発表・掲載日:2006/09/11

日米間で組織を超えた超広帯域ネットワークの帯域予約を自動化

-予約を管理するソフトウェアを連係させる実証実験に世界で初めて成功-

ポイント

  • 管理ドメインが異なるネットワークをまたがる帯域予約の自動化は世界初
  • 日米が独自に開発したソフトウェア同士の連係動作を実現
  • グリッド技術による高性能計算、デジタルデータによる超高精細シネマ配信などが容易に

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】、独立行政法人情報通信研究機構【理事長 長尾 真】(以下「NICT」という)、株式会社 KDDI研究所【代表取締役所長 秋葉 重幸】(以下「KDDI研」という)、日本電信電話株式会社【代表取締役社長 和田 紀夫】(以下「NTT」という)が実施しているG-lambdaプロジェクトは、米国のEnlightened Computingプロジェクトと協力し、日米の異なる予約管理ソフトウェアを連係動作させた、日米間のネットワークの帯域の予約の自動化に世界で初めて成功しました。これにより、G-lambdaプロジェクトで開発・提案しているネットワークの帯域を予約するためのインタフェースGNS-WSI規定の有効性が実証されました。

日米間のネットワーク帯域確保の様子を示したモニタ画面の図
図1 日米間のネットワーク帯域確保の様子を示したモニタ画面

 従来のGMPLSなどのネットワーク制御プロトコルは、要求に応じて即時にネットワークの帯域を確保するオンデマンド型です。しかし、このような制御プロトコルを用いるだけでは、要求時に空き帯域が無く、必要な帯域が利用できない状況が生じる可能性があります。一方、実際に広帯域のネットワークを使うアプリケーションでは、決められた時間に確実に帯域を利用できることが必須となります。例えば、ネットワークを介してライブ中継を行おうとしたときに、空き帯域が無く利用できないようでは中継が成立しません。G-lambdaプロジェクトが提唱しているGNS-WSIは、アプリケーションからの帯域予約を実現するインタフェースであり、これを用いることによって計画した時間帯に確実に帯域が利用できるようになります。

 このような、予約による帯域確保を、特に異なる組織が運用するネットワーク(ドメイン)の境界を超えて行うには、それぞれの組織が運用する予約管理ソフトウェアを連係させる必要があります。本実証実験では、世界で初めて予約管理ソフトウェアの連係動作を実現し、日米の3つのドメイン間での帯域予約を行いました。

 実験では、日米それぞれのアプリケーションの要求に応じて、日米の複数のクラスタ計算機と、それらのクラスタ計算機間を接続するネットワークの帯域が予約され、予約時刻が来るとネットワークの帯域が確保されるとともにクラスタ計算機においてアプリケーションが実行されることが確認できました。これによりG-lambdaプロジェクトで検討を進めているGNS-WSIインタフェースの有効性が実証されました。

 この技術により、ドメインを超えたネットワークの帯域と計算機の予約の自動化が可能になり、離れた場所に設置された計算機群を用いたグリッド技術による高性能計算、広域分散データセンターサービス、デジタルデータによる超高精細シネマ配信など、大容量ネットワークを必要とするアプリケーションが、ネットワークプロバイダや国と国との境界を超えて広く使われるようになることが見込まれます。

 本成果は、9月11日と12日に秋葉原コンベンションセンターで開催される国際会議「第6回Annual Global LambdaGrid Workshop」においてEnlightened Computingプロジェクトと共に発表し、これに合わせて11日から13日までデモンストレーションを行います。また、産総研、NICT、KDDI研、 NTTは、今後もGNS-WSIの詳細仕様の策定を進め、オープンでかつ国際的な標準技術として確立されることを目指します。


背景

 インターネットを介した高精細画像の転送や、離れた場所に設置された複数の計算機を用いた高性能計算など、毎秒ギガビットを超えるような帯域が必要な用途では、データがおかれたストレージや計算機と、それらをつなぐネットワークの帯域が同時に確保されることが重要です。ところが、従来は、計算機などの資源とネットワークは別々に管理されており、アプリケーションからの要求に応じて同時に確実に利用できるようにするには、常に専用線や専用帯域を確保しておくか、管理者同士のメールや電話による調整を行う必要がありました。このため、アプリケーションからの要求に応じた必要な帯域のネットワークの確保(予約)を自動化する技術が求められています。

 G-lambdaプロジェクトでは、ネットワークの帯域の予約を実現するために、ネットワークの管理ソフトウェア(ネットワーク資源マネージャ)が提供するネットワーク資源予約のためのインタフェースGNS-WSIを規定することを目標としています。このようなインタフェースが標準化されれば、ユーザは、多くのネットワーク運用組織から共通のインタフェースを介したサービスを受けることが可能になります。G-lambdaプロジェクトでは、GNS-WSIの有効性を示すために、平成17年9月に国内のネットワークを用いて、アプリケーションから、クラスタ計算機とネットワーク帯域を同時予約する実証実験を行い、予約・実行に世界で始めて成功しました【図2】。

 しかし、平成17年の実験では、単一のネットワーク資源マネージャを用いており、アプリケーションも一ヶ所から実行されるものでした。このため、異なる管理組織に属するネットワークにまたがって帯域を確保することはできませんでした。

 このような異なる管理組織にまたがるネットワーク帯域予約の自動化は実現しておらず、これまでの日米間画像転送実験などでは、管理者同士が互いに電子メールなどで連絡を取り合って帯域の確保を行っており、調整に1ヶ月近く要することもありました。

平成17年の実証実験構成図
図2 平成17年の実証実験構成図

実証実験の内容

1. 実験のドメイン構成と複数ドメインをつないだ帯域確保

 今回の実験では、NICTが運用する研究開発用ネットワークJGN2の日米間ネットワーク、国内GMPLSネットワークと、米国内のNLR(National Lambda Rail)の光パスネットワーク、及びこれらのネットワークにつながった国内7ヶ所、米国4ヶ所のクラスタ計算機を用いました。実証実験に活用したJGN2のGMPLSネットワークは、光クロスコネクト装置(OXC)とGMPLSルータで構成され、NICTつくばリサーチセンターが、KDDI研究所及びNTTと協力して、ネットワークの最適化、運用管理及び日米ネットワーク間の接続手法の確立に取り組みました。

 実証実験では、このような実験環境上で、複数のクラスタ計算機とそれらをつなぐネットワークの帯域の同時予約を行いました。ネットワークは、国内で2つ、米国が1つの異なるネットワーク資源マネージャに制御される3つのドメイン(Japan North, Japan South, US)から構成されています【図3】。また、ドメイン間接続の帯域を管理する接続ポイントとして、X1, X2という2つの接続点を設けています。例えば、Japan NorthドメインからX1を介したUSドメインへの帯域を確保する場合、Japan Northドメイン内で、接続点X1との境界であるX1Nまで、USドメインの帯域を確保します。

実験に用いたネットワークとクラスタ計算機の構成図
図3 実験に用いたネットワークとクラスタ計算機の構成図

管理ソフトウェア連係図
図4 管理ソフトウェア連係図

2. 組織により異なる管理ソフトウェアの連係【図4】

 このような、異なるドメインに属するネットワークの帯域や計算資源の予約には、それぞれの組織で用いられている管理ソフトウェアを連係動作させる必要があります。今回の実験では、ネットワーク資源マネージャについては、国内ではKDDI研とNTTがそれぞれ開発したGNS-WSIに準拠した2つのネットワーク資源マネージャを、米国側ではEnlightened Computingプロジェクトが独自に開発した1つのネットワーク資源マネージャを用いており、日本側のアプリケーションのための米国側ネットワークの帯域の予約については、Enlightened Computingプロジェクトが開発したネットワーク資源マネージャおよび中間ソフトウェアが、GNS-WSIを介した資源予約を受け付けることにより連係動作を実現しています。これは、G-lambdaプロジェクトで規定しようとしているGNS-WSIインタフェースが、複数のネットワークや計算資源の提供者、および複数のユーザからなる環境でも正しく動作することを示した点で大きな意義があります。

 また、計算資源マネージャについても、国内では産総研が開発したものを、米国ではEnlightened Computingプロジェクトが開発したものを用いており、提供するインタフェースが異なるため、インタフェースを変換する中間ソフトウェアを日米それぞれで開発し、連係動作を実現しました。

3. アプリケーションの要求による予約と実行

 利用者が要求する資源の予約とアプリケーションの実行は以下のように進められます。

 日本側では、アプリケーションが必要とする計算機、ネットワークの帯域などの資源をGUIにより指定し、この要求を元に、統合予約管理を行うグリッド資源スケジューラが資源を予約します。グリッド資源スケジューラは利用者からの要求を受け取ると、各拠点の計算資源マネージャに計算資源の状況を問い合わせると共に、GNS-WSIを介して日米3つのネットワーク資源マネージャに帯域の利用可能状況を問い合わせながら要求を満たす資源を見つけ、予約します。予約した時刻になると、ネットワークの帯域が自動的に確保され、各クラスタ計算機上の計算資源マネージャが計算処理の実行を開始します。

 一方、米国側では、Enlightened Computing側のアプリケーションの要求により、Enlightened Computing独自の統合予約管理ソフトウェアが各拠点の計算資源マネージャおよび3つのネットワーク資源マネージャと連係して、必要な計算機とネットワークの帯域の予約を行います。米国側から日本側のネットワーク、および計算資源を予約する際には、日本側の中間ソフトウェアがインタフェースの変換を行います。予約時刻になると、日本側のアプリケーションと同様に計算資源マネージャが計算処理の実行を開始します。

 このように、本実証実験で用いた方式では、日米それぞれ独立にアプリケーションから予約を確保することができます。即ち、複数のアプリケーションと、複数の管理ソフトウェアが同時に連係し、それぞれの処理を行うことが出来るため、拡張性が高く、より大規模かつ多くのドメインからなるネットワークや計算機の資源予約が可能です。

今後の予定

 本成果は、9月11日と12日に秋葉原コンベンションセンターで開催される国際会議「第6回Annual Global LambdaGrid Workshop」においてEnlightened Computingプロジェクトと共に発表し、これに合わせて11日から13日までデモンストレーションを行っています。また、産総研、NICT、KDDI研、 NTTは、今後もネットワーク資源マネージャが提供するインタフェースGNS-WSIの詳細仕様の策定を進め、オープンでかつ国際的な標準技術として確立されることを目指します。

 なお、本実証実験における産総研の研究開発の一部は、産総研とNTTが共同で推進している文部科学省科学技術振興調整費「グリッド技術による光パス網提供方式の開発」により行っています。



用語の説明

◆ドメイン
管理や制御の目的で分離されたネットワークの範囲。[参照元へ戻る]
◆G-lambdaプロジェクト
ネットワークの帯域の予約を実現するために、ネットワークの管理ソフトウェアが提供するネットワーク資源予約のためのインタフェースGNS-WSIを規定することを目的として、産総研、NICT、KDDI研、NTTが実施している共同研究の呼称。 プロジェクトホームページ: http://www.g-lambda.net/ [参照元へ戻る]
Enlightened Computingプロジェクト
National LambdaRail、ノースカロライナ州立大学、Renaissance Computing Institute at UNC Chapel Hill、MCNC、ルイジアナ州立大学、Southeastern Universities Research Association, Naval Research Lab. と、Cisco Systems, IBM, AT&T Research and Calient Networksが参加する共同研究の呼称。[参照元へ戻る]
◆GMPLS(Generalized Multi-Protocol Label Switching
IPルータの制御に用いられているMPLS(Multi-Protocol Label Switching)プロトコルをベースに、光クロスコネクト等の光ネットワーク装置への適用も可能となるよう拡張したプロトコル群。[参照元へ戻る]
◆クラスタ計算機
たくさんの計算機をまとめて一つの計算システムとして構成したもの。[参照元へ戻る]
Annual Global LambdaGrid Workshop
GLIF(Global Lambda Integrated Facility)が開催するワークショップ。GLIFは、ラムダネットワーク(光ネットワーク)の相互接続等を推進するためにできた国際的な組織であり、各国の研究ネットワーク、研究所、組織、大学等がその活動に参加し、年に1回、世界各国でワークショップを開催している。[参照元へ戻る]
◆資源
アプリケーションの実行に必要とされるCPU、ネットワーク、メモリ、ストレージなど。[参照元へ戻る]
◆ネットワーク資源マネージャ
拠点間のネットワーク帯域幅が要求されると、要求内容に従って、ネットワークの帯域を予約・確保するソフトウェア。日本国内では、GMPLSネットワーク上の光パスを予約・確保している。[参照元へ戻る]
◆JGN2
NICTが2004年4月から運用しているオープンな研究用の超高速・高機能研究開発テストベッドネットワーク。[参照元へ戻る]
National Lambda Rail
全米規模の光ネットワークテストベッドで、米国内の各研究機関に10ギガビットレベルの接続性を提供している。[参照元へ戻る]
◆光パス
ノード間に設定されるギガビットクラスの高速回線で、ひとつの波長を占有して提供されるために閉域性が高く通信品質が保証されることが特長である。[参照元へ戻る]
◆光クロスコネクト装置(OXC)
入力された光パスの送出先を光スイッチの設定変更により自在に変更する大容量の通信装置。[参照元へ戻る]
◆接続点
今回の実証実験で用いた接続点は、ドメイン間接続を指定しやすくするためのもので、実際には実体がありません。しかし、将来は、光クロスコネクト装置などを使ってドメイン間をつないだり切り離したりするようなサービスも考えられます。[参照元へ戻る]
◆計算資源マネージャ
計算機等の計算を行う装置(資源)を統括するプログラム。実際には、個々のクラスタ計算機上の計算資源マネージャと、それらを束ねるプログラム(グリッドミドルウェアがこの機能を持つこともある)から構成される。[参照元へ戻る]
◆GUI
Graphical User Interface。グラフィックによりユーザに情報を提供し、マウスなどのポインティングデバイスを用いて操作するユーザと計算機間のインタフェース。[参照元へ戻る]
◆グリッド資源スケジューラ
グリッドは、利用者の要求に応じて、地理的に分散した計算機やストレージ、観測装置などの様々な資源を柔軟に、容易に、統合的に、そして効果的に利用するためのネットワーク利用技術およびそれに基づく基盤(インフラストラクチャー)。グリッド資源スケジューラは、グリッドを構築するために必要な計算機、ストレージなどの装置(資源)の利用時間、順序などの利用スケジュールを自動的に決定するプログラム。[参照元へ戻る]


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