独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 情報処理研究部門【部門長 大蒔 和仁】は、株式会社 SRA【代表取締役社長 鹿島 亨】、株式会社 創夢【代表取締役社長 田口 淳一】、日本アイ・ビー・エム 株式会社【代表取締役社長執行役員 大歳 卓麻】、株式会社 グッディ【代表取締役 前田 青也】)、有限会社 ヴァインカーブ【代表取締役社長 鈴木 大輔】、株式会社 三菱総合研究所【取締役社長 谷野 剛】と、独立行政法人 情報処理推進機構【理事長 藤原 武平太】(以下「IPA」という)が実施している委託事業、オープンソフトウェア活用基盤整備事業「電子政府におけるオープンソフトウェア活用に向けての実証実験フィジビリティ調査(平成15年度)」を実施し、その成果を産総研が実施しているプロジェクト「オープンソースデスクトップ導入実証実験」のポータルサイトにて公開した。
産総研が実施しているプロジェクト「オープンソースデスクトップ導入実証実験」は、産総研の事務部門の業務の一部にオープンソースデスクトップ環境を導入・運用することを目標に計画立案・導入実験・運用実験を2003年度から2005年度までの3年計画で進めているプロジェクトである。
公開した成果は、オープンソースデスクトップの導入ガイド・導入参考資料として「フィジビリティ調査記録」、「導入担当者のためのOSSデスクトップ導入ガイド (計画立案編) 」、また、オフィスソフトウェアOpenOffice.org(オープンオフィスドットオルグ)および メールソフトウェアSylpheed(シルフィード)のマニュアルや講習テキスト等から構成される「利用者のためのOSSデスクトップ利用の手引」である。
本フィジビリティ調査の結果に基づき、平成16年度にはオープンソースデスクトップ環境の小規模な導入実験を実施する予定である。また、本フィジビリティ調査の成果を広く公開することにより、オープンソースデスクトップ導入を推進する。
LinuxをはじめとするOSSは、サーバ用途には着々と採用されつつある。しかしデスクトップ環境としては、未だ機能・性能不足であり、さまざまな改良が必要である。産総研では、OSSがIT社会基盤のソフトウェアの将来の選択肢の一つとなりうることの実証を目的として、オープンソースデスクトップ導入実証実験を行っている。
また、経済産業省とIPAでは「オープンソフトウェア活用基盤整備事業」を開始し、デスクトップ環境向けのいくつかのOSS開発プロジェクトを支援している。これらの結果として、オープンソースデスクトップ環境は近い将来実用レベルに達すると期待されている。また、電子政府において広くオープンソースデスクトップ環境を普及させるには、公的機関において実際の日常業務で利用し、その実用性を証明する必要がある。こうすることによって機能・性能面の問題だけでなく、導入・運用面の問題も解決されていることを示すことができる。
産総研では、この実証を行なうためにIPAの委託を受けて「電子政府におけるオープンソフトウェア活用に向けての実証実験フィジビリティ調査」(以下「フィジビリティ調査」という)を2003年9月より2004年3月まで実施した。
本フィジビリティ調査の目的は、次の2点である。
●オープンソフトデスクトップ環境の導入にあたり、現場の混乱を回避するために事前に技術的問題を洗い出し、解決法を検討しておくこと。
●オープンソースデスクトップ環境の導入実験 (2004年度実施予定) の実施計画を作成すること。
また、フィジビリティ調査の実施と並行して、各種のドキュメント作成および調査を行い、その結果を一般企業、政府、自治体がオープンソースデスクトップを導入する際の検討材料として順次公開していく。
オープンソースデスクトップ導入実証実験では、産総研の事務部門の所員が日常業務に利用しているPCを対象にオープンソースデスクトップ環境を導入する。業務システムの大部分はウェブアプリケーションとして実装されているが、一部の業務にはOSSでは代替できない専用ソフトウェアを必要とするため、導入部署は慎重に選択する必要がある。
導入部署の選定理由と導入時の課題を明確にするため、以下の調査を実施し、「フィジビリティ調査記録」として公開した。本調査記録は、実際にオープンソースデスクトップ環境の導入検討を本格的に実施した日本で初めての調査記録であり、今後、オープンソースデスクトップ環境を導入しようとする公的機関や企業にとって有用かつ具体的な参考情報となる。
● 業務分析・システム分析
オープンソースデスクトップ導入を、産総研の事務部門の業務実施に支障を及ぼさずに円滑に行なうために必要な基礎情報を獲得、整理した。具体的には、産総研の事務部門における各業務の業務分析とシステム分析を実施し、各事務部門業務の他部署への影響範囲や、各システムの利用状況などを明確にした。その後、導入に関する業務的課題および技術的課題を抽出し、その解決策を検討した。
● 現行デスクトップ環境のツールによる調査
現行Windowsデスクトップ環境のハードウェア、ソフトウェアの構成をIT資産管理ソフトウェアなどにより調査した。このPCの構成情報は2004年度のオープンソースデスクトップ環境の導入実験の対象とするPCの選定などに利用する。
また、詳細なオープンソースデスクトップ環境の導入実験計画を立案するには、接続されているハードウェアの利用状況やインストールされているソフトウェアの利用状況が必要となるが、これはPCの構成情報だけでは把握できない。これらの利用状況の調査のための準備と予備実験を行った。2004年度には利用状況の調査を長期にわたって行うことで、OSSデスクトップ導入率の向上を目指す。
● 現行デスクトップ環境におけるオープンソースアプリケーションとの適合性調査
オープンソースデスクトップ環境の導入実験で想定されるオープンソースデスクトップ環境を構築し、現行業務システムと試験的に接続して技術的課題を抽出した。具体的には、オフィス文書の互換性、印刷等について利用可能性を確認した。また、オープンソースデスクトップ環境で作成した文書が既存のWindows環境において読み込み、利用可能かについても確認を行なった。
OSSのデスクトップでの利用は始まったばかりである。欧州ではドイツのミュンヘン市が市役所のPCのデスクトップ環境をオープンソースデスクトップに切替えることを発表し、欧州連合の一機関IDA(Interchange of Data between Administrations)は移行ガイド ("the IDA Open Source Migration Guidelines") を公開している。一方、日本では日本語環境特有の問題や日本独自の文化の影響により、事務部門のような一般利用者を対象としたオープンソースデスクトップの導入事例はほとんどない。
我々は日本の事情に配慮した日本独自の導入ガイドが必要だと考え、産総研のフィジビリティ調査によって得られたノウハウをもとに、日本で初めて「導入担当者のためのOSS デスクトップ導入ガイド (計画立案編) 」を作成した。導入ガイドの構成を以下に示す。
第1章 はじめに
第2章 オープンソース導入計画立案の手順
第3章 計画作成における留意点
第4章 技術的課題とその解決策
第5章 まとめ
また、今後産総研のオープンソースデスクトップ導入実証実験の進展に伴い、導入実験編、運用実験編を追加していく予定である。
現行のWindows環境上のアプリケーションに関しては、一般利用者向けの数多くの導入・利用ガイドが準備されている。オープンソースデスクトップに移行した場合でも同様の環境が提供される必要がある。そこでオフィスでの利用頻度の高いオフィススイートと電子メールソフトを対象として、利用者のための導入・利用ガイドを作成した。対象としたオフィススイートはOpenOffice.org、電子メールソフトはSylpheedであり、以下のドキュメントとウェブサイトを作成・公開した。
・OpenOffice.org オープンマニュアル
・OpenOffice.org オンラインサポートドキュメント
・OpenOffice.org 導入講習テキスト
・産業技術総合研究所向け OpenOffice.org 導入ガイド
・Sylpheed 入門書
・Sylpheed マニュアル
・Sylpheed オンラインマニュアル
・Sylpheed 導入講習テキスト
・Sylpheed 移行ガイド
・Sylpheed ユーザサポートウェブサイト
これらのドキュメントは、ソフトウェアのバージョンアップに追従したり、コミュニティベースでの改良を容易にするために、フリードキュメントライセンス「GNUフリー文書利用許諾契約書(GFDL)」の下で公開しており、誰でも自由に利用・改変・再配布が可能である。
2004年度は、オープンソースデスクトップ環境の小規模な導入実証実験を行うことにより、導入計画の詳細や導入時の問題点などを明らかにし、それらの結果についてはオープンソースデスクトップ導入実証実験のポータルサイトで継続的に公表する。
2004年度は、オープンソースデスクトップ環境の小規模な導入実証実験を行うことにより、導入計画の詳細や導入時の問題点などを明らかにし、それらの結果についてはオープンソースデスクトップ導入実証実験のポータルサイトで継続的に公表する。