独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光技術研究部門【部門長 渡辺正信】、東京理科大学【学長 岡村 弘之】、東京大学【総長 佐々木 毅】、静岡大学【学長 天岸 祥光】、東京工業大学【学長 相澤 益男】らの研究グループは、生体組織と半導体素子とを組み合わせ、光を電気に変換するバイオ光センサー(バイオ・光電子変換素子)の開発に世界で初めて成功した。
本研究開発は、文部科学省科学技術振興調整費の先導的研究等の推進「バイオ共役光受容ナノマテリアルの創生【中核機関 産総研 光技術研究部門】(平成14~16年度)」における研究の成果である。
光センサー(光電子変換素子)を集積したものを撮像素子と呼ぶが、これまでの撮像素子は、CCDを代表とする半導体電子デバイスが主流を占めており、その最小のものは1素子あたり1µm角( 1マイクロメートル:100万分の1メートル)のサイズに達している。しかし、このように超高集積化した電子デバイスでは、集積化に伴う発熱や、これに伴う熱雑音のため、集積度を高くしても感度の向上が難しいという問題があり、新たな技術的解決策の模索が行われている。当研究グループはその解決策の1つとして、生体組織を撮像素子に応用するためのキーテクノロジーであるバイオ・光電子変換素子の開発に成功した。
今回新たに開発したバイオ・光電子変換素子は、温泉に生息する藍色細菌から抽出した生体の光受容体タンパクと新たに有機合成により作製した電子を導きやすい金ナノ微粒子を付けた分子配線とを組み合わせたものを半導体素子であるFET上に集積し、バイオ・光電子変換素子としての動作を確認したものである。
今後は、本手法を用い高集積化したバイオ・撮像素子への展開を図る予定である。また、発光デバイスなどに適用することにより、バイオ・電子産業技術としての確立を目指すと共に、新たな材料科学としての展開を図る予定である。
なお、本件は、2004年3月17~19日の期間に、東京国際展示場「東京ビッグサイト」(東京都江東区有明)で行われるnano tech 2004国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の、産総研ブースで公開される予定である。
|
バイオ光センサーの模式図。光受容体に照射された光により電子が発生し、この電子を人工的に組み込んだ分子配線により光受容体から取り出して、FETの金フローゲートに導くことにより外部に信号として取り出す。
|
半導体産業は、CPUやメモリなどに代表されるように超高速・超高密度化を追い求める技術であると言っても過言ではないが、技術的限界が次々と現れてきており、これを解決する技術として、ナノテクノロジーが次世代産業を切り拓くキーテクノロジーと言われている。一方で、分子、超分子をベースに合成的手法を用いた全く新しい技術でデバイスの超高速・超高密度化を実現しようとする動きがある。
現在は、生体材料や分子を利用する技術は初歩の段階ではあるが、この技術が実現すると、半導体技術では実現できなかった超高密度で省エネルギー型の新しいタイプのデバイスの実現が可能になると考えられている。
本研究開発は、文部科学省科学技術振興調整費の先導的研究等の推進において、産総研光技術研究部門が中核機関となり、東京理科大学、東京大学、静岡大学、東京工業大学らと「バイオ共役光受容ナノマテリアルの創生」を推進している。本プロジェクトは、生物から光合成に関係する部位を取り出して「生体コンポーネント」として利用してデバイス化までを可能とするような新規材料を創生するものである。
今回は、バイオ・電子デバイスの実現の第一歩として、光変換素子の開発に的を絞り、吸収された赤色光に対して、ほぼ100%の高い光電変換の量子収率を有する藍色細菌の光電変換部位をそのまま取り出して利用することにより、発熱が極めて少ない光電変換を可能とした。本バイオ・光電子変換素子開発にあたっては、生体コンポーネントの作製を<1>生体班(東京理科大学)が行った。即ち、耐熱性藍色細菌から取り出した光化学系複合体(光受容体)のコンポーネント単離を行った。これと平行して生体コンポーネントを接続する分子配線と金ナノ微粒子を<2>分子合成班(東京大学)が合成した。また、<3>半導体班(静岡大学)はフローティングゲートを有する高感度FETを準備した。<1>生体班と<2>分子合成班の共同作業により、得られた生体コンポーネントと金ナノ微粒子を分子配線で結合した。この結合体を<1>-<3>が共同してFETのフローティングゲートに接続し、バイオ共役ナノマテリアルとしてのバイオ・電子光変換素子を構築した。これらが設計通りに構築されたことの確認は、<4>ファーフィールド計測班(東京工業大学)及び<5>ニアフィールド計測班(産総研)により、時間分解分光法および電気化学的手法により確認し【図1】、世界で初めてバイオ・光電子変換素子の開発に成功した。
|
図1.バイオ光センサーに光を照射した時のFETの電圧変化
赤矢印と青矢印の大きさの差が、実効的な電圧変化
|
今後、この手法を用いて高集積化したバイオ・撮像素子への展開や、受光素子以外の発光デバイスなどに適用することにより、バイオ・電子産業技術としての確立を目指すと共に、新たな材料科学としての展開を図る予定である。