発表・掲載日:2004/10/14

木材から水素の生産に成功

-カルシウムでCOを吸収、ベンチ規模連続装置で実証-

ポイント

  • カルシウムをCO吸収剤として用いた水蒸気ガス化(CO吸収ガス化)による木材からの水素生産をベンチ規模連続装置(10kg/日)で行い、COを含まないクリーンガスの生産に成功。
  • これまでラボ規模のバッチ試験では成功していたものの、連続化が課題であり、本技術の実用化に道を拓く。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)循環バイオマス研究ラボ【ラボ長 佐々木 義之】は、財団法人石炭利用総合センター【理事長 安藤 勝良】(以下「CCUJ」という)と共同でバイオマスのCO吸収ガス化の実証に取り組み、10kg/日規模の連続装置で木材からCOを含まないクリーンガスの生産に成功(水素濃度83%、メタン15%、生成量0.5Nm/時)。連続処理に目処をつけることで本技術の実用化に道を拓く。

  • これまでラボ規模のバッチ試験では成功していたものの、連続化が課題であった。
  • COを含まないクリーンガスの連続生産は世界初。水素濃度80%以上も世界初。

 今後、安定運転、長時間運転、最適化などに取り組み、実用化の目処を得る予定。

ベンチ試験装置の写真
ベンチ試験装置写真


研究の背景

 地球温暖化等の問題に対し、循環型社会、将来の水素社会に対応するため、再生可能資源であるバイオマスからの水素生産技術の開発が重要。CO吸収ガス化はカルシウムをCO吸収剤として用いた水蒸気ガス化であり、水素を主成分とするクリーンガスが生産できる技術として期待される。生物的手法と異なり、様々なバイオマスに適応可能であり反応速度も速い。海外(ドイツなど)でも同様な手法が開発されているが、COを完全に吸収できないため、水素濃度が70~80%以下であった。

研究の経緯

 CO吸収ガス化は産総研とCCUJが共同で見出した日本の技術であり、石炭利用CO2回収型水素製造技術(HyPr-RING)の開発を進めてきた。平成14年度から経済産業省の補助金を得て「バイオマスからのクリーンガス生産」プロジェクトを開始し、10kg/日規模のベンチスケール連続装置を設計、試作した。これまでラボ規模でのバッチ試験では成功していたが、実用化のためには連続化が課題であった。今回、本装置を用いての連続運転を行い、COを含まないクリーンガスの連続生産に成功。プロジェクトには広島大学、中国電力株式会社も参加している。

研究の内容

 プロジェクトの目的は、(1)ベンチスケール連続装置の製作、運転を行い、実用化の技術的目処を得ること、(2)プロセス設計、経済性評価と共に社会システムの検討を行い、実用化における経済的目処を得ることである。(1)は主に産総研とCCUJが担当し、(2)は主に広島大学と中国電力が担当。

今後の予定

 今後さらに、安定運転、長時間運転、最適化などに取り組む予定。水素社会になれば、例えば製材工場の横にバイオマスからの水素ステーションをつくることが可能になる。



用語の説明

◆バッチ処理、連続処理
バッチ処理は、容器の中に予め原料を入れた状態で加熱して反応させ、冷却して生成物を取り出す処理方法で、一度の処理量が限られるため、原理の確認には適しているが実用化には課題がある。一方、連続処理は反応器の中に連続して原料を供給し、また連続的に生成物を取り出す処理方法であり、通常化学反応を実用化する場合には連続処理が不可欠である。実用化に向けて連続処理が成功した意義は大きい。[参照元へ戻る]
◆水素社会、水素ステーション
水素は使用時に水しか出さないクリーンなエネルギー源として注目されており、水素を利用した水素自動車や燃料電池の開発、普及が進んでいる。水素ステーションは水素自動車に水素を供給するスタンドのことで、現在、全国10箇所以上で実証試験が行われている。[参照元へ戻る]
◆CO吸収ガス化
木材などの炭素資源をガス化する際に、出てくるCOを吸収するCO吸収剤(カルシウム)を入れることで、COを含まない水素を主成分とするクリーンなガスを生産するガス化方法。
(従来法)     木材+水蒸気 → ガス化 → CO、CO、水素、メタン
(CO吸収ガス化)木材+水蒸気+カルシウム → ガス化 → 水素、メタン
高温高圧(~700℃、~20気圧)でガス化する。従来法(~1000℃)に比べ、圧力が必要であるが温度は低くなる。COを吸収したカルシウムは加熱することで再生、再利用することができる。[参照元へ戻る]


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