独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長大和田野 芳郎】熱電変換グループ【グループ長 小原 春彦】山本 淳 主任研究員らは、熱電変換材料などの半導体や合金材料の開発および品質評価に利用可能な、熱/電気特性評価装置を開発した。
今回開発した装置は、サーマルプローブと呼ばれる熱探索針を用いた熱特性マッピング装置で、材料の熱特性を2次元的に可視化できるもので、10000点を8時間で測定する高速性をもちながら、10µm測定分解能をもつ高分解能の測定装置である(図1参照)。
熱電変換技術は、自動車の廃熱のようにほとんど使えない熱エネルギーを回収できる有望な技術とされているが、安価で優れた熱電変換材料の探索が不可欠である。本装置は、この熱電変換材料の探索に極めて有効なツールとなる。測定原理は、加熱したプローブで試験材料の表面を走査し、表面に接触した時のプローブ先端の微妙な電位変化や温度変化を測定して、試験材料表面の局所的なゼーベック係数を推定する方法である(図2参照)。また、プローブの先端から試料内に流入する熱量も推定できるため、試験材料の熱伝導率分布の推定も可能である。
なお、今回開発したサーマルプローブ型2次元熱/電気特性可視化装置の詳細については第42回熱測定討論会(2006.10.7~10.9、京都大学)にて発表予定である。
|
図1 開発したサーマルプローブ型熱/電気特性2次元可視化装置 |
熱電変換技術は、自動車の廃熱のようにほとんど利用できない質の悪い熱エネルギーを電気エネルギーに変換できる技術として有望視されている。しかし、優れた熱電変換材料を見つけるためには、ミクロなサイズの熱的および電気的な特性の測定が必要である。
薄膜の熱伝導率や熱拡散率の測定方法に関しては、これまでにも3ω法、TWA法、サーモリフレクタンス法など多くの報告があるが、熱電変換材料の探索にとって最も重要なゼーベック係数の分布の評価に関しては、報告事例や応用例が少なく、材料のミクロ分析技術・スクリーニング技術としての適用可能性を広く検討することができなかった。しかし最近になって高性能熱電変換材料開発のためにはゼーベック係数の2次元分布評価技術が重要なキーテクノロジーであることが明らかになり、実用的な仕様をもつ測定装置の開発が待ち望まれていた。
産総研では1999年より、排熱からの電力回収を目指した高効率セグメント型熱電変換素子の開発に取り組んでおり、その際に素子内部の熱伝導率やゼーベック係数のマイクロメートルオーダーの分布測定の重要さに気付き、サーマルプローブ型の熱/電気特性2次元可視化装置を開発に着手した。測定装置は第1世代のプロトタイプ(1999年)にはじまり、第2世代(2003年)で改良が加えられ、熱電変換材料内部のゼーベック係数分布や熱伝導率分布の2次元可視化が大変有用であることを明らかにしてきた。さらには、セラミクス等他の工業材料のミクロ熱特性評価や、木材などのバイオ由来材料への適用可能性、薄膜の熱特性評価方法としての適用可能性に関しても調査・検討をおこなってきた。
これらの一連の研究開発において、実用化に際して一番望まれることは、定量性を損なわずに測定時間を短縮することであった。このため今回開発した第3世代では、プローブの駆動機構やデータの収集・解析アルゴリズムに改良を加え、より高速の実用性の高い2次元可視化装置を開発するに至った。
なお、本開発の一部は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 国際共同研究助成事業「スピントロニクスによる酸化物熱電変換材料中の電子エントロピー制御と高効率平板熱電変換素子開発に関する国際共同研究」の助成を受けて実施したものである。
今回開発したサーマルプローブ型熱/電気特性2次元可視化装置の原理図を図2に示す。加熱したプローブで試験材料の表面に対して一定加重での接触を繰り返しながら走査するため、一つ一つのプローブ動作ならびにデータ収集・解析ルーチンを高速化することが必要である。これまでの熱測定では、プローブの接触後に温度安定化のための待ち時間を数~数十秒が必要であったが、プローブ接触直後からの電位やプローブ温度の過渡的な変化を解析して、高速にゼーベック係数と熱伝導率を推定するアルゴリズムの採用や、プローブとステージの駆動系の高速化を行い、最終的に1点あたりに必要とされる計測時間は3秒以下となり、高速化に成功した。
また測定場所の調整が簡単に行えるよう、CCDカメラによる画像上で任意の場所の計測をすることができる。従来装置と比較して格段に作業性が良くなり、材料の物性値のミクロ分布観察やコンビナトリアル材料開発におけるスクリーニング評価等に実用に十分に応えうる評価装置となった。
|
図2 サーマルプローブ型熱特性マッピング装置の外観と原理図 |
本装置を使って、熱電変換材料のベーゼック係数の分布を測定した結果の一例を図3に示す。一方、図4は材料の熱伝導率を可視化した測定結果の一例である。
|
図3 (Bi,Sb)2Te3溶融凝固多結晶のゼーベック係数マッピング画像
(a)直径20mmの試料全体のゼーベック係数分布 (b)左図の黒枠に示す5mmx5mm部分の拡大図 |
|
図4 孟宗竹の断面の熱伝導率の可視化画像 |
|
図5 プリント基板上の銅配線部分の熱拡散性の可視化画像 |
また、図5は電子部品を実装したプリント基板の配線部分の熱拡散性のマッピング画像である。同図に示すように、銅のプリント配線が下にある部分では熱拡散性が高いことが明瞭に可視化されており、熱特性が大きく異なる材料が複合化されたサンプルに関しても、熱拡散性の定性評価に利用が可能であり、いろいろな分野に応用が可能である。
今回開発した装置は、熱電変換材料をはじめとする半導体や金属材料のミクロ評価のための実用的な装置として基本機能はほぼ完成している。多種多様な試験材料の実測定を通して、実機を産業界に提供していきたいと考えている。