独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【部門長 瀬戸 政宏】地圏環境評価研究グループ 駒井 武 研究グループ長および 川辺 能成 研究員は、近年大きな社会問題となっている土壌汚染の健康リスクを個々の現場ごとに定量化できる地圏環境リスク評価システム(Geo-environmental Risk Assessment System、以下「GERAS」という。)をわが国で初めて開発し、本日一般に公開する。
URL: http://unit.aist.go.jp/georesenv/topicslog6.html
土壌汚染防止法の施行に伴い土壌・地下水汚染のリスクを適切に管理するため、汚染現場の調査・モニタリングによる汚染の程度、規模、拡がりなどの技術的な評価を行うことが必要となっている。また人や生態系に対する影響について定量的な評価が必要であるが、これまで人の健康へのリスクを定量的に評価する統一的な手法がなかった。そのため全国各地の土壌汚染現場において汚染対策の初期段階の検討すら困難に直面して手が付けられない状態である。
今回開発したGERASは、事業所などの自主的な環境リスク管理、油分や難分解性化学物質のような未規制対象物質のリスク評価、土壌汚染対策のリスク低減効果の把握、汚染現場に特有の土壌特性や地下水の流れを反映させるなど、現場に即したリスク管理ツールとしての活用が期待される。
企業用地や市街地等の土壌汚染による環境問題が大きくクローズアップされている。近年、産業活動に起因した土壌・地下水汚染の事例が増加しており、平成15年には土壌汚染防止法が施行された。同法施行に伴い事業所や市街地における土壌・地下水汚染のリスクを適切に管理することが求められ、そのためには汚染現場の調査・モニタリングによって取得したデータを用いた汚染状態の程度、規模、拡がりなどの技術的な評価を行うことが必要である。また、汚染評価の結果や化学物質の情報をもとに、人や生態系に対する影響について定量的に評価することが必要である。しかしながら、これまでわが国では人への健康リスクを評価する統一的な手法がなく、土壌汚染のリスク管理を実施するための技術基盤が十分とは言えなかった。
このような社会状況やリスク評価の重要性に基づき、産総研は、化学物質による健康影響の発生確率と影響度(毒性値)を基礎として、定量的に土壌・地下水汚染による健康リスクを科学的に評価するためのコンピュータシステムをわが国で初めて開発した。
GERASは、土壌・地下水汚染によるリスク評価のほか、生態系への環境影響や汚染浄化の効果などの評価にも適用できる。現在、土壌・地下水汚染のリスク評価システムとして社会への技術移転・普及を活発に実施している。
GERASは、暴露評価とリスク評価を基礎とした健康影響の判定、及び浄化目標の濃度レベルやリスク設定のための“スクリーニングモデル”と、汚染現場の土壌特性、汚染物質の分解特性などを考慮して個別サイトのリスクを評価する“サイトモデル”から構成される。このうちスクリーニングモデルは、すでに多数の事業所や自治体などに試用供与されている。今回、サイトモデルの開発が完了し、専門家の審査・評価を受けて公開するに至った。
開発したGERASは、土壌や地下水を汚染している化学物質の人への暴露量およびリスクを算出できるものであり、
Windows上で容易に使用することができる。主に事業所などの自主的なリスク管理を実施するために使用する評価システムである。汚染物質としては、土壌汚染対策法で規定されている重金属等、揮発性有機化合物に加えて、油分、PCB、ダイオキシン類などのリスク評価が可能である。
本研究では、土壌汚染に関わる暴露評価とリスク評価の方法論を確立するとともに、サイトモデルで使用する計算式の妥当性を確認した。また、わが国における特有の土壌特性や人への暴露条件などを反映させ、汚染現場の内部あるいは外部に居る人の暴露量とリスクを算定することを可能にした。さらに、土壌・地下水の特性、汚染物質の物性や毒性などのデータベースを整備することにより、利用者に親しみやすいコンピュータシステムとして完成させた。
GERASは下記ウェブサイトから申し込むと、CD-ROMの形で、無償で配布される。
URL: http://unit.aist.go.jp/georesenv/
(研究開発の内容)
地圏環境リスク評価システムの要素として、“スクリーニングモデル”および“サイトモデル”を完成させたので、今後は汚染物質の移流・拡散、土壌吸着および微生物分解などの特性を解析できる3次元リスク評価モデルである“詳細型モデル”を開発する予定である。