独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)グリッド研究センター【センター長 関口 智嗣】、独立行政法人情報通信研究機構【理事長 長尾 真】(以下「NICT」という)、株式会社 KDDI研究所【代表取締役所長 浅見 徹】(以下「KDDI研」という)、日本電信電話株式会社【代表取締役社長 和田 紀夫】(以下「NTT」という)は、情報処理基盤であるグリッドをGMPLSネットワーク上に動的に構築する世界初の実証実験を、NICTが運用する研究開発用ネットワークJGN IIを利用して行いました。
本実証実験にあたって、産総研、KDDI研、NTTは、グリッド資源スケジューラと、ネットワークオペレータが運用するネットワーク資源管理システム間のインタフェース規定の基本部分を、世界で初めて共同で策定しました。これによりユーザは、多くのネットワークオペレータから共通のインタフェースを介したサービスを受けることが可能になります。NICTは、KDDI研、NTTと協力して、このようなサービスを実現するために、JGN IIのGMPLSネットワークの最適化及び運用管理技術の開発を行いました。
従来、離れた組織間の通信経路を確保するには、事前にE-mailや電話等を用いて交渉し、ネットワーク機器等の設定をすることが必要でした。本実験ではグリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システムを連携させ、グリッドの構築に必要な通信経路の確保をすべて自動化することができました。本技術により、広域に分散した数多くの計算機やストレージなどを自在に連携させて情報処理基盤となるグリッドを構築し、その上でサービスを提供することが可能になります。
産総研、KDDI研、 NTTは、今後グリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システム間のインタフェースの詳細仕様の策定を進め、オープンでかつ国際的な標準技術とすることを目指します。また、NICTは、今後も引き続き、各種アプリケーションに対応したGMPLSネットワークの最適化および運用管理技術の研究開発を進めていきます。なお、9月26日から米国サンディエゴで開催される国際会議iGrid2005(The international GRID)において、本実証実験に関する発表およびデモンストレーションを行う予定です。
グリッドは、利用者の要求に応じて、地理的に分散した計算機やストレージ、観測装置などの様々な資源を柔軟に、容易に、統合的に、そして効果的に利用するためのネットワーク利用技術およびそれに基づく基盤(インフラストラクチャー)です。
離れて配置された資源を効率よく利用した質の良いサービスを提供するためには、利用する資源間をむすぶ十分な帯域の安定したネットワークが不可欠です。ところが、従来は、計算機などの資源とネットワークは別々に管理されており、資源を自由に組み合わせて動的にグリッドを構築することは困難でした【図1】。このため、必要に応じて必要な帯域のネットワークを確保する技術が求められています。
この問題点を解決するためには、計算機やストレージ等の資源だけでなく、それらを結ぶネットワークそれ自体も資源管理対象とし、統一的に扱う方式が有効です。具体的には、資源予約を行うグリッド資源スケジューラと、必要な区間に必要な伝送帯域の光伝送路を自在に設定するネットワーク資源管理システムを、相互間のインタフェースを定めて連携させることにより、ネットワークの帯域の予約を実現します。ネットワーク制御技術としては、光パス等の制御技術として標準化が進められているGMPLSとよばれる技術を用います。これにより、地理的に分散した計算機やストレージを、必要なときに自由な組合せで必要な伝送帯域で接続することができるようになり、計算効率と利便性の飛躍的な向上、コストの大幅削減等が可能になると期待されます【図2】。
グリッドで管理・提供する資源は、地理的に分散配置されていますので、これらを結ぶネットワークは地域や国を超えて、複数のネットワークオペレータによって提供される可能性があります。このため、計算機やストレージ等の資源を管理するグリッド資源スケジューラと、ネットワークを管理するネットワーク資源管理システムで、連携に必要な情報を交換するためのインタフェースの規定をネットワークオペレータ間で共通にしておくことが重要です。
グリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システム間のインタフェースを規定し、これをオープンかつ世界的な共通基盤技術として普及させていくため、産総研とKDDI研、NTTは、共同でインタフェース規定に取り組み、このほど、その基本部分を策定しました。また、NICTつくばJGN IIリサーチセンターは、KDDI研及びNTTと協力して、NICTが運営する研究開発ネットワークJGN IIのGMPLSネットワークの最適化、運用管理及びGMPLSネットワークとネットワーク資源管理システムとの間の連携手法の確立に取り組みました。こうした取り組みにより、利用者が要求する計算機とネットワークをグリッド資源スケジューラが動的に先行予約することによってその利用者のためのグリッドを一時的に構築し、その上で科学技術計算を実行するという実証実験を実施し、その有効性を実証しました。
|
図2 本実験で実現した光ネットワークと連携したグリッド
|
実証実験にあたり、産総研、KDDI研、NTTが協力してグリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システムの間の情報インタフェースの基本的な規定の策定を行い、NICTは、KDDI研、NTTと協力して、GMPLSネットワークの最適化及び運用管理技術の開発を行いました。
実験では、上記インタフェースに基づき産総研が開発したグリッド資源スケジューラと、KDDI研が開発したネットワーク資源管理システムを用い、NICTが運営するJGN IIのGMPLSネットワークテストベッド上にNICT(つくばJGN IIリサーチセンター・大阪JGN IIリサーチセンター)、KDDI研、NTTが動作環境を構築しました。実験においては、利用者が要求する計算機とネットワークをグリッド資源スケジューラが動的に先行予約することによって、情報処理基盤となるグリッドを構築し、この上で科学技術計算を実行することに世界で初めて成功しました。
|
図3 実験に用いたネットワークとクラスタ計算機の構成図
|
実証実験に活用したJGN IIのGMPLSネットワークは、光クロスコネクト装置(OXC)とGMPLSルータで構成されます。このネットワークが、国内の6拠点(つくば、秋葉原、上福岡、金沢、大阪、福岡)の計算機をつないでいます【図3】。各拠点では計算環境として産総研が開発したグリッドミドルウェア Ninf-G2とGlobus Toolkit 2(GT2)をあわせて用いました。
グリッド資源スケジューラはGUIから送られた要求を元に資源を先行予約し、GUIに返します。グリッド資源スケジューラはGlobus Toolkit 4 (GT4) を用いて開発したもので、WS-RFに準拠したサービスを提供します。グリッド資源スケジューラは利用者からの計算機とネットワークの要求を受け取ると、各拠点の計算機資源マネージャとネットワーク資源管理システムに問い合わせながら要求を満たす資源を動的に先行予約します。
ネットワーク資源管理システムは、ウェブサービスインタフェースを介してグリッド資源スケジューラからの問い合わせに応じて拠点間の光パスの先行予約、解放等を行います。
実証実験では、利用者がGUIを介してグリッド資源スケジューラに必要な拠点数、各CPU数、拠点間ネットワーク帯域幅、確保時間等を指定し、グリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システムの連携により確保された計算機資源とGMPLSネットワーク資源を利用して、広域に分散した計算機上で分子動力学問題のシミュレーションを実行しました。
産総研、KDDI研、 NTTは、今後グリッド資源スケジューラとネットワーク資源管理システム間のインタフェースの詳細仕様の策定を進め、オープンでかつ国際的な標準技術とすることを目指します。また、NICTは、今後も引き続き、各種アプリケーションに対応したGMPLSネットワークの最適化および運用管理技術の研究開発を進めていきます。なお、9月26日から米国サンディエゴで開催される国際会議iGrid2005において、本実証実験に関する発表およびデモンストレーションを行う予定です。