発表・掲載日:2006/03/02

20万分の1日本シームレス地質図全国版を公開

-全国統一基準で作成した国内で最も詳細な広域地質図をインターネットで公開-

ポイント

  • 全国統一基準で作成した国内で最も詳細なデジタル版広域地質図が完成。
  • インターネット上で、誰でも自由に閲覧できる。
  • 地震や火山情報、地滑り情報、重力図、衛星画像と比較するなど、さまざまな地質情報の基本図としての利用が期待される。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】統合地質情報研究グループ 脇田 浩二 研究グループ長、宝田 晋治 主任研究員、井川 敏恵 産総研特別研究員、Joel Bandibas重点研究支援協力員、吉川 敏之 主任研究員らは、地質調査総合センターと共同で、全国の20万分の1日本シームレス地質図を完成させた。これは、全国統一基準の地質図としては、現在国内で最も詳細な広域地質図となる。産総研の研究情報公開データベース(RIO-DB)において一般公開中である(図1)。今後、地震や火山情報、地滑り情報、重力図、衛星画像と比較するなど、さまざまな地質情報の基本図としての利用が期待される。

20万分の1日本シームレス地質図データベース画面画像
図1. RIO-DBで一般公開中の20万分の1日本シームレス地質図データベース
https://gbank.gsj.jp/seamless/



研究の背景

 産総研地質調査総合センター(旧地質調査所)では、国土の地質学的実態を明らかにするため、5万分の1、20万分の1、100万分の1など、目的に応じて様々な縮尺の地質図を作成している。5万分の1と20万分の1の地質図は、地形図の区画に合わせて表示することから、地質図幅とよばれ、国土の詳細な地質情報として利用価値が高い。

 地質図幅は、作成した当時の地質学の知識や見解を反映し、その時代における最新の地質情報がまとめられたものである。また、凡例についても個々の地質図幅において独自に設定されている。このことから、作成年の違いにより、隣り合う地質図幅においては地質境界線や地質構造、あるいは凡例の表示が不一致になっていることがある(図2)。

 近年、地質災害、産業立地、環境などの問題を解決するため、国土の地質情報整備の重要性が高まり、その基礎となる地質図に関しては地質図幅の区画にとらわれずに利用することができる、全国を統一した凡例で表示したより精度の高いシームレス地質図が求められている。

シームレス化する前の北海道南西部の20万分の1地質図幅の画像
図2.シームレス化する前の北海道南西部の20万分の1地質図幅「札幌」「岩内」「室蘭」「苫小牧」をつなぎあわせたもの。
隣り合う地質図の地質境界線がつながらないことがあり、凡例が地質図によって異なる。
 

研究の経緯

 これまでに日本全国を統一凡例でまとめた地質図は、100万分の1以下の小縮尺地質図しか存在しなかった。しかし、今後各種の地質情報を発信するデータベースの基本図とするには、より詳細な地質区分や精度の高い位置データなどの地質情報が必要不可欠である。20万分の1地質図幅は、既に全国の90%近くがカバーされており、100万分の1地質図に比べて、地質区分が詳細であり、格段に位置精度が高い。そこで、20万分の1の地質図幅のデジタルデータなどを使用して、最新の地質学の概念で全国統一凡例の20万分の1日本シームレス地質図の作成を行うこととした。また、地質図の数値化を行うことによって地理情報システム(GIS)の上での利用が可能となり、任意の範囲で情報を切り出すことができるほか、パソコン上で利用者のさまざまな目的に応じて地質データを取り扱うことが可能となる。更には、最新の研究成果に応じて改訂版を比較的容易に作成できる利点がある。産総研研究情報公開データベース(RIO-DB)によるWeb公開(図1、図3)は、最近のインターネット時代に対応して、蓄積された地質情報をより広く社会に還元するための一つの試みである。

Zoomviewによる北海道地域の20万分の1日本シームレス地質図の表示の画像
<拡大図>

図3.Zoomviewによる北海道地域の20万分の1日本シームレス地質図の表示。
任意の地域の地質情報を自在に拡大縮小しながら閲覧可能である。図2と同じ範囲。
 

研究の内容

 20万分の1日本シームレス地質図の作成に当たっては、まず既存の100万分の1日本地質図第3版をもとに、全国統一基準の凡例を作成した。この凡例を基準にして、それぞれの地質図について地層や岩石の地質学的な関係を検証し、地質構造や地質時代を再整理する。その上で、最新の地質学の知識に基づいて地質の再解釈を行ない、すべての20万分の1地質図幅について隣同士の地質境界線や断層などの地質構造をつなぎ合わせた。さらに、地理情報システム(GIS)を使って、地層・岩体境界、地質構造の境界部分のずれなどを修正し、全国1枚のシームレス地質図を完成させた。

 完成した20万分の1日本シームレス地質図は、研究情報公開データベース(RIO-DB)上で、一般に公開している。そのため、インターネットに接続できる環境があれば、どこからでも日本全国の地質情報を閲覧することが可能である。RIO-DB上では、ユーザーの環境やニーズに応じて、産総研が独自に開発した閲覧ソフトであるJ-GeoView、および市販のZoomviewZoomaの3通りの方法で各地域の地質図を自在に拡大縮小しながら閲覧することができる。J-GeoViewでは、カーソルをもっていくだけで、その地点の地質の説明を参照できる仕組みを新たに開発した(図4)。さらに、各地域のjpg形式のラスタ画像をダウンロードすることも可能である。また、20万分の1日本シームレス地質図をよりよく理解するための、サポートぺージも開設している(図5)。

J-GeoViewによる富士山地域の地質情報の表示画像
<拡大図>

図4.J-GeoViewによる富士山地域の地質情報の表示。カーソルを持っていくと自動的に、専門家向けと一般向けの説明が表示される。
 

20万分の1日本シームレス地質図サポートページ画像
図5.20万分の1日本シームレス地質図サポートページ。一般の方の理解を助けるため、わかりやすい地質の解説を行っている。
 

今後の予定

 現時点では、凡例数約200の地質図となっているが、今後は岩石の種類や形成年代をより詳細にするために、凡例数約400の地質図の作成を目指す。作成した20万分の1日本シームレス地質図は、ラスタ形式とベクタ形式のデータを整備した上で、DVDなどの形で出版する予定である。



用語の解説

◆シームレス地質図
隣り合う地質図の地質境界線や断層などの不一致を調整し、統一凡例で表示した地質図のこと。このようにして作成された継ぎ目のないシームレス地質図は、地質の特徴が理解しやすく、利用価値が高い。[参照元へ戻る]
◆地質図幅(ちしつずふく)
産総研地質調査総合センターで出版している地質図は、20万分の1と5万分の1地質図については、国土地理院で発行している地形図と同じ区画を使用している。この区画ごとに作成された地質図を「20万分の1地質図幅」、「5万分の1地質図幅」と呼んでいる。[参照元へ戻る]
◆凡例(はんれい)
地質図で表示されている地層や岩石の種類・特徴・地質時代、地質構造や化石産地の記号、および模様・色などを説明したもので、地質図を理解するための解説。[参照元へ戻る]
◆地理情報システム(Geographic Information System, GIS)
地形図や地質図などの各種の地理情報に対して、地球上の緯度経度などの位置情報を与えることにより、コンピュータ上で、それぞれの情報を互いに重ね合わせ、解析することが可能となる。最近のコンピュータ技術の進歩により、この分野は急速に発展してきている。地理情報システムを利用すれば、各種の膨大な地球科学関係の情報をコンピュータ上で統一的に扱うことが可能となる。[参照元へ戻る]
J-GeoView
産総研地質情報研究部門のJoel Bandibas氏が独自に開発したウェブブラウザによる20万分の1日本シームレス地質図を閲覧するしくみ。高速で大容量の画像データを拡大縮小することが可能であり、カーソルを持っていくだけで、専門家向けと一般向けの地質解説を自動的に表示する。[参照元へ戻る]
Zoomview
ViewPoint社のプラグインをインターネットエクスプローラなどのウェブ用ブラウザにインストールすることにより、サイズの大きい画像でも高速で拡大縮小できるようにする機能。この機能を利用して、各地域800MB~2GB程度の大容量の地質図データを高速で閲覧できるようにしている。[参照元へ戻る]
Zooma
DreamTechnologies社のプラグインをインターネットエクスプローラなどのウェブ用ブラウザにインストールすることにより、サイズの大きい画像でも高速で拡大縮小できるようにする機能。この機能を利用して、各地域800MB~2GB程度の大容量の地質図データを高速で閲覧できるようにしている。[参照元へ戻る]
◆ラスタ
画像データを色の付いた小さい点の集合で表す方式のこと。デジカメで撮影した写真などは、これに当たる。[参照元へ戻る]
◆ベクタ
画像データを点の座標とそれを結ぶ線などの数値データをもとに再現する方式のこと。データが、点と線の座標と角度や方向の集まりとして扱われるため、データ量が小さく、変形が自由自在であり、拡大縮小しても画質が損なわれない利点がある。イラストレータなどのソフトウェアで作成したデータはこれに当たる。[参照元へ戻る]


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