独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎修三】は、日本ガイシ株式会社【代表取締役社長 松下 雋】(以下「日本ガイシ」という)との共同研究において、従来の半分以下の有機バインダー添加によるセラミックス成形体の新しい製造プロセス技術を開発した。
セラミックス原料粒子表面に有機バインダーの単分子層を直接化学結合させ、さらにバインダー層同士が外部からの刺激により相互に結合することに特徴がある(図)。有機バインダーがより強固な化学結合で原料粒子同士を結びつけることで、セラミックス製造プロセスにおけるバインダー使用量低減を図るための有効な手段となる。
また、この研究成果は国際セラミックス総合展(平成17年4月6日から8日に東京ビックサイト開催)に出展予定である。
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図
(a)従来の有機バインダー セラミックス原料粒子と混合して用いる。結合力が弱く、また相分離が生じやすいため、多量の有機バインダーが必要。
(b)単分子層有機バインダー セラミックス原料粒子の表面に有機バインダーの単分子層を直接化学結合させ、それらが外部からの刺激により結合することができるものとしている。
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現在、セラミックスに形状を付与するために、有機高分子をバインダーとして添加することは不可避である。これらの有機バインダーは焼成プロセスにおいて焼き出され、分解生成物として二酸化炭素が排出される。環境への負荷低減のために、有機バインダーの使用量を減らすことが望まれている。
産総研と日本ガイシは、セラミックスの低環境負荷型製造プロセスの実現のため、平成15年度より資金提供型共同研究を行っている。その中で、有機バインダー使用量の削減・不使用化技術、低温焼成技術、無焼成化技術の開発を進めている。
従来の高分子有機バインダーは、原料粒子の表面に吸着され、或いは緩やかに結合しているに過ぎず、原料粒子同士の結合力は十分でない。また、高分子有機バインダーと原料粒子表面の親和性が低く、これらが相分離して部分的に凝集するため、有機バインダー効果が有効に機能していない。このため、良好な成形性と成形後の保形性を確保するためには、有機バインダーを多量に添加する必要があった。
今回、反応性の高い有機分子をセラミックス原料粒子の表面に単分子層の状態で固定し、単分子層の有機バインダー同士を外部刺激により相互に化学結合させることで、粒子同士が直接化学反応により結合している構造を実現することに世界で始めて成功した。また、原料粒子表面に単分子層の状態で有機バインダーが結合しているため、原料粒子と有機バインダーの相分離をも同時に防ぐこととなった。セラミックス原料粒子の表面処理技術について検討し、粒子表面の化学的活性を向上させることにより実現した技術である。写真は、本技術によって作製したセラミックス成形体を水中に常温で50日間静置したものである。全体に対して0.5重量%の有機バインダーを含有する成形体は、水中においても長期にわたってその形状が維持された。本技術を用いることにより、良好な成形性・保形性を確保するのに必要な有機バインダー量を低減できることを見出した。
(a)有機バインダーなし
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(b)単分子層有機バインダー処理済み(0.5重量%)
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写真 セラミックス成形体を水中に静置し、50日間経過したもの。
(a)は水中で崩壊しているのに対し、(b)は形状を維持している。
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当該技術の汎用性・取り扱いの簡便性の向上、コストの低減などを目指して更なる検討を進める。また、本技術により製造した成形体の、無機・有機複合材料としての応用についても検討する予定である。