発表・掲載日:2005/02/25

アザラシ型ロボット「パロ」が、愛・地球博で待っています!

ポイント

  • 愛・地球博、長久手会場の産総研ブースに全開催期間を通してアザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」を出展
  • 世界で最もセラピー効果がある1「パロ」の愛・地球博出展にあたり、新たに7カ国語認識機能を搭載し、従来の白に加え、若草色、ゴールド、桜色、すみれ色のボディカラーを用意
  • 愛・地球博に、多国語を認識する「パロ」を出展することにより、ロボットに対する国際社会の関心を喚起し、一般家庭へのロボット普及に貢献


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】は、アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ2」(以下「パロ」という)【写真参照】を、平成17年3月25日から愛知県で開催される「愛・地球博」(2005年日本国際博覧会)に出展する。

 これにあたり、愛・地球博では、アジアそして世界各国から多くの来場者が予想されるため、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、日本語の 7 カ国語の音声認識機能を新たに開発し、パロに搭載した。また、パロのボディカラーに、従来のタテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルにした白に加え、愛・地球博のイメージに合わせた若草色のほか、ゴールド、桜色、すみれ色などのカラーバリエーションを用意した。パロは、長久手会場の遊びと参加ゾーン「わんパク宝島パビリオン」内ロボットステーションの産業技術総合研究所ブースにて全開催期間の185日間を通して展示される予定である。

 産総研 知能システム研究部門では、「テクノロジーとアートの融合」を目的に、独創的な世界最先端・最高の技術の追求と共に、人と共存するロボットとして、人からの主観的な評価を高めるためのロボットの設計・製造手法について研究を行っている。その応用としてロボット・セラピーを提唱し、1993年からアザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」の研究開発を行っている。第3世代のパロから、マイクロジェニックス株式会社【代表取締役社長 木村 準】(以下「MJ」という)と共同研究を行い、現在までに第8世代の「パロ」が完成している(2004年9月17日産総研プレス発表)。

 これまで、国内の医療・福祉施設の他、スウェーデン・カロリンスカ病院および国立障害研究所、イタリア・シエナ大学付属病院およびピアセンツァの高齢者向けケアハウス、フランス・カーパプ病院、アメリカ・スタンフォード大学付属病院でもパロによるロボット・セラピーの研究を実施し、心理的効果、生理的効果、社会的効果が確認され、非常に良好な結果を得ている。また、平成17年1月から、アメリカ・マサチューセッツ工科大学「テクノロジーとセルフ」イニシアチブでもパロを用いた人とロボットの共生に関する研究をスタートした。

 これらの研究開発の成果が認められ、パロおよび研究開発者の産総研 知能システム研究部門 柴田主任研究員は、平成14年グッドデザイン賞、平成16年国際青年会議所・第59回世界大会The Outstanding Young Person of the Worldなど数々の国内および国際的な賞を受賞している。

 このパロに関わる知的財産権は、産総研 ベンチャー開発戦略研究センター【センター長 吉川 弘之】のスタートアップ開発戦略タスクフォースの支援により、平成16年9月17日に設立された 株式会社 知能システム【代表取締役社長 大川 丈男】(以下「ISC」という)にライセンスされており、ISCは、平成17年3月から個人向け販売の受注を開始する。

 なおパロは、東京・青山およびお台場のTEPIA(平成16年9月10日~17年7月まで)、大阪・ATCエイジレスセンター、福岡・ロボスクエア、スウェーデン国立科学技術博物館(平成15年5月~3年間)などでも展示中である。

アザラシ型ロボット・パロの写真
写真 アザラシ型ロボット・パロ(白・ゴールド)

  1. 平成14年2月には、パロが世界で最もセラピー効果があるロボットとしてギネス世界記録に認定され、ギネス世界記録2005(日本語版)でも紹介されている。
  2. パロに関するHP【 http://paro.jp


研究の背景

 ものづくり大国、日本において、「価値の創造」が求められている。パソコン、デジタルカメラなどに見られるように、高機能、高性能な製品が、国際社会において高い評価を受けて大きな市場を作っている。しかし、早い、正確など「客観的な評価」を受ける「もの」であるため、やがて価格競争に陥り、価格低下と利益率の低下を招く傾向にある。低価格化は、一般消費者への普及というメリットはあるが、企業としてはビジネスの魅力が薄くなり、時には事業からの撤退につながっている。

 一方、欧米のブランド品など「ニュー・ラグジュアリー」などとも呼ばれる「もの」は、デザインやテクノロジーが優れ、それらが実際的に「もの」の性能の向上に役立ち、消費者からあこがれられている。このようなものは、消費者からの「主観的な評価」を高く受けているものであり、その価値が持続している。

 産業用ロボットの市場が、1991年をピークに停滞を続けている中、新しいロボット産業として、人の生活に入る人間共存型ロボットが期待されている。工場で働くロボットとは異なり、人間共存型、特にパーソナルロボットは、人から主観的な評価を受けやすいと考えられる。

 そこで、産総研知能システム研究部門では、人に楽しみや安らぎなどを提供し、人の心に働きかけることにより、主観的な価値を創造することを目的に「メンタルコミットロボット」の研究開発を1993年からスタートした。特に、動物型ロボットとすることで、アニマル・セラピーで研究されてきた、様々な効用をロボットで実現することを目的とする「ロボット・セラピー」の研究開発を進めている。ペット動物を飼育するアニマル・セラピーは、心理的効果、生理的効果、社会的効果が認められているが、アレルギー、人畜感染症、噛み付き・引っかきの事故などから、特に医療・福祉施設において、実際の動物を導入することは難しい。

 多くの先進国は、少子高齢化が進んでおり、日本は、2015年には人口の26%が65歳以上になると予測されている(総務省 統計局 統計データによる)。そのため介護が必要な人々の数も増加することが見込まれており、現在でも介護保険による支援が急増し、社会的コストを高めている。そこで、高齢者の「生活の質」を高めることにより、認知症患者の発症を遅延させたり、症状を改善させることにより介護を予防したり、家庭や医療・福祉施設などでの介護の質を高めたりすることが望まれている。

研究の経緯

 産総研 知能システム研究部門では、1993年から動物型ロボットの研究開発を行い、犬や猫のようにあまり身近ではないため、かえって違和感なく人から受け入れられやすいアザラシ型のロボット「パロ」の実用化を目指して研究開発を行ってきた。第3世代の「パロ」から、MJと共同研究を行い、センサやアクチュエータなどの要素技術と、ロボット全体のシステムの改良を重ね、第8世代の「パロ」が完成した(2004年9月17日産総研プレス発表)。

 第8世代のパロの内部には、2つの32ビットRISCチップによる人工知能と、新型のユビキタス面触覚センサ(IEEE(米国電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronics Engineers))の国際会議にて最優秀賞受賞)や、静穏型アクチュエータなど、新しい独創的な最先端の技術を満載しつつ、耐久性、信頼性を向上させ、電磁シールドや抗菌など安全・安心も配慮した高い技術で作られている。一方、パロの顔つきは、まつ毛は容易に抜けないように手縫いで取り付けたり、毛並みは専門のトリマーが1体ずつ丁寧に仕上げたり、「芸術性」の高い要素が盛り込まれている。

 おもちゃのように、一瞬の楽しみだけのものとは異なり、パロは、飽きられずに長く大切に愛着を持って使われる「もの」としての品質と価値を備えることを目指したものである。

 ロボット・セラピーとして、デイサービスセンター介護老人保健施設特別養護老人ホームなどの高齢者向け福祉施設や、病院の小児病棟などにおいて実験を行い、ロボット・セラピーの効果を科学的データによって検証した。また、長期間のパロとの触れ合いの持続性に関しては、介護老人保健施設で実証実験を行い、実験を開始した平成15年8月以降、パロは飽きられることなく、長期間の触れ合いが現在でも継続しており、多くの人々に愛着を持ってかわいがられている。

 一方、パロと短期間に触れ合った人々に、アンケート形式の主観評価実験を行い、主観的な評価を高めるための要素の研究を行った。ロボットの「見た目」、「さわり心地」に関して、重要であることが明らかになり、パロの構造設計に活かしてきた。また、日本、イギリス、イタリア、スウェーデン、韓国、ブルネイの6カ国において、同じ主観評価実験を実施したところ、文化、国籍、宗教などに違いがあるものの、パロに対する評価は非常に高かった。また、自国の言語の認識機能があると、「話しかけたい」という評価が高まり、音声認識機能の重要性が明らかになった。そこで、国内外の多くの来訪者が予想される愛・地球博への出展にあたり、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、日本語の7カ国語の音声認識機能を新たに開発し、パロに搭載した。

 パロに関する研究は、平成14年度の文部科学省 科学技術振興調整費「戦略的研究拠点育成」事業であるベンチャー開発戦略研究センターのタスクフォース案件(長期共生型メンタルコミットロボットと、ロボット・セラピーのためのSOP(Standard Operation Procedures)の研究開発)として採択され、同センターの支援制度を受けて 株式会社 知能システム(ISC) が平成16年9月17日に設立された。パロに関する意匠、特許などの知的財産権はISCにライセンスされ、ISCにより商品化が行われている(高齢者向け福祉施設などを対象にしたリース販売)。ISCは、個人向け販売の受注を平成17年3月から開始する。

 本研究開発は、独立行政法人 科学技術振興機構【理事長 沖村 憲樹】の戦略的創造研究推進事業 個人型研究 さきがけタイプ「人とロボットの共生と学習に関する研究(平成13~16年度)」等により実施された。

●愛・地球博バージョンの「パロ」のデータ:

モデル タテゴトアザラシの赤ちゃん(カナダ北東部に生息。マドレーヌ島沖の氷原で生態調査を実施)
体長 57cm、体重:2.7k
毛皮 人工、抗菌糸
カラー オフホワイト、ゴールド、若草色、桜色、すみれ色
CPU 32ビットRISCチップ、2つ
センサ ユビキタス面触覚センサ、ひげセンサ、ステレオ光センサ、マイクロフォン(音声認識、3D音源方位同定)、温度センサ(体温制御)、姿勢センサ
音声認識 英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、中国語、韓国語、日本語
静穏型アクチュエータ まぶた2つ、上体の上下・左右、前足用2つ、後ろ足用1つ
バッテリー 充電式、ニッケル水素、1.5時間稼動(満充電時)
充電器 おしゃぶり型
行動生成 様々な刺激に対する反応、朝・昼・夜のリズム、気分にあたる内部状態の3つの要素から、生き物らしい行動を生成。なでられると気持ちが良いという価値観から、なでられた行動が出やすくなるように学習し、飼い主の好みに近づいていく(パロには名前の学習機能があるが、愛・地球博バージョンでは、名前の認識は、パロで統一している。)

今後の予定

 愛・地球博には、国内外から大勢の参加者が見込まれている。産総研は、多国語を認識するパロを展示することにより、ロボットに対する国際社会の関心を喚起し、一般家庭へのロボットの普及に貢献する。なおパロは、愛・地球博の長久手会場の遊びと参加ゾーン「わんパク宝島パビリオン」内ロボットステーションの産業技術総合研究所ブースにて、全開催期間の185日間を通して展示される予定である。

 一方、ISCは、平成17年3月から、個人を対象にパロの受注を開始する。今回販売されるパロは、日本語音声認識機能のみで、色も白のみである。ISCは、個人向けパロによって、一人暮らしの人々や、動物を飼うことが困難なアパート・マンションなどで暮らす人々に「心の豊かさ」を提供し、「生活の質の向上」に寄与する考えである。

 その他、産総研では、パロを用いることによる認知症患者の脳機能の改善について、医療機関などと共同でデータ収集・解析を行っており、ロボット・セラピーの認知症の防止、改善効果を検証し、「介護予防」への貢献を目指す。



用語の説明

◆スタートアップ開発戦略タスクフォース
大学・公的機関が有する特許等の技術シーズを基に、成長指向が強く、社会的にインパクトのある創業に取り組むために産総研 ベンチャー開発戦略研究センターに設置された組織。
スタートアップ・アドバイザー(ビジネスモデルの構築から創業後の経営面のサポートまでを一貫して行う事業企画のエキスパート)のトップダウン・マネジメントの下で、ハイテク・スタートアップ(先端的な技術シーズを基に革新的な製品・サービスを提供し、高い成長性が期待される新規創業企業)の創業に必要な追加的研究を支援するために、産総研の研究ユニットに研究開発費を提供する。[参照元へ戻る]
◆人畜感染症
ヒトと動物との間で、相互に感染する病気の総称。この場合、「動物」は脊椎動物を指す。無数に存在するが代表的なものとして狂犬病、日本脳炎、オウム病などがある。[参照元へ戻る]
◆認知症
脳の器質的異常により、一度獲得された知能が後天的に失われ、社会生活に支障を来たすようになった状態を指す。旧称:痴呆(ちほう)。[参照元へ戻る]
◆デイサービスセンター
介護保険で利用できるサービスのひとつ。要介護者が、ケアプラン(居宅介護サービス計画)のもとに利用することのできる通所介護施設で、入浴・食事などの提供や機能訓練を行う。[参照元へ戻る]
◆介護老人保健施設
病状が安定期にある要介護者に対し、施設サービス計画に基いて、看護や医学的管理下における介護、機能訓練、日常生活上の世話などを行う入所介護型の施設。[参照元へ戻る]
◆特別養護老人ホーム
65歳以上の者であって、身体上、精神上又は環境上の理由および経済的理由により、居宅において養護をうけることが困難な者を入所させて、養護することを目的とする入所施設。[参照元へ戻る]
◆介護予防
高齢者が可能な限り介護を必要とする状態にならないように、健康で生きがいのある自立した生活を送ることを支援すること。今後、介護保険の使用を抑制するために重要。[参照元へ戻る]


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