独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 橋田 浩一】実時間組込システム研究班 戸田 賢二 研究班長らは、複数の高精細入力映像の位置やサイズを自由にレイアウトして表示できる超高精細映像処理装置VMP/SHD (Versatile Media Processor / Super High Definition) を開発した。
VMP/SHDは、任意の表示画素数に拡張でき、デジタルシネマ(横方向4096画素)はもとより、スーパーハイビジョン(横方向7680画素)やそれ以上の画素数にも対応可能。画素の色の解像度はディープカラーに対応でき、次世代の超高品質高精細映像を自由に表示できる。高解像度でも遅延が小さいので、リアルタイム性を必要とする応用にも適している。各映像の選択やレイアウトはリモコンを用いて行うことができ、複数のユーザーがそれぞれのリモコンを同時に操作することも可能。
本技術は、11月14日~16日にパシフィコ横浜で開催される組込み総合技術展ET2007(Embedded Technology 2007)で発表する。
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写真1:4096×2160画素(ハイビジョン画像4枚分)のデモシステムの出力画像。
8種類のハイビジョン映像を自由な位置とサイズで表示できる。入力から出力までの遅延は2フレーム。 |
デジタルシネマは、2Kシステム(横方向 2048画素×縦方向1080画素)から、ハイビジョンの4倍以上の画素数(横方向4096画素×縦方向2160画素)を持つ超高精細映像システム(4Kシステム)に移行しつつあり、全米では2007年中に1,000スクリーンが4K対応になると予想されている。現在、映画館では大量のフィルムが使用され消耗し廃棄されているが、デジタル化すれば、フィルムは不要で省資源にもなる。日本でも2010年に1,000スクリーンが4K化するとの予測もある。4Kデジタルシネマ用のプロジェクターも発売され、今後の普及が見込まれている。
マルチビジョンは、複数のディスプレイに表示できるシステムで、個々に異なる映像を表示したり、統合して一つのスクリーンとして表示できるシステムもある。交通・航空・宇宙・危機管理などのための管制センターや、野球などのスタジアム、競馬場、コンサートや展示などのイベント会場、美術館やビル壁の巨大ディスプレイなど、その市場は大幅に拡大している。
デジタルシネマやマルチビジョンなど、ハイビジョンを超える高精細画像の表示装置が広く普及し始めており、これらの装置の能力を活かし自在に活用するための映像処理装置が求められている。すなわち、単にあらかじめ用意された映像を再生するだけではなく、その場に応じた、つまりイベントや観客の状況に応じた、リアルタイムの映像操作や演出を超高精細映像で行いたいという要求が高まっている。しかし、これらの超高精細で高品位な映像処理は、パソコンでは能力が追いつかず実現することができない。マルチビジョン用の専用システムも発売されているが、画素数に制限があり4Kデジタルシネマやスーパーハイビジョン(横方向7680画素×縦方向4320画素、ハイビジョン画像16枚分)などをフルスペックで扱うことは困難である。
産総研情報処理研究部門と人間福祉医工学研究部門は、複数の異なる形式の映像を自由自在に表示できる表示装置としてVPSディスプレイを開発した(基本画素数 横方向1280画素×縦方向1024画素、平成16年9月15日産総研プレス発表)。
しかし、ハイビジョンテレビが家庭にも普及し始めた現在では、その基本性能では能力が不足するため、取り扱い可能な画素数を飛躍的に向上させた超高精細映像処理装置の開発を行った。
先に開発したVPSディスプレイも基板を追加することで表示するディスプレイの増加が可能だったが、今回開発した超高精細映像処理装置VMP/SHDは、基板あたりの処理能力が大幅に向上しているため、よりコンパクトで低消費電力を実現した。このため、スーパーハイビジョンクラスの映像でも手軽に扱えるようになった。
入出力インターフェースユニットと単位映像処理ユニット(オーバーレイエンジン)を複数組み合わせた構成である(図1)。
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図1 装置の全体構成 |
映像は表示領域ごとに分割して処理しているので、単位映像処理ユニットやインタフェースユニットを追加することにより、表示する画素数を大幅に増加できる規模拡張性を実現している。
色の3原色RGBごとに処理を行うことにより画素数の向上を行い、色についてもRGB 8ビットを超えるディープカラーに対応可能である(図2)。
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図2 オーバーレイエンジンの構成 |
単位映像処理ユニットは、複数の画像レイヤを持ち、それらを自由に拡大・縮小・重ね合わせする機能を持っている。
各ユニット内の映像処理はFPGAチップを用いたハードウェアで行っているが、各レイヤの画像の領域指定や拡大・縮小・重ね合わせの制御はソフトウェアで行っている。現在は、複数のリモコンによるリアルタイムの制御を実装しているが、制御の自由度が高く、音声やセンサーによる制御などの他の技術との組み合わせも容易である。
映像処理は論理回路が書き換え可能なFPGAチップで行っているので、応用の必要に応じて、様々な機能を追加したりチューニングしたりすることが可能。ブルーバックの背景から人物だけを切り出すクロマキーの機能や監視カメラなどでの動作検出機能などもその例である。
VMP/SHDは、写真2に示したように4Kシステムの場合、PCケースに内蔵でき消費電力も200W程度と、非常にコンパクトで低消費電力である。また、映像の画面制御はソフトウェアで行っており、大変柔軟になっている。本装置により、迫真のリアリティを産む超高精細映像表示装置の使い勝手が大きく向上し、新たな市場を産むことが期待されている。例えば、自動車販売店で乗用車などのボディや内装の色や質感、ホイールなどのマッチングなどを実物大でスクリーンに投影して「本物と遜色(そんしょく)なく」確かめることのできる超高精細電子カタログとして利用できる。小さい商品などは拡大し質感を確認でき、住宅など巨大なものも実物大で確認したり、小さくして全体のバランスを確認するなどの広い用途が考えられる。
最近、ディスプレイの高性能化と薄型化の進歩が著しく、住宅でも壁などの広い面積に複数のディスプレイを組み込んだ超高精細の大規模スクリーンなども現実的になってきている。本装置はそこに「本物のような映像を自由に表示」できることを目指している。
本技術は、11月14日~16日にパシフィコ横浜で開催される組込み総合技術展ET2007(Embedded Technology 2007)で発表する。
業務用映像機器メーカーなどに技術移転することにより、デジタルシネマやマルチビジョンの用途において実用化したい。