独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】(以下「産総研」という)超臨界流体研究センター【センター長 新井邦夫】の白井誠之有機反応チーム長は、超臨界二酸化炭素と担持ロジウム触媒との組み合わせにより、燃料電池用水素貯蔵材料として有望とされているデカリンを従来技術より低温で且つ高選択・高効率に得る合成技術を開発した。この技術は、触媒劣化が起こらないのでその長期使用が可能となること、生成物であるデカリン回収が容易であること、溶媒である二酸化炭素は反応後に気体として回収し再利用が容易であることなど、環境負荷を低減する水素貯蔵材料合成システムとして実用化が期待される。
尚、当該成果については、平成16年9月27-30日に行われる触媒学会(仙台で開催)で発表予定である。
超臨界流体研究センターでは水と二酸化炭素の超臨界流体を利用した環境調和型有機合成プロセスの開発研究をしている。今回超臨界二酸化炭素と担持ロジウム触媒を用いたナフタレンの水素化反応技術を検討し、ナフタレンを効率よく水素化でき、例えば60℃条件下、ナフタレン転化率100%及び選択性100%でデカリンが得られた。ナフタレンの水素化反応では芳香環の一部分が水素化されたテトラリンと全てが水素化されたデカリンが得られる。従来のナフタレン水素化ではテトラリンは得やすいが、高濃度のデカリンを1段の反応で合成することは困難であった。デカリンは、分散型燃料電池用水素貯蔵材料やアロマフリー溶剤として用いられる。これまでのナフタレン水素化技術では担持白金触媒を用いて、反応温度200℃以上の高温で行っている。そのため、分解副生成物や、高分子環状副成物ができ、収率が下がることが技術的課題であった。また、反応中に触媒表面に炭素質が堆積し触媒が劣化しやすい欠点があった。今回発表する新規製造技術では、大幅に反応温度を低下させると共にデカリン選択性が飛躍的に向上すること、超臨界二酸化炭素の溶媒効果によって、触媒表面が清浄化され、触媒の繰り返し使用や長期使用が可能となることなど省エネルギーかつ環境負荷低減技術であることも優れた特長といえる。
これまでのナフタレンを水素化してテトラリンやデカリンを合成する手法は、主に担持白金触媒を用い、反応温度200℃以上で行われているが、従来のプロセスは、反応温度が高いため、分解副成物や高分子環分解副成物ができて収率が下がること、副生物により触媒表面が汚れ活性が大幅に減少(寿命が大幅に低下)することが問題視されていた。更に、部分水素化体であるテトラリンまでしか水素化反応が進行せず、デカリン選択性が低いことも技術的課題であった。今回得られた知見では、超臨界二酸化炭素溶媒と担持ロジウム触媒を用いることによって、反応温度60℃、収率100%でナフタレンからデカリンが得られる利点を有する。
今回発表する合成技術は以下の点で従来技術よりも優れている。
○ナフタレン水素化反応において、超臨界二酸化炭素を利用することで60℃程度の温度条件で反応を進展させることができ、従来技術(反応温度200℃以上)より大幅に反応温度を下げることが可能となった。またそれに伴い、触媒の活性低下を防ぐことができる。
○二酸化炭素溶媒の適用によってデカリン収率を大幅に向上できる。
○反応後生成物を簡単に分離でき、触媒も二酸化炭素も容易に回収再利用可能である。
固体触媒と超臨界二酸化炭素を用いる有機合成技術は、溶媒である二酸化炭素を反応後に容易に除去可能なことから生成物分離工程が簡略化できる利点もある。デカリン等の有機系水素貯蔵材料合成のみならず、化学工業やファインケミカルズにおける様々な有機合成反応プロセスへの適用についても検討していきたい。