独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)活断層研究センター【センター長 杉山 雄一】海溝型地震履歴研究チーム 岡村 行信 研究チーム長と地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】沿岸都市地質研究グループ 村上 文敏 主任研究員および海洋地質研究グループ 井上 卓彦 研究員は、2007年3月に発生した能登半島沖での地震の震源域で海底音波探査を実施し、海底活断層の存在を確認した。断層は約2万年前以降に活動しており、その長さは18km以上に達する。さらにこの地震でも、その断層の一部で海底にわずかに変動が現れたことを確認した。
この調査は、産総研が開発した高分解能マルチチャンネル音波探査装置を用いて行われたもので、この装置が沿岸域の海底活断層調査に有効であることが示された。
2007年能登半島地震は、沿岸域の活断層データの空白域で発生したという指摘を受けて、内閣府 総合科学技術会議は、平成19年度科学技術振興調整費による「重要政策課題への機動的対応の推進」課題における緊急研究開発として、「平成19年(2007年)能登半島地震に関する緊急調査研究」(研究代表者:独立行政法人 防災科学技術研究所 地震研究部地震観測データセンター長 小原 一成)の実施を決定した。産総研はその研究課題の中で、海底活断層構造調査について海上保安庁と共同で担当している。本調査はその一環として行ったものである。
2007年7月3日から7月10日まで間の8日間にわたって、震源域を中心とする海域の音波探査を実施した。調査域は能登半島の輪島市門前町沖から志賀町沖の海域で、測線長は約190kmである(図1)。
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図1 今回の音波探査の測線(黒)と断層位置(赤)及び1988年の音波探査測線(青点線) |
使用した装置は、産総研が開発した高分解能マルチチャンネル音波探査装置で、浅い海域での海底下浅部の地質構造を高分解能、高品質で明らかにすることができる。本装置は、分解能を向上させるため高い周波数の音源を用いていることと、従来装置でシングルチャンネルで用いられることが多かった受信部を、12チャンネルへデジタル化したことが大きな特徴である。高い周波数の音波は水中や地層中で減衰が大きいため、反射信号が弱く、シングルチャンネルの探査装置では明瞭な記録を得ることが困難であった。本装置は、探査後のコンピュータ処理で反射音を強調することが可能であり、従来より高品質のデータを得ることができるものである。
調査海域は従来から断層の存在は報告されていた場所であったが、ほぼ同じ場所で長さ18km以上の活断層を確認した(図1、図2)。断層は約2万年前に形成された氷河期の浸食面とそれを覆う堆積物にそれぞれ3m程度の変位を与えている。断層には途中でステップ状に折れ曲がった場所があり、その場所で2007年能登半島地震の地震破壊が止まった可能性がある。その断層の直上の海底地形には、部分的に傾斜の変化が認められ、数10cmの変動(断層を境として南東側隆起)が海底で生じたと考えられる。このような海底の傾斜の変化は、1988年に産総研(当時の工業技術院地質調査所)が行った調査では認められないことから、2007年能登半島地震で海底に生じたものと考えられる。この海底の変動が観察される場所は、今年5月に海上保安庁が実施した地形調査によって畝(うね)状の隆起が観察された場所と一致する。
以上のことから、2007年能登半島地震を発生させた断層は、過去約2万年間に1~2回活動していること、また、この地震でも海底までわずかに変動を生じたことが明らかになった。
調査で得られた反射断面 |
反射断面の解釈図 |
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縦横比 約40 |
図2 音波探査断面の実例(左)とその解釈断面(右)最終氷期の浸食面とそれを覆う地層に変形が認められる。変形は上位の地層ほど弱くなるが、海底にもわずかに現れている。 |
断層周辺の堆積物を採取しており、今後得られた堆積物の年代測定を行って、過去の断層の活動年代を推定する予定。また、海上保安庁海洋情報部がさらに高分解能の音波探査を実施し、2007年能登半島地震による変動を詳しく調査する予定である。