独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報科学研究センター【センター長 秋山 泰】の 富井 健太郎 研究員らは、今夏に3ヶ月にわたって開催されたタンパク質立体構造予測技術に関する国際コンテスト「CASP6(Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction)」において、世界200チームを超える参加チーム中、最高レベルの成果を達成した。この成果により主催者からの招待を受け、12月4~8日にイタリアで開催される同コンテストの結果発表会の席上で招待講演を行う。日本の研究機関からの招待発表は、6年前のCASP3で国立遺伝学研究所のチーム以来。参加チームが増え、世界的に競争が激化している近年においての上位入賞は大きな快挙と言える。
CASPは、2年に一度世界的に行われるタンパク質立体構造予測コンテストの名称で、今回が第6回目。実験的に立体構造が解明される寸前のタンパク質ばかりが数十問出題されるため、方法論の実力と安定度が問われる、まさに“実戦”のコンテストである点が特徴とされている。参加者の多くは計算機生物学や生物物理学分野に携わる研究者で、コンテスト開催期間中は、主催者が公開しているホームページ上で次々と出題が発表される。参加者はそれに対して指定された締め切りまでに解答(予測した構造)を所定の形式で、インターネットを経由して提出する。今回のCASPは、6月7日に最初の一問が発表されたのを皮切りに、9月2日の最終問題の解答締め切りまで87問(タンパク質数)が出題されたが、その後、問題の取り消しなどで最終的には、64問が評価の対象となった。
今回、産総研のチームが上位入賞を果たしたのは“Template based modeling”(テンプレートに基づく予測)と呼ばれる部門。既知のタンパク質の立体構造との類似性を、配列相同性解析や構造認識技術などを用いて感度良く発見することでモデル構築が競われる。産総研は独自に開発した構造認識法「FORTE」を軸に参加を行った。
ヒトゲノム配列が決定され、新規の遺伝子が次々発見されているが、まだまだ機能が未知な遺伝子が多い。配列情報だけからは機能推定できない場合でも、もし立体構造がわかれば、機能を推定できる可能性が高まる。進化の過程で配列は変化してしまっても、構造だけは長く保たれる性質があるため、遠縁のタンパク質の機能から推定できるからである。また正確な構造がわかれば、そのタンパク質と相互作用する薬剤を設計する道も開ける。
今回CASP6で評価された産総研のタンパク質立体構造予測技術は、今後、ゲノム解析で急増する遺伝子の機能や構造を推定する手がかりとして応用が期待される