発表・掲載日:2006/10/04

マイクロバブルから作る中空マイクロカプセル

-安心・安全な血管造影剤などを簡便に製造可能に-

ポイント

  • 大きさ1~数100µm(マイクロメートル)の中空マイクロカプセルの製造に成功
  • 生分解性高分子で作れば、血管造影や酸素デリバリーが可能に

概要

中空マイクロカプセルの光学顕微鏡写真
図 生分解性高分子で作成した中空マイクロカプセルの光学顕微鏡写真
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長 大和田野 芳郎】竹村 文男 主任研究員 と 国立大学法人 東京大学【総長 小宮山 宏】(以下「東大」という)新領域創成科学研究科【研究科長 磯部 雅彦】大宮司 啓文 助教授 は共同で、1~数100µmの大きさを持つ中空マイクロカプセルの製造に成功した。

 これまで中空マイクロカプセルは液体を内包したマイクロカプセル内の液体を排除するかあるいは熱を加えて膨張させることで内部を空洞化していたが、産総研と東大は、液体中に発生させたマイクロバブルの周囲に、表面での重合反応等によって、厚さ数百nm(ナノメートル)~数µmの殻を生成させる方法を開発した。この方法により、 1~数100µmの大きさを持つマイクロバブルとほぼ同一サイズの中空カプセルを、簡便に製造することができる。

 マイクロカプセルの殻の材料としては、一般の高分子やポリ乳酸などの生分解性高分子を使用できる。殻物質が生分解性の場合、体内へ導入することもできることから血管の造影剤としての応用も可能である。また、殻の密封性が高いことから、局所的に酸素が必要な場合での酸素デリバリー用カプセルとしての応用も可能である。

 なお、本技術内容は2006年10月11~13日に行われる2006産学官技術交流フェア(於東京ビッグサイト、日刊工業新聞社主催)にて展示される予定である。


研究の背景

 マイクロカプセルは記録材料、医薬品用カプセル、光学材料(光散乱向上材料)などに利用されており、さまざまな分野で応用されている。

 これまでのマイクロカプセルの製造方法には大きく分けて界面重合法コアセルベーション法界面沈澱法液中乾燥法などがある。原理的には微粒化した芯物質を適当な媒質中に分散し、次いで微粒子の膜で被覆する。液体あるいは固体を芯物質として利用しており、気体を芯物質として球形の中空マイクロカプセルを上記の方法で製造した例はない。これまでの中空マイクロカプセルの製造方法としては、液体を内包するマイクロカプセルを生成し、その内部の液体を蒸散させて中空にする方法、あるいは同様のマイクロカプセルを熱膨張させて生成する方法がある(図1上参照)。しかし、内部液体を蒸散させる方法では、蒸散させるプロセスが必要であること、殻がガス透過性を持つ必要があること、殻の強度が落ちることなどさまざまな制約あるいは問題が伴う。また、蒸散等に時間がかかることから大量にマイクロカプセルを生産することは難しく、コストもその分高くなる。さらに芯物質液体の微粒化に長時間を要することから効率が低い。一方、熱膨張を利用する方法では内包した液体を気化させて膨張させるという原理上10µm以下の小さいカプセルを作ることは難しい。

一般的な中空カプセル製法の図
気泡を使った方法の図
図1 一般的な中空カプセル製法と気泡を使った方法の違い

 中空マイクロカプセルはこれまで表面改質剤、断熱材、クッション剤など限られた範囲での利用が多かった。しかし、マイクロメートルのサイズを持つ中空マイクロカプセルを簡便に作成する技術が確立されれば、 より広い範囲での応用が期待できる。特に、数µm程度の大きさでかつ生体適合する殻材料で中空マイクロカプセルを作成できれば、血管造影剤など医療用材料としての応用が可能である。

研究の経緯

 以上の背景のもと、産総研と東大はこれまで培ってきたマイクロバブルに関する知見を生かし、マイクロバブルの特性を生かした新材料の開発を目指し、「中空マイクロカプセル製造に関する研究」に共同で取り組むこととなった。

研究の内容

ポリ乳酸に蛍光物質を混入した中空マイクロカプセルと中実粒子のレーザ顕微鏡写真
図2 ポリ乳酸に蛍光物質を混入した中空マイクロカプセル(左)と中実粒子(右)のレーザ顕微鏡写真
 
ポリ乳酸中空マイクロカプセルの超音波造影効果の画像
図3 ポリ乳酸中空マイクロカプセルの超音波造影効果

 今回、産総研と東大は、液体中に発生させたマイクロバブルの周りに直接殻を生成させることに成功した(図1下参照)。この方法により、液体中に大量に生成させた1~数100µmの大きさを持つマイクロバブルとほぼ同一サイズの中空カプセルを、安価でかつ簡便に大量に製造することが可能になった。また、マイクロカプセルの殻は一般高分子材料あるいは生分解性の高分子などで製造でき、それぞれ以下のような特徴がある。

○生分解性中空マイクロカプセル

 体内で分解される生体高分子材料(ポリ乳酸、ポリグリコール酸やその共重合体、ポリカプロラクトン、他)を殻の物質として2~20µmの径を持つ、中空マイクロカプセルを生成することに成功した(図2参照)。液滴(生分解性高分子溶液)中にマイクロバブルを発生させ、溶媒を乾燥させることで中空マイクロカプセルが生成する。カプセルのサイズは最小で2µm程度と小さく、体内の毛細血管を淀みなく通過することができるとともに、超音波によって造影することが可能である。(図3参照)

 なお、物理的に界面に高分子を集める方法を用いているため溶媒に溶ける固体材料であれば生分解性高分子に限らずマイクロカプセルを作ることができる。

○汎用プラスチック中空マイクロカプセル

 気泡表面で直接化学的に重合反応を起こさせることで、中空マイクロカプセルを生成できる。生成したマイクロカプセルは殻の厚さが数百nmと非常に薄いため浮力により水中を上昇する。反応時間やpH、ガスの種類などの条件を変化させることによって、様々な大きさの中空マイクロカプセルを製造できる。マイクロサイズの気泡は溶解・合体などにより安定して液中に保つのは長時間困難であるが、中空カプセルは薄い殻を持つため、安定にかつ大量に液中に保たれる。(図4参照)

水面でのメラミン中空マイクロカプセルと電子顕微鏡写真
図4 水面でのメラミン中空マイクロカプセルと電子顕微鏡写真

今後の予定

 今後は、作成した中空カプセルの血管造影剤への可能性を検討するとともに、酸素デリバリーのためのカプセルとしての可能性を探る。また、薬品担体、汎用の工業材料への応用可能性についても検討していく予定である。



用語の説明

◆界面重合法
界面重合法は界面における重合反応をマイクロカプセル化に利用する。多くの場合に縮重合反応が利用される。例えば、油溶性モノマーとしては酸クロライド、セバコイルクロライド、テレフタル酸クロライド、水溶性モノマーとしてポリアミン、ポリフェノールを用い、壁物質としてポリアミドやポリエーテルを用いて重合反応を起こし被膜することができる。 [参照元へ戻る]
◆コアセルベーション法
コアセルベーション法は相分離とそれに基づく界面化学的な変化を利用している。例としてはゼラチンーアラビアゴムの組み合わせによるマイクロカプセルが有名である。[参照元へ戻る]
◆界面沈澱法
界面沈澱法は温度やpH等の条件の違いによる溶解度の差を利用して、液中に分散させた芯物質の表面に壁物質を付着させてカプセル化する方法である。[参照元へ戻る]
◆液中乾燥法
低沸点の有機溶媒にポリマーおよび芯物質を溶解し、親水性コロイドまたは活性剤を含む連続相中に加えて安定なO/Wエマルジョンを形成させた後に、減圧または加熱によって有機溶媒を除去して皮膜を作る方法。[参照元へ戻る]

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