安全センサシステム技術を開発
様々な産業の工場内での人とロボットの安全な共存作業を実現

本システムを構成している発光マーカー、カメラ、超高速ビジョンと本システムの概略図

図1.本システムを構成している発光マーカー(上左)、カメラ(上右)、超高速ビジョン(下)と本システムの概略図(右)


【新規発表事項】

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、独立行政法人産業技術総合研究所の研究員、中坊 嘉宏は、高速ビジョンセンサ(カメラ)を用い、人の存在や位置を確実に検知しロボットを制御する国際安全規格に準拠した日本初の安全センサシステム技術を開発しました。

 本技術は、欧州の鉄道安全関連伝送規格EN50159に基づく、人と共存して働くロボットの実現に不可欠な符号化パターンを用いた光マーカーによるセンシングシステムです(図1)。

 従来、カメラシステムや画像処理では人を確実に捉えるということが困難であり、もしも人の検出に失敗すればロボットと作業員との衝突事故に直結するため、これまで産業用ロボットは柵囲による人との分離作業を原則としていましたが、本技術を用いると人がロボットに近付くとそれを検知してロボットを停止させることができ、衝突を避けることができます。

 また、本技術は国際安全規格や国の安全性ガイドラインに適合し、世界に通用するシステムです。



1.研究成果概要

 本研究でクリアしなければならなかった最大の課題は「絶対に間違えずに100%の確率で、確実に人の位置を検出する」ということです。本研究は人に発光マーカーを装着し、その光をカメラで受光して解析するシステムなので、人から発せられた光を100%確実にカメラが受光できれば、100%で人の位置を検出できるということになります。そこで、この「発光-受光」の関係を「通信システム」として読みかえ、発光については機械や外部などからの光と絶対に間違わないものに、受光については絶対に捉え損なわないものにすればよい、と課題を明確にしました。

 発光については、点滅パターンをヨーロッパの国際安全規格である通信安全規格EN50159に沿って符号化することで、他の光と絶対に間違うことが無いようにしました。さらに、ロボットと人間ができるだけ近くで作業できるように、可能な限り速く点滅するようにしました。一方の受光については、速い点滅を確実にとらえるために、超高速カメラを用いて、1秒間に1000コマを取り込んで処理ができるシステムを採用しました。

2.競合技術への強み

1)ロボットと人手の良いところを活かす:人手のみのセル生産も、ロボットのみの完全自動化生産も、生産する商品の種類や生産性については一長一短がありますが、本システムは人とロボットが共存して作業をすることで、それぞれの良いところ活かし、生産の最適化が可能になります。

2)安全性の向上:人とロボットが共存できる安全性を確保するには、人がどこにいるのかをリアルタイムで確実に検出できるシステムでなければなりません。本システムでは、発光マーカーとビジョンセンサの組み合わせ利用によりそれを実現しました。

 
多品種少量生産
生産性、ばらつき
安全性
初期導入コスト
人手のみのセル生産(従来技術)

(多品種生産も可能。新品種にも1日以内に対応)

(繰り返し作業を続けるのは苦手。ばらつきもある)

(従来の機械安全規格を遵守すれば安全)

毎年約600万円(近年は大量の人手確保が困難)
ロボットのみの完全自動化(従来技術)
×
(多品種への対応は1日程度。新品種への対応は場合によっては数週間かかる)

(対象の作業に最適化するため、生産速度は最も速い)

(人がいないので安全だが、メンテナンス時に不注意による事故が起きやすい)
×
約2000万円(初期導入時に高額の設備開発費が必要)
ビジョンシステム搭載ロボット(本研究の技術)

(切り替えで手間のかかる部分は人手にすれば、数日で新品種にも対応可能)

(人とロボットで得意な作業を分担し、生産性が上げられる)

(本研究により、人とロボットが共存しても安全性が確保される)

約500万円(汎用ロボットに追加する形で安全対応化)

表1.工場での生産方式の違いに基づく従来技術と本技術との比較表

3.今後の展望

 発光パターンは国際安全規格EN50159に基づいているので認証には問題はありませんが、点滅ランプの寿命など各デバイスの品質について認証をクリアするレベルにまで上げる必要があります。この点を踏まえ、今後実際にロボットを用いて摸擬生産環境をセットアップし、安全な共存作業の実験を行っていき、システムの実用化に向けて、安全性の保証を確立したいと思います。

 実用化が順調に進み、応用例が増えて技術が広がれば、これを日本発の安全技術として国際規格に採用されるまで進めていきたいと思います。また将来的には福祉分野での利用も可能ではないかと考えています。

4.問い合わせ先

(1)技術内容について
 《代表研究者名・所属機関・部署名・役職名》
 中坊 嘉宏(独立行政法人産業技術総合研究所 知能システム研究部門 安全知能研究グループ 研究員)
 TEL:029-861-5942  FAX:029-861-5942
 e-mail中坊連絡先
 研究室HP:http://unit.aist.go.jp/is/sirg/index.html 安全知能研究グループ

(2)制度内容について
 NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
 鈴木 智博、松崎 肇、千田 和也
 TEL:044-520-5174  FAX:044-520-5178
 個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)
        http://www.nedo.go.jp/itd/teian/index.html





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