独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) サステナブルマテリアル研究部門【部門長 鳥山 素弘】は、環境温度の変化に応じて太陽光熱を自動的に調節する次世代多機能窓ガラスの開発に成功し、従来の材料の最大の問題点であった可視光透過率を4割から6割まで引き上げるなど、世界トップレベルの性能を達成した。
夏に過剰の日射を遮断するための熱線反射ガラスなどが商品化されているが、光学特性が一定で季節の変化に応じて変えられない。一方、温度により光学特性が変化するサーモクロミック材料を利用した調光ガラスも研究されてきたが、可視光透過率が低いこと、断熱性が乏しいこと、温度変化による日射の調節範囲が狭いことなどから、実用化が難しかった。
産総研では、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO技術開発機構」という)委託研究「エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発」の一環として「環境応答型ヒートミラーの研究開発」を行った。これにより、多層薄膜系における光の干渉効果を活用し、サーモクロミック調光薄膜を含む高性能複層薄膜構造を世界で初めて実現することに成功した。独自考案した材料設計及び構造最適化により、可視光透過率40~60%、太陽光調光率を従来の倍以上というサーモクロミックガラスとして世界トップレベルの性能を持った材料を開発し、さらに多機能化及び製造法の確立により実用化に向けた大きな一歩を踏み出すことに成功した。これらの技術を総合することで、自動調光、高断熱、紫外線遮断、光触媒によるセルフクリーニングなど、複数の機能を一体とした新しい省エネルギー快適窓ガラスを実現することが可能になり、産業界への波及が大いに期待される。
ガラスの働きの概略を図に示す。夏は日射の約6~7割を遮断するが、冬は高断熱とともに日射の赤外部分を取り入れる。30℃付近を境界に環境温度に応じて自動的に切り替わる。構造を選ぶことで、高断熱性、セルフクリーニング機能等の機能が附加できる。
建築物の窓部分が外部との光熱交換に大きな割合を占めている。例えば、住宅として、夏には約7割の熱侵入、冬には5割程度の熱流出が窓から起きている。地球温暖化防止のため住宅やオフィスにも省エネルギー対策が強められ、省エネルギー窓ガラスの需要が年々増えてきている。ペアガラス等の省エネガラスは既に商品化され普及しつつある。
より省エネ効果の高い可視光は透過するが過剰の日射を遮断するための熱線反射ガラスや低放射(Low-E)ガラスも開発されているが、それらのガラスは光学特性が一定で、季節の変化や居住者の必要に応じて変えることができない。また、温度により光学特性が変化する、酸化バナジウム単一層薄膜による従来型のサーモクロミックガラスも研究が行われてきたが、可視光透過率が低いこと、断熱性が弱いこと、太陽光の調節可能な範囲が非常に狭いこと等の欠点があり、実用化が難しかった。
そこで産総研では、省エネルギーの大きい、もっと進化した次世代型省エネ快適窓ガラスの開発を目指した研究を行ってきた。特に近年、NEDO技術開発機構の委託研究「エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発」の一環として「環境応答型ヒートミラーの研究開発」を行った。物質の相転移を利用したサーモクロミック材料を調光薄膜として使用することは従来と同様であるが、高性能化及び多機能化を図ることができる多層薄膜構造を世界で初めて考案し、これにより可視光透過率や太陽光調光率を大幅に向上して、世界トップレベルの性能を持ったサーモクロミック調光ガラスを開発することに成功した。さらに、多機能化及び製造法の確立により、実用化に向けた大きなブレークスルーを達成することができた。このような自動調光ガラスが実現すれば、カーテンの入らない、透明で且つ季節の変化に応じ環境温度を感知して自動的に太陽光を制御できる新しい窓ガラスが創出されることとなる。自動調光機能以外にも、高断熱、紫外線遮断、光触媒によるセルフクリーニング機能など、複数の機能を一体とすることが出来、画期的な機能を持った省エネルギー快適窓ガラスとして期待される。
酸化バナジウムというサーモクロミック物質を調光層とする。調光温度を元素添加などにより必要に応じて室温付近に精密に設定することが出来る。(以上従来の研究)
まず構造のもっとも簡単な調光窓ガラス、即ち酸化バナジウム単一層薄膜から成るガラスの光学設計を行った。光学計算により最適の膜厚を決定し、単層薄膜として可視光透過率をあまり低下せずに高い太陽光調節能力を達成した。(単層簡単構造の高性能化に成功)
さらに従来単層型サーモクロミック調光ガラスの欠点を一気に解決できるように、可視光透過率と太陽光調光率の向上や多機能導入のために、酸化バナジウム調光層を幾つかの機能性薄膜で挟む形をとる多層薄膜系を世界で初めて考案した。精密な光学設計でほぼ最大限の調光能力を達成した。夏は日射の約6-7割を遮断するが、冬は高断熱とともに暖かさをもっとも感じさせる日射の赤外部分の大半を室内へ取り入れる。また、その切り替えが30℃を境界に環境温度に応じて自動的に行われる。さらに機能層に光触媒材料を活用することでセルフクリーニングなど多機能化が可能である。
スパッタ法などにより多層薄膜構造の作成法を確立することで、実用化への道を拓いた。(複層構造による高性能化、多機能化に成功、作製法の確立により実用化へ道)
当研究により市販の熱線反射ガラスを凌駕する新しい次世代高性能省エネガラスを開発し、製造法などの確立で実用化に向けて前進することが予想される。オフィスビルを初め、住宅や自動車の高性能省エネルギー窓としての応用が大いに期待される。