発表・掲載日:2004/09/14

IPv6が使える1CD Linux“ KNOPPIX (クノーピクス)/IPv6”を開発、国際認証IPv6 Ready Logoを取得

-次期インターネット基盤IPv6の簡便な利用環境を提供、普及促進に貢献-

ポイント

  • 世界で初めてLinuxディストリビューションとして国際的接続認証IPv6 Ready Logoをホストとルータ双方で取得
  • 通常のPCにおいて1CDのみでIPv6対応Linuxが起動
  • 通常のPCがルータとして機能可能、IPv6環境の普及促進に期待
  • フリーソフトウェアで構成されているため、コピー自由

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)、株式会社 アルファシステムズ【代表取締役社長 小林 孝】(以下「アルファシステムズ」という)、WIDEプロジェクト【代表 慶應義塾大学教授 村井 純】は、CD一枚で起動する次期インターネット基盤であるIPv6対応LinuxKNOPPIX/IPv6”を開発した。

 開発した“KNOPPIX/IPv6”は、産総研でメンテナンスを行っているLinuxディストリビューションであるKNOPPIX日本語版”をベースに、アルファシステムズがWIDEプロジェクトで開発されているIPv6プロトコルスタックを導入したものである。

 また、この“KNOPPIX/IPv6”は、どのPCでもCD一枚でIPv6対応する機能(ホスト)と中継機の機能(ルータ)とを併せ持つが、今回、それぞれの機能の動作確認が行われ、国際認証機関であるIPv6 Ready Logo CommitteeよりLinuxディストリビューションとして世界で初めて国際的接続認証IPv6 Ready Logoを取得した。(2004年8月29日付け)

 “KNOPPIX/IPv6”のIPv6機能が国際的に認定されたことにより、ユーザは安心して利用できると共に、他のIPv6機器との相互認証が保証されることで、“KNOPPIX/IPv6”をベースにカスタマイズした製品も創出できることとなる。フリーソフトウェアで構成されているため、ライセンス規定さえ守れば独自のIPv6関連アプリケーション追加も可能である。

 IPv6の普及においてはルータの普及が重要な課題であるが、価格の面などから現在それほど進んでいない。しかし、1CDの“KNOPPIX/IPv6”の導入により簡単にPCが試験的なルータ機能として利用可能となるため、利用環境の拡張によるIPv6普及の促進が期待できる。

 今後は、IPv6普及・高度化推進協議会ショールーム(東京丸の内 古河総合ビル1F)での当CDの無料配布や、CEATEC JAPAN 2004(2004年10月5日~9日、幕張メッセ)への出展などにより、IPv6の普及促進を図るとともに、KNOPPIXの具体的な利用方法としての提示も積極的に行っていく予定である。


研究の背景・経緯

 産総研 情報技術研究部門の須崎 有康 主任研究員は、オープンソースソフトウェアの可能性を調べるため、オープンソースでどこまで使いやすいものができるかの検討・開発を行ってきた。この開発の際にCD一枚で一般的なPCでハードディスクを利用せずに起動でき、アプリケーションも含めすべてオープンソースソフトウェアで構成されているKNOPPIXと出会い、ドイツ人開発者のKlaus Knopper氏に連絡を取って日本語対応版の開発を行った。

 “KNOPPIX日本語版”の公開後(Linux Conference 2002(2002年9月18日~20日)にて公開)、その利便性のため複数のPC雑誌で取り上げられ、付録CDとして添付された。CD一枚で利用できる利便性にアルファシステムズが興味を持ち、メンテナンス・サポートをベースとしたビジネスの可能性を探る共同研究を起こした。

 アルファシステムズでは、通信関係のソフトウェア開発を主な業務としており、民間企業有志などで組織する「IPv6普及・高度化推進協議会」に参加し、IPv6の普及促進活動を進めている。KNOPPIXカスタマイズの可能性の提示も兼ねて、産総研と共同で“KNOPPIX/IPv6”の開発を進めており、これまで“KNOPPIX日本語版”の展示会での配布やショールームでの常設展示などを行ってきた。(“KNOPPIX/IPv6”の公開URL:http://www.alpha.co.jp/knoppix/ipv6

 WIDEプロジェクトでは、世界をリードしてLinux向けのIPv6スタックである「USAGI」の開発を行ってきている。その活動は世界的にも認められ、Linuxカーネル2.6から「USAGI」の成果がLinuxカーネルに盛り込まれるようになっている。

 このような活動の中、“KNOPPIX IPv6“の更なる信頼性を獲得しIPv6普及に貢献できるよう、国際的な接続認証制度であるIPv6 Ready Logoを3者の協力で取得することとなった。

研究の内容

 次世代インターネットプロトコルであるIPv6の研究開発は、日本が世界をリードしながら進み、現在では普及促進段階に移行している。しかし、IPv6が利用可能になるためには、OSのIPv6対応、アプリケーションのIPv6対応、ネットワークのIPv6対応がそれぞれ必要であり、どれか1つ欠けてもIPv6が利用可能にはならないため、普及に向けた課題となっている。

 “KNOPPIX/IPv6”は上記課題の解決策の1つとして開発された。1CD OSの特徴を活かすことで、CD-ROMを起動するだけでインストールや設定なしでセットアップ済みのIPv6環境が利用でき、特別な知識のない初心者でも気軽にIPv6の世界を体験できる。具体的には、OSのIPv6対応として、「USAGI」IPv6スタックが標準で搭載されている。また、アプリケーションのIPv6対応としては、Webブラウザ(Mozilla, Konqueror)、メールソフト(Sylpheed, Kmail)など、デスクトップ用途で一般的に利用するようなポピュラーなアプリケーションが収録済であり、どちらもインストールや設定が必要ない。また、ネットワークのIPv6対応に関しては、ユーザがIPv6接続環境を保持しているとは限らないため、IPv4接続環境であってもそれを自動検出し、IPv6接続環境に対してトンネル接続を行える6to4機能が内蔵され、ユーザはネットワーク環境がIPv4であるかIPv6であるかを意識することなく利用することが可能である。

 
“KNOPPIX/IPv6”のラベルデザイン画像
図.“KNOPPIX/IPv6”のラベルデザイン
 

 今回は、この“KNOPPIX/IPv6”がLinuxディストリビューションとして世界で初めて国際的な接続認証制度であるIPv6 Ready Logoを取得することで、なお一層の信頼性向上を果たした。特に、認証の範囲が幅広い利用条件に及んでいる点は特筆すべきである。第1にKNOPPIXLinuxカーネル2.4と2.6の選択起動が可能となっており、この機能を活かしてカーネル2.4/2.6の両方で取得を行った。第2に、IPv6 Ready Logoでは、単体で動作する機能(ホスト)と中継機の機能(ルータ)の審査を行っているが、両方の機能での取得を行った。以上により、様々な利用条件におけるIPv6環境を網羅的にサポートした認証Logo取得となっている。

 “KNOPPIX/IPv6”はIPv6スタックやIPv6対応アプリケーションをすべてオープンソースソフトウェアで構成したため、ソフトウェアのライセンス料が一切発生していない。これにより無償での公開や配布が可能となる。また、改変も可能であり、“KNOPPIX/IPv6”ベースとしたプロダクトの創出機会も提供している。

  IPv6の普及においてはルータの普及が重要な課題であるが、価格の面などから現在それほど進んでいない。しかし、1CDの“KNOPPIX/IPv6”の導入により簡単にPCが試験的なルータ機能として利用可能となるため、利用環境の拡張によるIPv6普及の促進が期待できる。

今後の予定

 今後の開発予定としては、XCAST6に対応したKNOPPIXの開発をターゲットに考えている。XCAST6とは、明示的マルチキャストと呼ばれる次世代マルチキャストのことで、多人数ビデオ会議などが容易に実現するための仕組みである。現在はプロトタイプの作成を進め接続実験を行っている。

 また、アルファシステムズでは、既にKNOPPIXを活用したビジネスを教育分野向けに開始しているが、その他の産業分野においても、KNOPPIXを活用したビジネスの検討を進めていく予定である。


用語の説明

◆IPv6
IPv6はInternet Protocol Version 6の略である。インターネットプロトコルとは、インターネットの基盤として共通的に使われている通信手順(プロトコル)の名前。データをパケットと呼ばれる小さな単位に分割し、パケットそれぞれをIPアドレスと呼ばれる送り先のタグをつけたうえであて先まで送る仕組みとなっている。現在一般に使われているものは、バージョン4であるが、これの次のバージョンがIPバージョン6である。
現行のIPv4では、インターネットの普及とともにコンピュータの接続台数が急速に増加したため、コンピュータ1台ごとに固有の番号であることが必須であるIPアドレスの枯渇が懸念されている。IPv6に移行した場合、来るべきユビキタス社会において、テレビやエアコン、冷蔵庫といったデジタル家電や携帯電話、自動車などあらゆる機器がネットワークに接続した際に、IPv6の大規模なアドレス空間(およそ10の38乗)という特徴により、全ての機器にアドレスを振ることが可能になる。また、パケットそのものを暗号化してセキュリティを強化する、ネットワークの自動設定機能により経路管理が楽になる、など情報機器環境の改善が可能となる。[参照元へ戻る]
Linuxディストリビューション
 オープンソースのパソコン用基本ソフト(OS)であるLinuxとは基本ソフトのカーネル(核)となる部分のみを指す言葉である。Linuxを実際に動くシステムとして使うには構築・運用に必要なシステムソフトウェアが必要となる。ディストリビューションとは必要なソフトウェアを一式まとめた配布形態であり、まとめ方により幾つかの流派(「RedHat」、「slackware」、「Debian」)がある。[参照元へ戻る]
KNOPPIX日本語版
KNOPPIXとはドイツのKlaus Knopper氏が開発を進めているCD一枚のみで起動できるLinuxである。産総研において日本語化のメンテナンスや仮想計算機対応を行っている。
KNOPPIX日本語版”はハードディスクにインストールが不要のため、WindowsがプレインストールされたPCでも簡単にLinux環境を試すことができる。統合デスクトップ環境KDE、オフィスソフトウェアOpenOffice.orgWebブラウザMozilla、メールソフトSylpheedなどをまとめ、一枚のCDのみで一般的なDOS/V PCで簡単にLinux環境を実現できる。また、これらのソフトウェアはすべてフリーソフトウェアであり、規定されたライセンス条件を守れば、コピー、改変、再配布も自由に行える。改変に際しても「Debian」ディストリビューションベースにしているのでパッケージ管理が使え、容易に更新可能である。
今までにもCD起動のLinuxは何種類か提案されてきたが、“KNOPPIX日本語版”はハードウェアの自動認識・設定が優れており、DOS/V PCのハードの違いを認識して最適な設定を行う。また、独自の圧縮手法を用いて700MCD-ROMに1.8G程度のコンテンツを収録し、且つ、使いやすいデスクトップ環境にまとめた点が評価を得ている。[参照元へ戻る]
◆WIDEプロジェクト
現慶應義塾大学教授の村井純氏らが、コンピュータコミュニケーションを基盤にした新しいネットワーク環境の構築をテーマとして、1988年に創始した研究プロジェクト。大学などの学術機関や企業など100を超える機関が参加している。(参考:http://www.wide.ad.jp/ )[参照元へ戻る]
◆オープンソース
オープンソースとは、ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを公開し、誰でもそのソフトウェアの改良・再配布ができるようにすることである。これは、有用な技術を共有することにより、誰もが自由にソフトウェアの開発に参加することができるため、より良いソフトウェアが生まれるという考えに基づいている。[参照元へ戻る]
USAGI
WIDEプロジェクト内で進められている、Linux上にIPv6、IPsec及び高度なネットワーク技術に関するライセンスフリーな参照コードを実現するための研究開発。[参照元へ戻る]
◆トンネル接続
IPv6のパケットをIPv4のパケット内にカプセル化して、IPv4インターネット上にIPv6パケットを流す技術。 [参照元へ戻る]
◆6to4
IPv4のインターネット接続環境しかなくても、IPv6ネットワークにつなげることができる技術。“KNOPPIX/IPv6”では、この6to4トンネルはインターネット接続されたことを検知し自動的に設定される。6to4トンネルとしては、世界中で公開されている複数の6to4トンネルを利用している。[参照元へ戻る]
◆XCAST
IETF(Internet Engineering ask Force)にて標準化作業を進めている明示的マルチキャスト。少人数向けのビデオ会議などのアプリケーションにとって、利便性の高いマルチキャストプロトコルとして期待されている。(参考:http://www.xcast.jp/[参照元へ戻る]

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