本研究開発は、経済産業省が実施する提案公募型共同研究事業「地域新生コンソーシアム研究開発事業:ヒューマンセンタードITSビューエイドシステム(平成13~15年度)」において、産学官による共同研究【プロジェクトリーダー 津川 定之(名城大学【学長 兼松 顯】教授・独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】知能システム研究部門 ITS研究グループ長)】として推進し、管理法人 財団法人 中部科学技術センター【会長 太田 宏次】により実施されたものである。コンソーシアムメンバーは下記に示す通りである。今回、3年間にわたる研究開発の成果として、ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムを開発した。
本システムの開発にあたっては、ドライバの受容性を高めるため、「親切であり、お節介ではない運転支援」、「高齢者への運転支援」を目指して開発を行ってきた。
本システムの特徴は、センシングシステム、車車間通信システム、ディスプレイシステムから構成され、道路に新たなインフラストラクチャを必要としないことにある。1台の車両にセンシングシステムとディスプレイシステムが搭載され、車車間通信機能によってシステムの機能がより増強される構成である。
今回開発した、ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムが実用化されることにより、「親切であり、お節介ではない運転支援」が実現される。
コンソーシアムメンバー
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アイシン・エィ・ダブリュ(株)
(株)小糸製作所
小島プレス工業(株)
(株)東海理化
(株)トラフィック・シム
名古屋電機工業(株)
和光技研工業(株)
名城大学
愛知県産業技術研究所
独立行政法人 産業技術総合研究所
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より安全で、より効率的で、より快適で、より信頼性のある交通手段を、すべての人にいつでもどこでも提供することは、ITS(高度道路交通システム、Intelligent Transport Systems)の重要な目的のひとつである。したがって、他のITS関連システム同様、運転支援システムもドライバ受容性を高めるためには、あらゆるドライバに適応するように設計される必要がある。運転支援は、ドライバの意識レベルが高いときにはお節介にならないように控えめに行い、ドライバが眠気を覚えるなど、意識レベルが低いときには親切、丁寧で強い度合いの支援を早めに行うべきである。
ドライバアダプティブな運転支援システムは、高齢化社会においても重要である。運転における認知、判断、操作の能力は、個々のドライバの特性によって大きく異なる。概して高齢者の認知、判断、操作における遅れは、若年者のそれらに比べて大きくなる傾向にあり、その正確さも若年者に比べて劣る傾向にある。これらの傾向は運転支援システムの設計に反映されるべきで、特に急速に高齢化社会になりつつあるわが国においては考慮しなければならない点である。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合は、1995年には14.5%であったが、2015年には25.2%になると予想されている。さらに近い将来高齢者の運転免許保有率があがることから、高齢者ドライバが急速に増加し、2010年には現在の倍の約1400万人になると予想されている。一方、全運転免許保有者に対する年齢ごとの運転免許保有者の割合、第一次当事者の死亡・重傷の割合、全ドライバ死者に対する年齢ごとのドライバ死者の割合のデータは、65歳以上の運転免許保有者は全運転免許保有者の9.2%であるが、第一次当事者の死亡・重傷の割合は10%を越え、ドライバ死者数は15.5%を占めている。これらのデータは、高齢者を含むあらゆるドライバに適応した運転支援システムの重要性と必要性を示しており、ここで紹介するヒューマンセンタードITSビューエイドシステムは、このようなシステムを目的としている。
〔システムの概要〕
“ヒューマンセンタードITSビューエイドシステム”は、経済産業省の支援を受けた“地域新生コンソーシアム”で、平成13年度から3年計画で行われてきたプロジェクトである。コンソーシアムは、自動車部品会社、大学、公設研究機関、産業技術総合研究所で構成されている。プロジェクトの名前は、運転支援の方法がドライバアダプティブであることから“ヒューマンセンタード”とし、車載センサと車車間通信によってドライバのセンシング範囲が広がることから“ビューエイド”としたことに拠っている。ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムの背景にあるのは、ユーザビリティあるいはユニバーサルデザインの思想で、運転支援システムは、ドライバが、意識レベルが高かろうが、低かろうが、眠かろうが、またドライバが若年であろうが高齢であろうが、あらゆるドライバに対して適応しなければならない、という考え方である。
ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムは、センシングシステム、車車間通信システム、ディスプレイシステムから構成されている。このシステムの特徴は、スタンドアロンであり、インフラストラクチャを必要としないことにある。1台の車両のセンシングシステムとディスプレイシステムでシステムは動作し、車車間通信機能によってシステムの機能がより増強される。
1.センシングシステム
このヒューマンセンタードITSビューエイドシステムのセンシングシステムには、路面状況検出、車間距離計測、ドライバモニタリングが含まれる。ドライバモニタリングには、さらに、ドライバの居眠りを検出する瞬き検出とドライバの居眠りに関連して脈を検出する脈拍検出が含まれる。
1.1 路面状況検出
路面状況検出では、路面の湿潤を偏光に基づいて検出する。偏光フィルタを用いて路面からの反射光を垂直偏光と水平偏光に分離し、その強度比から湿潤を検出する。路面が湿潤状態にあるとき、偏光の水平成分は、入射角が53.1°(ブリュスター角)のとき最小で0となる。一方、垂直成分は、入射角が大きくなるに伴って大きくなる。垂直成分と水平成分のエネルギー強度比から、雪や氷を含む湿潤状態を知ることができる。
この検出システムの難しさは、CCDカメラを乗用車のウィンドシールドの内側に装着したとき、入射角が90度に近くなる点にある。入射角が90度に近くなると、垂直成分と水平成分のエネルギー強度の差がなくなり、検出が不可能となるからである。
1.2 ドライバモニタリング
ドライバモニタリングのうち、眼の瞬き検出にはビジョンシステムを利用し、脈拍検出には磁気センサを用いた微小変位センサを利用している。
(1) 瞬きの検出
CCDカメラでドライバの顔を検出したのち、画像処理でドライバの眼の部分を抽出する。検出をロバストにするために、ドライバの顔は赤外線LEDでCCDカメラに同期して断続的に照明されている。CCDカメラはリアビューミラーに内蔵され、鏡面は可視光に対しては反射するが、赤外光に対しては透過するものを使用している。この構成の特徴は、ドライバがモニタされていることを意識しない点にある。
(2) ドライバの脈拍検出
脈拍検出のためのセンサは、微少な変位量が測定可能な磁気センサを利用して構成した。脈拍による鉄片の移動を磁気センサで検出する。
2.車車間通信システム
ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムで用いる車車間通信は、Demo2000協調走行で用いた、5.8GHz、DSRCによる車車間通信に準拠している。ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムにおける車車間通信は、車両制御のためではなく、先行車から後続車にインシデント情報や路面状況を伝達するために使用する。平成12年度に実施された Demo2000協調走行で用いた車車間通信用アンテナは高さが約30cmあったが、ここでは新たに小型のアンテナを開発した。
3.表示システム
ヒューマンセンタードITSビューエイドシステムの特徴の一つは、車両前方の交通状況とドライバの状態によって適応的に表示や警告のタイミングを制御する点にある。ドライバの覚醒度が高く、交通状況の緊急度が低いときには、レベルを低く、ドライバの覚醒度が低くなり、あるいは交通状況の緊急度が高まってくると、時間的には早めに、情報のレベルの面では強めに注意、警告を表示する。警告には音も併用する。
運転支援システムのドライバ受容性を高めるためには、親切ではあるがお節介ではない支援を行う必要がある。ここで紹介したシステムは、このような目的をもつドライバに適応して運転支援情報を提供するシステムで、近い将来の実用化、製品化が期待される。