独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】は、これまで行ってきた三宅島火山および岩手火山の地質学的手法による研究成果をまとめ、火山地質図「三宅島火山」と「岩手火山」を作成、出版した。
火山地質図「三宅島火山」は、平成11(1999)年から実施してきた、千葉大学理学部 津久井 雅志 助教授らと共同で産総研が実施してきた研究成果をもとに作成された。これは過去約7000年間にわたる三宅島火山の溶岩流や側火山などの噴火噴出物を国土地理院発行の25,000分の1地形図上に図示するとともに、地質学的および文献学的調査により明らかになった噴火の規模、様式、推移などをまとめ、火山地質学的観点から見た防災上の指針などの解説文をつけたものである。
火山地質図「岩手火山」は、平成10 (1998)年から岩手県総合防災室 土井 宣夫 火山対策指導顧問と共同で産総研が実施してきた研究成果をもとに作成された。過去数10万年間にわたる火山群の形成と、最近7000年間の溶岩流や火山灰などの噴火噴出物を国土地理院発行の25,000分の1地形図上に図示した。これと共に、地質学的および文献学的調査により明らかになった噴火の様式、推移などをまとめ、火山地質学的観点から見た防災上の指針などの解説文をつけたものである。
火山地質図「三宅島火山」および「岩手火山」は、関連する自治体、防災関連機関などで、各火山の噴火の長期的予測、火山災害の軽減・復興のための基礎資料として利用できる。また火山についての知識を得たい一般住民、教職員、学生・生徒、観光客・登山者が利用することができるように、火山に関する専門用語の解説も付記してあり、火山と社会の共生を考えるための材料として活用されることを期待する。
火山地質図は委託販売先*1より購入可能である。
*1火山地質図委託販売先 https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html 参照
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図1 火山地質図「三宅島」(部分)
山頂部の陥没カルデラ内の地質図(図中央部の大きな赤い円弧内)をはじめて記載するとともに、山腹から海岸線にかけて多数分布する山腹噴火火口の位置、溶岩流などを示している。 |
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図2 火山地質図「岩手火山」(部分)
山体の大規模な崩壊とそれを埋め立てるように新たな山体の成長が繰り返してきたことを示している。最近2万年間の噴出物については、山腹に流れ下った溶岩流の分布とその表面地形、山麓部に厚く降り積もった火山灰の分布を示している。 |
産総研は、旧地質調査所時代から科学技術・学術審議会測地学分科会火山部会の建議した火山噴火予知計画に基づき、火山噴火の長期的予測および火山災害の軽減のための基礎資料として、日本における活動的火山の地質学的手法による研究を実施し、研究成果を火山地質図として出版してきた。平成13年までに11の活火山について火山地質図を出版した。*2
三宅島火山は、東京の南約200kmの海上に浮かぶ火山島であり、これまでに何回も噴火を繰り返してきた活火山である。前々回の1983年噴火から17年後に始まった2000年の噴火では、予想していなかった山頂部の陥没と世界的にも例を見ない大量の火山ガス放出が発生し、全島民の島外避難が約4年半も続いたことは記憶に新しい。現在も陥没カルデラ中の火口から、一日当たり数千トンの二酸化硫黄ガスを含む噴煙が噴出している。
岩手火山は約30万人が生活する盛岡市の北方約18kmに位置し、日本百名山の1座に数えられる北東北を代表する山岳の1つである。また、江戸時代の国絵図で山頂部に噴煙が描かれているように歴史時代においても数回にわたって噴火活動を繰り返してきた活火山*3である。 平成10(1998)年3月からは、火山性地震の急増と共に地殻変動が観測され、噴火活動の発生が危惧された。
*2 既存の火山地質図は、研究情報公開データベース(RIO-DB)にて公開している
http://riodb02.ibase.aist.go.jp/db099/index.html
*3最新の本格的な噴火は1732年
*4 岩手山麓におけるトレンチ調査:陸上自衛隊の協力を得て、岩手山演習場において1998年に実施
*5 火山地質図「岩手火山」の研究成果を紹介するホームページ
http://staff.aist.go.jp/itoh-j/HomePage.html 或いは http://staff.aist.go.jp/itoh-j/index-iwate.html
火山地質図「三宅島火山」は、現地地質調査および空中からの地形観察、室内での分析作業を通して、比較的よく露出する三宅島火山の過去約7000年間の噴火堆積物・火口の分布を明らかにし、地質図に示すとともに、噴火の年代、規模、様式、推移および近年の観測体制などの解説文をつけたものである。また2000年噴火陥没カルデラ内の地質図とともに、2000年噴火前の三宅島雄山山頂部の地質図も図示している。
本火山地質図には、これまで知られていなかった溶岩流の分布、山腹割れ目火口列が多数存在することを示している。また休止期、噴出するマグマの化学組成、噴火様式などから、噴火活動期を大きく5つに分け、それぞれの活動期の特徴を明らかにした。特に2000年噴火と同様の山頂部に陥没カルデラを形成する噴火(八丁平噴火)が約2500年前に発生し、その後山頂部での水が関与した噴火が多くなる時期が続き、300年ほどの休止期のあと15世紀から1983年噴火のような、山腹割れ目噴火が多くなるようになったことを示した。
火山地質図「岩手火山」は、現地地質調査および空中写真を用いた火山地形解析、室内での分析作業を通して、過去数10万年前から活動を行っている岩手火山群の分布を明らかにし、地質図に示すとともに、噴火の年代、様式、活動推移、近年の活動観測体制、防災上の注意点などの解説文をつけたものである。
本火山地質図では、岩手火山を地形的・岩石学的特徴から東岩手火山と西岩手火山に大別し、両者が数万年のスケールで互いに噴火活動を繰り返したこと、特に東岩手火山においては数万年の噴火休止期間を挟んで山体の大規模な崩壊が発生し、その後に噴火活動が活発化する活動サイクルが繰り返されていることを示している。
また約7千年前から現在に至るまで噴火活動を行っている東岩手-薬師岳火山については、噴出するマグマの化学組成、噴火の頻度などから、噴火活動期を大きく4つに分け、最近1千年間における主な噴火活動の特徴と推移を明らかにした。特に、1998年に実施したトレンチ調査では、それまで明確でなかった14-15世紀の岩手火山の噴火活動の推移とそれに伴い火山体表層部が山麓部になだれ下る過程が明らかとなった。
火山地質図は、地方公共団体、防災関連機関の、防災計画作成の際の基礎資料として利用することが可能である。過去の噴火の火口位置や噴火様式、推移のデータを元に、今後起こりうる噴火のシナリオ作成が可能になり、よりよい防災計画立案が可能になる。また火山と共生する住民や、三宅島火山、岩手火山について知識を得たいマスメディア関係者への情報提供、教職員、学生・生徒、観光客への教育目的への活用も期待される。
産総研では、今後発生する噴火の長期予測および火山災害の軽減のための基礎資料として、主要な活火山について噴出物分布、噴火履歴、噴火様式などを明らかにする地質調査を継続して実施する予定である。