発表・掲載日:2004/03/03

自動車運転行動データベースと、そのデータを用いた車載型運転支援システム(プロトタイプ)を開発

-いつものように運転しないと危ないよ-

ポイント

  • 実際の路上での多くの一般ドライバーの運転行動を計測し、自動車運転行動データベースを開発、平成16年度中には産業界への提供を開始予定
  • 本データベースを用いて、普段とは異なる運転行動(通常からの逸脱)をした時に、ドライバーに危険が高まっていることを伝える運転支援技術を開発
  • ITS(高度道路交通システム)における運転支援システムの開発を加速

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)人間福祉医工学研究部門【部門長 斎田 真也】は、社団法人 人間生活工学研究センター【会長 野村 明雄】(以下「HQL」という)と共同で、株式会社 豊田中央研究所【代表取締役所長 石川 宣勝】、マツダ株式会社【代表取締役社長 井巻 久一】、日産自動車株式会社【社長兼最高経営責任者 カルロス ゴーン】、横河電機株式会社【代表取締役社長 内田 勲】らとともに、実際の路上での多くの一般ドライバーの運転行動を計測して自動車運転行動データベースを開発した。また、このデータベースを用いて運転行動を客観的に把握することで、普段とは異なる運転行動をした時に危険が高まることをドライバーに伝える車載型の運転支援システムのプロトタイプを開発した。

 本研究成果は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO技術開発機構」という)の平成11年から5年計画で実施されてきた委託事業、産業技術基盤研究開発プロジェクト「人間行動適合型生活環境創出システム技術」の最終成果の一部である。

 本自動車運転行動データベースの構築のために運転行動計測用車両の開発を行い、これを用いて、実際の路上での約100名の一般ドライバーによる延べ約3万キロ以上に渡る運転行動データを収集・蓄積を行なった。運転行動データベースとしては世界最大規模であり、運転支援装置の開発を始めとする種々の自動車技術開発のためのバックデータとして、自動車関連業界で多くの活用が期待できる。HQLでは、日本の産業界が高度な運転支援システムの開発で世界をリードできるように、本自動車運転行動データベースを有償で、平成16年度中には公開することにした。産業界で利用可能な自動車運転行動データベースは世界で初のものとなる。

 さらに、本プロジェクトでは、自動車運転行動データベースに蓄積された運転行動データを用いることで、ドライバーが通常とは異なる運転行動を行ったことを検知する技術を開発して、これを用いた車載型の運転支援システムのプロトタイプを開発した。これは、「一般のドライバーが状況に応じて、いつもどおり運転しているのであれば事故につながるリスクが高まる状態にはなりにくいが、“ウッカリ”して、いつもから逸脱した運転になるとリスクが高まる状態になりやすい。」という新しい考えに基づいたものである。実際の路上での運転行動データから一般ドライバーの通常行動を知ることで、この通常からの逸脱を検知する技術を実現することができた。今回は、一時停止交差点での運転行動を対象として、交差点までの減速から停止に至る運転操作が通常と異なるかを検出し、その逸脱の程度をドライバーにリアルタイムで呈示する車載型の運転支援システムのプロトタイプを開発した。

 なお、本研究成果は平成16年3月9~10日に、JAビル(東京都千代田区大手町)で開催されるNEDO技術開発機構、HQLの主催による「人間行動適合型生活環境創出システム技術」第4回シンポジウムで発表する予定である。

試験走路における実験の風景の写真
試験走路における実験の風景


研究の背景・経緯

〔自動車運転行動データベース〕

 路上での一般ドライバーの運転行動を客観的に数多く計測したデータはこれまでには存在せず、特にITS(高度道路交通システム)においての運転支援技術を開発する現場では、どのような支援を実現すべきか検討したり、また装置のパラメータをドライバーに合ったものを選びたい時に、真のドライバーの運転の姿を知りたいというニーズが高まっていた。しかし、個人の行動にばらつきがあること、また個人差も大きいことから、少数のデータではその真の姿を知ることができなかった。そのために、多人数からのデータであるだけでなく、同一ドライバーによる繰り返しの運転行動の記録・蓄積が望まれてきた。

〔安全運転支援システム〕

 安全運転支援システムとしては、ITSにおいて種々の衝突警報システムの研究開発が進められているが、これらは衝突の直前に警報を出すといった直接的な事故回避・低減のための装置である。このような衝突警報システムは衝突ギリギリのところで作動するために、ドライバーの緊急回避能力や車両の性能などとの関係で効果が違ってくるものであった。そこで本研究開発では、衝突直前ではなく、ドライバーが運転のリスクが高まりつつある状態になっているかを事前にドライバーに伝えることで、ドライバーがリスクの高い状況に置かれるのを防止するシステムの開発を目指した。すなわち、「通常からの逸脱をドライバーに伝えることで、事故のリスクが高まる状態になるのを未然に防ぐように運転してもらう」という、新しい考え方に基づく安全運転支援システムである。これまでに開発されてきたACC(車間距離自動制御装置)や衝突軽減装置(プリクラッシュ装置)は、先行車への追従や目前の障害物への衝突といった、比較的単純な状況下での運転支援システムであった。これに対して、本システムは、人間が通常行なっている運転状況下での安全運転支援システムである。

 

これまでの運転支援装置が対象とする状況と今回の運転支援システムが対象とする状況の比較の図

図1 これまでの運転支援装置が対象とする状況と、
今回の「通常からの逸脱」を検知する本運転支援システムが対象とする状況の比較図

研究の内容

〔自動車運転行動データベース〕

 自動車運転行動データベースの構築に際しては、20才台から70才まで約100名のドライバーの運転行動を、各種のセンサが取り付けられた行動計測用の車両を用いて記録・蓄積し、延べ約3万キロ以上に渡る実際の路上での運転行動データが含まれている。データとしては、道路のどの地点でアクセルやブレーキ操作をしたのか、といった運転操作行動と、その時の車両の速度や加速度、また周りの状況や天候などが蓄積されている。走行道路や運転タスク(加速、右折、減速停止など)などをキーとしてこのデータベースを検索することで、どういった道路でどのような状況でどのような運転操作を行なったかを分析することができる。本データベースの特徴の一つは、同一のドライバーが繰返して同じルートを走行したデータが含まれていることで、これによって運転の個人差や同一人物でもどれだけ行動がばらついているかを知ることができる。

運転行動計測用車両と計測された運転行動データの一例の写真

図2 運転行動計測用車両(右下)と計測された運転行動データの一例(左)

〔安全運転支援システム〕

 運転行動の通常からの逸脱の検知技術は、最も多い事故形態の一つである出合い頭の事故に関わる運転行動を対象として、一時停止交差点における(非優先道路での)減速停止行動に注目し、データベースに蓄積された一般ドライバーの減速停止行動データを用いて開発した。減速停止の多数のデータを用いることで、通常どのように行動しているかを、交差点までの残り距離や速度や加速度から把握し、通常の運転におけるこれらの相互関係を通常運転のモデルとした。そして、これを参照して、実際の走行場面において、このモデルからどれだけ危険側にずれているかを通常からの逸脱度としてドライバーに呈示するものである。

通常からの逸脱検知によってウッカリミスを防止する運転支援システムのコンセプトの図

図3 通常からの逸脱検知によってウッカリミスを防止する運転支援システムのコンセプト図
 

 装置の構成としては、運転行動を検知するためのハンドルやペダルのセンサ、通常運転のモデルが組込まれた車載コンピュータ、そしてドライバーへの逸脱度の呈示装置(逸脱度メーター)からなる。車載コンピュータでは、その時点での運転行動と通常運転のモデルとを比較計算して、モデルと比べて危険側に外れているかを判断する。また、ドライバーに呈示する方法としては、従来の警報のように注意を引き過ぎる可能性があるものではなく、運転中にも煩わしくなく目に情報として入る表示を、「逸脱度メーター」として人間の視覚特性の分析を基に開発した。これによって、運転中に自分がどの程度普段の運転行動から逸脱しているかを知ることができ、未然に危険な状態に陥ることを防ぐことが可能になる。

運転支援システムのプロトタイプ構成図

図4 運転支援システムのプロトタイプの構成図

今後の予定

 一般のドライバーが通常どのような運転を行っているかを知ることは、自動車技術の開発に様々な形で役立つと考えられる。最も高いニーズがあるITS(高度道路交通システム)における運転支援システムの開発においては、例えば警報等のタイミングを決めたい場合や、システムが機能する条件が日常にどれだけあるかの検討、また特に個人による運転の仕方の違いに適用できるかの検討、さらにはそもそもどういった支援が必要なのかの検討など、設計や開発の様々な段階に利用できる。

 ITSばかりでなく、様々な自動車技術への応用が考えられる。例えば、運転の仕方による燃費低減技術の検討や、旅行時間の推定法の検討、運転中に遭遇する道路環境条件を知ってセンサ類の要求仕様を決定することなど、ドライバーの運転行動に関係するあらゆる技術に関係するといえる。また、運転中の“ヒヤリ・ハット”が起きた状況も記録されていることから、事故分析にも貢献することができる。

 通常からの逸脱をドライバーに伝える運転支援システムは、「ドライバー本人なりにリスクのないように運転してもらう装置」という新しいアイデアによるものである。これは、衝突警報システムで危惧されているシステムに対する過信の心配は少ないと考えられ、有益な支援システムとなることが期待できる。

公開デモの内容

 一時停止交差点への減速・停止行動の際の、ブレーキタイミングやブレーキの踏み方が通常から異なる時の、逸脱度の度合いによる逸脱度メータ、警報による逸脱度の呈示

公開デモの写真とブレーキ操作の図


 1.通常の一時停止をする。
 2.意図的にブレーキタイミングを遅らせる。
 3.交差点が近付いてもブレーキを弱めに踏む。  
 4.停止線で止まらずに交差点に進入する。


 これらの行動の違いによって逸脱度メータの表示が変わることや、警報による逸脱度の呈示を公開


1.通常の運転の範囲ならば
 
通常の運転の範囲の写真
 
2.ブレーキが遅めになって、
少し通常から逸脱し始めると
 
少し通常から逸脱し始めた写真
3.ブレーキが弱くなるなどして
通常から逸脱が大きくなると
 
通常から逸脱が大きくなった写真
 
4.止まらずに交差点に進入しようとすると、
危険と判断して
 
危険と判断した写真

当日のデモの様子

 

当日のデモの様子の写真1 当日のデモの様子の写真2 当日のデモの様子の写真3 





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