独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境管理技術研究部門【部門長 原田 晃】未規制物質研究グループ【研究グループ長 堀 久男】 山下 信義 主任研究員、三宅 祐一 産総研特別研究員は、株式会社ダイアインスツルメンツ【代表取締役社長 平井 正徳】と共同で、従来にない高感度の全自動総フッ素分析装置を開発した。
既存のハロゲン分析用燃焼イオンクロマトグラフ装置をもとに、装置内やガス供給ラインからフッ素汚染の可能性のある部品を他の材質に変更し、分析試料の燃焼用ガス高純度化等の改良によって高感度化を実現した。フッ素絶対量として0.6 ngまで定量分析できる。
本装置によって、多様な環境試料や工業製品に残留する総フッ素および有機フッ素化合物の簡便迅速高感度分析が可能となった。塩素や臭素を成分とする化合物も分析でき、RoHS指令だけではなくREACH規制等、将来予想されるフッ素化合物規制にも対応可能である。
本技術の詳細は、2007年分析機器展(幕張メッセ、8月29日-31日)他、講演会および国際会議で発表予定。
環境残留性、生物蓄積性および環境拡散性が懸念され、POPs候補物質として世界的な使用量削減が望まれているパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)をはじめとして、莫大な量の様々な難分解性有機フッ素化合物が半導体産業・フッ素樹脂産業等、高度テクノロジー電子工業製品の製造過程や機能性医薬品等に使用されており、製品や環境中に残留するこれらの化学物質の適切な管理が急務となっている。未だにPFOS類の環境調査データの議論に終始する国内研究の立ち後れの一方で、国外では昨年までに500件以上の研究報告があり、既に、数百を超えるPFOS関連化合物全体の包括的管理が必要であることは先端研究に携わる科学者には自明の理となっている。これらフッ素や臭素を成分とする多くの化学物質は、今後、REACH規制などによって、国際的な監視が必要な項目となる可能性もあり、単なる環境調査にとどまらず、化学産業の安全性管理と適切な育成のためには、簡便迅速な製品分析・スクリーニング法の開発が必要とされているが、これらに適用可能な信頼性の高いフッ素化合物全体の高感度分析技術はなかった。
総フッ素分析技術の比較 |
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産総研では、PFOS問題が世界的に注目される以前から米国共同研究者と環境分析技術を開発し、2003年には世界に先んじて外洋海水中のPFOS関連物質の分析法を開発し、2004年には地球規模外洋汚染状況を初めて明らかにした。2005年に国際誌に公表された水試料高感度分析技術は現在でも世界最高感度分析法として評価されており、この技術を元に世界12ヵ国の賛同を受け、ISO国際標準分析法が策定中である。また、個別のフッ素化学物質分析の先端研究を追求する一方で、産業界が生産使用している数万種以上の人工フッ素化合物全体のスクリーニング・モニタリングを可能にするために、信頼性の高い高感度総フッ素化合物分析法に関する研究開発も平行して行ってきた。
現在、燃焼イオンクロマト法を用いた自動燃焼装置(以下「AQF-100」という)が株式会社ダイアインスツルメンツにより販売されているが、装置内に多くのフッ素樹脂部品が使用されていることや、燃焼のために使用されるガス中のフロン等の不純物等様々な要因が感度低下の原因となっている。そこで、高性能ガス精製システムの構築や、フッ素汚染の可能性のある全ての材質を検討し、装置設計を見直し、フッ素樹脂を使用しない燃焼システムを構築、検出器であるイオンクロマトグラフの感度向上も達成した。
本件の一部は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の産業技術研究助成事業「先端電子機器に含まれる有害化学物質の溶出試験法開発と国際標準化」による研究成果である。
既存の有機フッ素分析法の最大の問題点は、フッ素元素への完全分解法の困難さと高いバックグラウンド汚染である。本研究では100%近い分解率を達成するとともに、システム全体のバックグラウンド低減のために、燃焼用ガス中の不純物を吸着除去、汚染源となる装置内のフッ素樹脂を他の材料へ変更した。高純度ガス(純度99.9995%以上)と広表面積の活性炭を用いることで不純物を10分の1以下に低減した。また、ガスボンベ、ガスレギュレーター、ガスラインは全てフッ素樹脂フリーのステンレスまたはPEEK管、チューブおよびチューブコネクターはポリエチレン製、定量ポンプのシリンジはセラミック製に変更した。これらの変更により、装置由来のバックグラウンドは15分の1以下に低減した。
イオンクロマトグラフにおいては、マイクロボアシステム(通常の半分の内径:2mm)と大量試料導入法(通常の約20倍量)を併用したシステムを最適化することで、市販装置の約100倍の高感度を得ることができただけでなく、前処理法や揮発性化合物のロス等、既存の分析法の抱える問題点のほぼ全てを解決することが出来た。
以上により、フッ素絶対量として0.6 ngの装置感度を達成し、実試料としては液体試料で3ng/L(ppt)、固体試料で0.3ng/g(ppb)の超高感度分析を可能にした。
現在まで実際の環境試料(海水、底質、生物等)や工業部材(装置基板、樹脂等)を用いて分析データの蓄積を行っており、成果の一部は国際論文誌Journal of Chromatography A(1143号, p98-104, 1154号, p214-221, 2007年)に掲載された。
本技術を導入した全自動化分析装置も開発済みであり、多様な工業製品に残留する総フッ素の簡便迅速高感度スクリーニング法としても適用可能であり、RoHS指令やREACH規制等への対応が急務となっている国内産業界へ直接貢献できる。
本装置は、総フッ素だけでなく同時に総塩素・臭素・ヨウ素の高感度分析を実現できることから、非常に汎用性が高く、REACH規制等を想定した多数の製品のスクリーニング試験に最適な性能を有する。今後は電子機器中の臭素系難燃剤の分析、化学合成品や医薬品中の不純物分析など様々な業態、用途に対応できるように検証データを蓄積するともに、専門知識のないエンドユーザーにも使用可能なアプリケーションの開発を進める。また、産総研の有する国内外標準化ポテンシャルを用い、標準分析法としての展開を検討中である。詳細については下記において公表予定。
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2007年分析機器展(幕張メッセ、8月29日-31日)
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第27回ダイオキシン国際会議 (ホテルオークラ、9月2-7日)
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全日本科学機器展 in 大阪2007(大阪、10月17日)
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