独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】は、グリッド技術のビジネス応用の一つとして企業や研究所で必要とされるコンピューティングパワーを必要な時に必要な分をユーティリティとして提供するビジネスモデルGridASPTM※を提唱いたします。
従来のASP(Application Service Provider)モデルでは、アプリケーションに合わせてコンピュータや運用者を用意するため運営コストが高くなり、利用者への料金が高くなっていました。そこでGridASPでは図1に示すように、アプリケーション、コンピュータおよびポータルを提供するそれぞれの事業者に分け、利用者からの要請に応じて自由に組み合わせて提供することにより各事業者の経営効率を上げ、利用者への料金を下げることが可能になります。
産総研では、この枠組みを実現するシステムを構築するソフトウェアとしてGridASP Toolkitを開発しβ版が完成しましたので、フリーソフトウェアとして公開しました。このソフトウェアの一部は、平成15年度から行っている経済産業省によるビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトの一環として開発しています。
また、このソフトウェアGridASP Toolkitを用いて企業と協力の下サービス提供の実験環境を構築し、実証実験を開始しました。実証実験では、ソフトウェアの機能検証の他、ビジネス化における問題点の抽出、利用単価の概算、新しいアプリケーションライセンス形態の検討などを行う予定です。
※GridASPは産総研の日本における登録商標です。
これまで、アプリケーションの実行を外部のコンピュータで実行するサービスとしてASPがありましたが、一つの組織が特定のアプリケーションを実行するための専用のポータルとコンピュータを用意して行っていました。そのため、
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ポータル、コンピュータ、アプリケーション、全ての資源と環境を揃えなければビジネスが始められない
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ユーザからのリクエストがない場合はコンピュータが遊んでしまう
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逆にリクエストが予想以上に集まると処理しきれずにビジネスチャンスを失う
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小さいコンピュータシステムであっても運用者が必要でありその人件費が利用者への料金を高くしている
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多くのユーザ企業が製品に関するデータが外部に露出することを避けるが、誰がどういう計算を行っているか、ASP業者には全て知られてしまう
などの問題があり、企業や研究機関のコンピューティングパワーを必要とする業務において、必ずしもASPの利用が広く普及しているわけではないのが現状です。
GridASP とは、様々な計算資源がプールされたグリッド環境から適切な計算資源を組み合わせて仮想的なコンピュータシステムを構成し、必要な時に必要な分をサービスとして利用者に提供するビジネスモデルです。企業や研究機関におけるコンピューティングパワーを必要とするアプリケーションは、ユーティリティコンピューティングのビジネスモデルを早期に展開可能であると想定しており、今回は、そのようなアプリケーションの実行サービスにターゲットを絞っています。例えば、自動車や半導体製造業における設計や解析の業務、金融業におけるリスク解析などはその候補です。
GridASPでは、従来のASPを三つの事業者、すなわち、ポータルを運営するポータル事業者(SP:Service Provider)、アプリケーションを提供するアプリケーション提供者(AP:Application Provider)、コンピュータを提供するリソース提供者(RP:Resource Provider)に分離し、かつ連携させることによって従来のASPに対して以下のような利点を生み出すことが可能となります。
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各事業者の得意な技能だけを持って、または手持ちの資源だけでビジネスへの参画が可能である。
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専門性を生かすことにより事業の経営効率を高めることができる。例えば、クラスタの運用に優れていれば、大規模に運用することで1台当たりの運用コストを他者に比べて低く抑えることができる。
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リソース提供者が、複数のポータル事業者と契約することにより、一方のポータルからの要求が少ない場合でも、他のポータルからの要求を受けることで、所有するコンピュータを有効に活用できる。
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ポータル事業者が、複数のリソース提供者と契約することにより、一つのリソース提供者のコンピュータ利用が一杯であっても、他のリソース提供者に要請することで、アプリケーションの実行を実施することができる。
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ポータル事業者は、複数のアプリケーション提供者が用意したアプリケーションの中から、特定のエンドユーザ向けにアプリケーションを特化して選ぶことにより(たとえば自動車業界向けに構造解析や流体解析等)、エンドユーザに対してポータルの付加価値を高めることができる。
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ポータル事業者はエンドユーザが誰であるかを認識する必要があるが、リソース提供者は認識の必要がない。一方、リソース提供者は何を計算するか知る必要があるが、ポータル事業者は具体的な解析のデータを知る必要がない。従って、「誰が」「何を」の両方を知る事業者をなくすことができる。
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リソース提供者のコンピュータではアプリケーションの実行が終了して結果がポータルに戻された後、全ての関連するファイルを削除し、ユーザデータの第三者への漏洩を防止する。
GridASP のモデルに従い、複数の事業者が連携しコンピュータとアプリケーションを組み合わせ、アプリケーションの実行サービスを提供するシステム構築ソフトウェアをGridASP Toolkitとして開発しています。このソフトウェアの開発の一部は経済産業省のビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトによって実施しています。このソフトウェアでは、コンピュータを仮想化しどのコンピュータでも実行可能とする機能、アプリケーションを他のコンピュータに遠隔地からでも自動的にインストールする機能、誰が何の計算を行っているか計算処理の匿名性を実現する機能、エンドユーザのアプリケーション実行リクエストに対して適切なコンピュータを選択するブローカ機能を実装しています。今回完成したβ版を、Apache Software Licenseに従って公開します。なお、GridASP Toolkitを利用してシステムを構築する際、Globus Toolkit 4 の他、いくつかのソフトウェアを使用する必要があります。
GridASPによるビジネスの実現可能性を検証するため実証実験を行います。この実験は、以下の二つの取り組みとして実施します。
第一の実験は、開発したソフトウェアGridASP Toolkitの機能検証を実施するもので、経済産業省のビジネスグリッドコンピューティングプロジェクトの一環として行っています。参加企業については、下記の表をご覧下さい。アプリケーションは製薬企業で必要な化学分野の計算を行うソフトウェアを用い、コンピュータは産総研のAISTスーパークラスタの一部を用いています。既にシステム構築を終え、10月から3ヵ月間の試験利用期間に入りました。この実験を通じて、システムの構築・運用・利用といった各プレーヤの立場からGridASP Toolkitの評価を行います。
表1 第一のGridASP実証実験における共同研究先企業(50音順)
組織名 |
役割分担 |
インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス株式会社 |
・GridASPポータルの運用 |
三共株式会社 |
・GridASPシステムの利用 |
ビジネスサーチテクノロジ株式会社 |
・GridASPシステムの構築支援 |
産総研 |
・GridASPソフトウェアの提供
・AISTスーパークラスタの一部提供 |
第二の実験は、ビジネスの実現可能性を検証することに主体を置き、産総研独自活動として多数の企業との共同研究により実施するものです。第一の実験との大きな違いは、
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商用のデータセンターを営む事業者にコンピュータを提供いただいていること
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商用のアプリケーションベンダーにアプリケーションの提供をいただいていること
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多数の企業に参加いただいていること
です。この実験を通して、GridASPのビジネス化における問題点の抽出、エンドユーザへの利用単価の概算、新しいアプリケーションライセンス形態の検討を行います。8月より各社と進めてきた実験の準備が整い、11月より実験システムの運用を本格的に開始いたします。
表2 第二のGridASP実証実験における共同研究先企業(50音順)
組織名 |
役割分担 |
アルテアエンジニアリング株式会社 |
・クラスタ管理ソフトウェアの提供
・構造解析ソフトウェアの提供 |
インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス株式会社 |
・GridASPポータルの運用 |
NECフィールディング株式会社 |
・データセンターにおけるサーバの提供
・GridASPポータルの運用 |
住商情報システム株式会社 |
・GridASPシステムの構築支援 |
ニイウス株式会社 |
・データセンターにおけるサーバの提供
・GridASPポータルの運用 |
株式会社日本総合研究所 |
・構造解析ソフトウェアの提供 |
ビジネスサーチテクノロジ株式会社 |
・GridASPシステムの構築支援
・GridASPポータルの運用 |
プラットフォームコンピューティング株式会社 |
・クラスタ管理ソフトウェアの提供 |
フルーエント・アジアパシフィック株式会社 |
・熱流体解析ソフトウェアの提供 |
産総研 |
・GridASPソフトウェアの提供
・AISTスーパークラスタの一部提供 |
GridASPをビジネスとして実現していくためには、ソフトウェアGridASP Toolkitの公開による利用促進だけではなく、認証局や事業者認定の運営、ソフトウェアのサポートなどを行う組織的な取り組みが必要です。そのため、GridASPビジネス推進を支援するGridASPコンソーシアム(仮名)の設立を計画しています。