独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)、株式会社 アルファシステムズ【代表取締役社長 小林 孝】(以下「アルファシステムズ」という)、WIDEプロジェクト【代表 慶應義塾大学教授 村井 純】は、CD一枚で起動する次期インターネット基盤であるIPv6対応Linux “KNOPPIX/IPv6”を開発した。
開発した“KNOPPIX/IPv6”は、産総研でメンテナンスを行っているLinuxディストリビューションである“KNOPPIX日本語版”をベースに、アルファシステムズがWIDEプロジェクトで開発されているIPv6プロトコルスタックを導入したものである。
また、この“KNOPPIX/IPv6”は、どのPCでもCD一枚でIPv6対応する機能(ホスト)と中継機の機能(ルータ)とを併せ持つが、今回、それぞれの機能の動作確認が行われ、国際認証機関であるIPv6 Ready Logo CommitteeよりLinuxディストリビューションとして世界で初めて国際的接続認証IPv6 Ready Logoを取得した。(2004年8月29日付け)
“KNOPPIX/IPv6”のIPv6機能が国際的に認定されたことにより、ユーザは安心して利用できると共に、他のIPv6機器との相互認証が保証されることで、“KNOPPIX/IPv6”をベースにカスタマイズした製品も創出できることとなる。フリーソフトウェアで構成されているため、ライセンス規定さえ守れば独自のIPv6関連アプリケーション追加も可能である。
IPv6の普及においてはルータの普及が重要な課題であるが、価格の面などから現在それほど進んでいない。しかし、1CDの“KNOPPIX/IPv6”の導入により簡単にPCが試験的なルータ機能として利用可能となるため、利用環境の拡張によるIPv6普及の促進が期待できる。
今後は、IPv6普及・高度化推進協議会ショールーム(東京丸の内 古河総合ビル1F)での当CDの無料配布や、CEATEC JAPAN 2004(2004年10月5日~9日、幕張メッセ)への出展などにより、IPv6の普及促進を図るとともに、KNOPPIXの具体的な利用方法としての提示も積極的に行っていく予定である。
産総研 情報技術研究部門の須崎 有康 主任研究員は、オープンソースソフトウェアの可能性を調べるため、オープンソースでどこまで使いやすいものができるかの検討・開発を行ってきた。この開発の際にCD一枚で一般的なPCでハードディスクを利用せずに起動でき、アプリケーションも含めすべてオープンソースソフトウェアで構成されているKNOPPIXと出会い、ドイツ人開発者のKlaus Knopper氏に連絡を取って日本語対応版の開発を行った。
“KNOPPIX日本語版”の公開後(Linux Conference 2002(2002年9月18日~20日)にて公開)、その利便性のため複数のPC雑誌で取り上げられ、付録CDとして添付された。CD一枚で利用できる利便性にアルファシステムズが興味を持ち、メンテナンス・サポートをベースとしたビジネスの可能性を探る共同研究を起こした。
アルファシステムズでは、通信関係のソフトウェア開発を主な業務としており、民間企業有志などで組織する「IPv6普及・高度化推進協議会」に参加し、IPv6の普及促進活動を進めている。KNOPPIXカスタマイズの可能性の提示も兼ねて、産総研と共同で“KNOPPIX/IPv6”の開発を進めており、これまで“KNOPPIX日本語版”の展示会での配布やショールームでの常設展示などを行ってきた。(“KNOPPIX/IPv6”の公開URL:http://www.alpha.co.jp/knoppix/ipv6 )
WIDEプロジェクトでは、世界をリードしてLinux向けのIPv6スタックである「USAGI」の開発を行ってきている。その活動は世界的にも認められ、Linuxカーネル2.6から「USAGI」の成果がLinuxカーネルに盛り込まれるようになっている。
このような活動の中、“KNOPPIX IPv6“の更なる信頼性を獲得しIPv6普及に貢献できるよう、国際的な接続認証制度であるIPv6 Ready Logoを3者の協力で取得することとなった。
次世代インターネットプロトコルであるIPv6の研究開発は、日本が世界をリードしながら進み、現在では普及促進段階に移行している。しかし、IPv6が利用可能になるためには、OSのIPv6対応、アプリケーションのIPv6対応、ネットワークのIPv6対応がそれぞれ必要であり、どれか1つ欠けてもIPv6が利用可能にはならないため、普及に向けた課題となっている。
“KNOPPIX/IPv6”は上記課題の解決策の1つとして開発された。1CD OSの特徴を活かすことで、CD-ROMを起動するだけでインストールや設定なしでセットアップ済みのIPv6環境が利用でき、特別な知識のない初心者でも気軽にIPv6の世界を体験できる。具体的には、OSのIPv6対応として、「USAGI」IPv6スタックが標準で搭載されている。また、アプリケーションのIPv6対応としては、Webブラウザ(Mozilla, Konqueror)、メールソフト(Sylpheed, Kmail)など、デスクトップ用途で一般的に利用するようなポピュラーなアプリケーションが収録済であり、どちらもインストールや設定が必要ない。また、ネットワークのIPv6対応に関しては、ユーザがIPv6接続環境を保持しているとは限らないため、IPv4接続環境であってもそれを自動検出し、IPv6接続環境に対してトンネル接続を行える6to4機能が内蔵され、ユーザはネットワーク環境がIPv4であるかIPv6であるかを意識することなく利用することが可能である。
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図.“KNOPPIX/IPv6”のラベルデザイン
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今回は、この“KNOPPIX/IPv6”がLinuxディストリビューションとして世界で初めて国際的な接続認証制度であるIPv6 Ready Logoを取得することで、なお一層の信頼性向上を果たした。特に、認証の範囲が幅広い利用条件に及んでいる点は特筆すべきである。第1にKNOPPIXはLinuxカーネル2.4と2.6の選択起動が可能となっており、この機能を活かしてカーネル2.4/2.6の両方で取得を行った。第2に、IPv6 Ready Logoでは、単体で動作する機能(ホスト)と中継機の機能(ルータ)の審査を行っているが、両方の機能での取得を行った。以上により、様々な利用条件におけるIPv6環境を網羅的にサポートした認証Logo取得となっている。
“KNOPPIX/IPv6”はIPv6スタックやIPv6対応アプリケーションをすべてオープンソースソフトウェアで構成したため、ソフトウェアのライセンス料が一切発生していない。これにより無償での公開や配布が可能となる。また、改変も可能であり、“KNOPPIX/IPv6”ベースとしたプロダクトの創出機会も提供している。
IPv6の普及においてはルータの普及が重要な課題であるが、価格の面などから現在それほど進んでいない。しかし、1CDの“KNOPPIX/IPv6”の導入により簡単にPCが試験的なルータ機能として利用可能となるため、利用環境の拡張によるIPv6普及の促進が期待できる。
今後の開発予定としては、XCAST6に対応したKNOPPIXの開発をターゲットに考えている。XCAST6とは、明示的マルチキャストと呼ばれる次世代マルチキャストのことで、多人数ビデオ会議などが容易に実現するための仕組みである。現在はプロトタイプの作成を進め接続実験を行っている。
また、アルファシステムズでは、既にKNOPPIXを活用したビジネスを教育分野向けに開始しているが、その他の産業分野においても、KNOPPIXを活用したビジネスの検討を進めていく予定である。