独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境化学技術研究部門【部門長 島田 広道】は、株式会社 沖縄発酵化学【代表取締役社長 山里 秀夫】(以下「沖縄発酵化学」という)と共同で、食品素材をナノサイズで封入、包装が可能な、新しいカプセル化技術の開発に成功した。
本技術によれば、食品の有効成分の体内での安定性や吸収率等が大きく改善されるため、少量の摂取でもより大きな効果が期待できる。健康食品素材の場合、従来の製品に比べ、有効成分の量が半分から6分の1以下でも同様の効果が得られることが検証されている。(注:この数値は生体外あるいは動物実験によるデータです。ヒトに対する効果については、産総研で保証するものではありません。)本技術は加工プロセスも簡便であることから、今後は安価で高機能な健康食品の開発が期待される。
近年の健康ブームを背景に、様々な健康食品が製造・販売されている。しかし、健康食品の有効成分には、凝集して分子のサイズが非常に大きくなりやすい、あるいは水に溶けにくいといった性質を持つものも多く、そのため、従来の技術や製品では、健康食品を摂取しても有効成分が必ずしも効率的に体に吸収されないという問題があった。この解決策として、有効成分のナノサイズでのカプセル化があり、既に医薬品などで活用されているが、操作性やコストの面から、食品プロセスへの適用は難しいとされていた。
食品分野へのナノサイズでのカプセル化技術の導入のため、今回の研究開発では、まず安価な食品素材からカプセル化材料を探索し、リン脂質を選定した。ある種のリン脂質は、特定の条件下で、自発的に集合・配列してカプセル状の構造を作ることが知られている。この特性を活用した混合技術を独自に考案し、ナノサイズでのカプセル調製と、カプセル内への有効成分の封入を同時に達成した。
本技術によれば、有効成分の多くを100~500 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)サイズのカプセルに覆うことが可能で、カプセルで保護されているため、有効成分が胃で分解を受けにくい。また、カプセルのサイズが非常に小さいため、腸からの吸収率も高くなる。ウコン抽出エキス(主な有効成分:クルクミン)をナノサイズでカプセル化した場合、胃酸や膵液による有効成分の分解が抑制され、従来の製品に比べ、2倍近い有効成分の残存率であることがわかった。また、アガリクス抽出エキス(主な有効成分:β-グルカン)をナノサイズでカプセル化した場合、従来の製品に比べ、有効成分の量が半分から6分の1以下でも、同様の抗腫瘍効果があることが、動物試験から確認されている。(注:この数値は動物実験によるデータです。現時点で、ヒトに対する効果を保証するものではありません。)
この技術によれば、少ない有効成分の量でもより高い健康効果が期待できるため、特にアガリクス抽出エキスのように高価な素材をナノサイズでカプセル化した場合、素材の使用量が少なくてすみ、製品化した場合のコストも従来より抑えられるものと考えられる。
さらに、ナノサイズでのカプセル化によって、素材の苦みや食感が改善できるとともに、一回毎の摂取量も少なくできるため、従来の製品で見られたような「摂取に伴う苦痛感」も大きく和らげることが可能である。今後、本技術によって安価で高機能な健康食品が多数開発されるものと期待される。
本研究成果の一部は、沖縄発酵化学より、平成17年3月16から18日までの期間、東京国際展示場「東京ビッグサイト」【東京都江東区有明】で開催される『健康博覧会2005』に出展される予定である。
健康食品の有効成分には、凝集して分子のサイズが非常に大きくなりやすい(数百µm以上)、あるいは水に溶けにくいといった性質を持つものも多い。そのため、従来の加工技術や製品では、食品を摂取しても有効成分が必ずしも効率的に体に吸収されないという大きな課題があった。
有効成分の体内での取り込みを促進するためには、まず成分の胃での分解を抑えるとともに、そのサイズを500 nm程度まで小さくして、腸からの吸収を良くする必要がある。一つの解決策として、有効成分のナノサイズでのカプセル化があり、既に医薬・化粧品分野では、ナノサイズでのカプセル化により効果を高める技術が開発されている。しかしこれまでは、食品に対して適用可能な、低コストで簡便なナノサイズでのカプセル化手法はほとんど存在しなかった。
また、従来の製品(健康食品等)では、期待する効果を得るためには、「相当量」を摂取する必要があった。こうした製品では、食品の摂取自体に苦痛を伴うこともあり、特に高齢の消費者から技術の改善が強く求められていた。
産総研 環境化学技術研究部門の 北本 大 主任研究員らは、環境にやさしい材料開発の一環として、「生物が作り出す機能性材料」の研究に取り組んできた。その中で、脂質などの天然素材を活用した、ナノ材料の創製についての基礎技術を確立していた。
一方、沖縄発酵化学は、沖縄特産のモズクやウコンを始めとする様々な素材を活用した健康食品を、独自の技術で製造している。これらの素材の中には、高い健康効果を持っていても、体内に吸収されにくいものも多い。そこで、体内での吸収率を高め、より少ない摂取量でも期待する効果を発揮できるような健康食品の製造技術を模索していた。
沖縄発酵化学が、産総研のナノ材料技術に着目し、共同研究がスタートした。健康食品の効果を上げる方法として、まず有効成分のナノサイズでのカプセル化技術の開発に取り組んだ。
なお、本研究開発において沖縄発酵化学は、経済産業省の平成16年度「地域新規産業創造技術開発費補助事業」による支援を受けている。
医薬・化粧品の製造では、既にナノサイズでのカプセル化技術は広く利用されている。しかし、医薬・化粧品分野で用いられるナノサイズでのカプセル化技術の場合、高純度(高価)のカプセル化材料や特殊な添加剤が使用されており、また、有機溶媒処理や超音波処理などの複雑なプロセスを必要とするために、操作性やコストの面で、食品の量産に適用することは困難であった。
食品分野へナノサイズでのカプセル化技術の導入を図るため、今回の研究開発では、まず比較的安価な食品素材からカプセル化材料を探索し、リン脂質を選定した。ある種のリン脂質は、特定の条件下で、自発的に集合・配列してカプセル状の構造を形成することが知られている。この特性を最大限に活用した「混合撹拌技術」を独自に考案し、ナノサイズでのカプセルの調製と、カプセル内への有効成分の封入を同時に達成した【写真1、図1参照】。これらの手法は、食品分子の自発的な働きを利用しているため、複雑な操作を必要とせず、加工プロセスが簡便で安価であることが特徴である。
本技術の効果の検証においては、アガリクス抽出エキスをナノサイズでカプセル化した場合、従来の製品に比べ、有効成分の量が半分から6分の1以下でも、同様の抗腫瘍効果があることが、動物試験からわかった。この効果は、主に有効成分の腸からの吸収が促進されたことによるものと推定される【図2参照】。また、ウコン抽出エキスをナノサイズでカプセル化した場合、胃酸や膵液による有効成分(クルクミン)の分解が抑制され、従来の製品に比べ、2倍近い有効成分の残存率であることが、生化学試験から確認された【図2及び図3を参照】。
今回のナノサイズでのカプセル化技術によれば、少ない有効成分の量でもより高い健康効果が期待できる。特にアガリクス抽出エキスのように高価な素材をナノサイズでカプセル化した場合、素材の使用量を少なくすることが出来るため、製品コストも従来より抑えられると考えられる。アガリクス製品の現在の市場価格は、約3,000円~数万円であるが、本技術により、素材の使用量を半分から6分の1以下にすることができれば、製造コストの低下が可能になり、市場での低価格化が期待できる。
また、有効成分をナノサイズでカプセル化することで、その味(特に、ウコンは苦みが強い)や食感を改善できるとともに、一回の摂取量(食品の包装単位)も少なくできるため、従来の製品にありがちな「摂取に伴う精神的、肉体的な苦痛感」を緩和することが可能である。
本技術は、簡便かつ低コストな新しい食品加工技術であり、多様な食材への適用が可能である。
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写真1.ウコン抽出エキスが内包された「ナノサイズ」カプセルの電子顕微鏡写真 |
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図3.「ナノサイズ」カプセル化による有効成分の分解抑制 |
産総研では、健康食品素材が封入されたナノサイズカプセルの物性をさらに詳しく評価するとともに、本技術の食品以外の幅広い産業分野への応用を予定している。
沖縄発酵化学では、本ナノサイズカプセル化技術を用い早期にサンプル出荷するとともに、今後もナノテクの活用を進め、多様な食品素材への応用を目指す予定である。
本研究成果の一部は、沖縄発酵化学より、平成17年3月16から18日までの期間、東京国際展示場「東京ビッグサイト」【東京都江東区有明】で開催される『健康博覧会2005』に出展される予定である。
(注:本件は、食品加工技術に関するものであり、ヒトに対する効果については、産総研で保証するものではありません。食品成分の効果については、独立行政法人 国立健康・栄養研究所URL(http://www.nih.go.jp/eiken/)を参照して下さい。)