学校法人片柳学園 東京工科大学【学長 相磯 秀夫】(以下「東京工科大学」という)と独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)バイオニクス研究センターは、糖尿病患者が血糖値を計測する際に使用する検査チップを新たに開発した。これは世界最少の採血量で血糖値の計測が可能な検査チップであるため、従来の製品に比べ、より少ない痛みでの計測が可能であり、また、計測時間の短縮が図られることから、糖尿病患者の負担が軽減されることになる。
今後は商品化と量産化を目指し、住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:岡山 紀男)との共同研究を開始する。なお、商品化は1年後を目標としている。
糖尿病の進行及び合併症の抑制と医療費の削減のためには、血糖値の適切なコントロールが必須である。そのためには、患者あるいは糖尿病が疑われる人が気軽に検査が行えることが必要である。しかしながら、現在販売されている血糖値を測定するためのグルコースチップでは、測定に必要な血液量が多いため、血液をしぼり出す操作が必要であり、採血時に痛みを伴う。これが検査を敬遠させる要因となっている。本プロジェクトで開発するグルコースチップでは、微量の血液(200ナノリッター)での測定が可能であるため、患者の検査時の痛み、つまりは肉体的・精神的な苦痛が軽減される。また高性能でありながら低価格であるため、病院でも個人でも気軽に検査ができるようになり、結果として疾病の早期発見、さらには重篤な合併症の発症の抑制及び医療福祉予算の低減につながる。
2001年の世界保健機関(WHO)による報告では、世界の糖尿病患者数は1億5000万人にものぼり、2025年には3億人になると言われている。糖尿病は進行するにつれ、重篤な合併症を引き起こす。糖尿病は手足の切断や網膜症による失明、神経障害、腎臓疾患の第1位の原因であり、また心臓及び血管の疾患の原因の第2位である。WHOの概算によると、世界の医療福祉予算の5%が糖尿病関連の疾病に使われている。
糖尿病治療産業の市場のうち30%を血糖値を測定するためのグルコースセンサーが占め、2001年における世界市場は5,560億円と試算されており、今後も年間10%以上の成長が見込まれている(下図参照)。日本だけでも現在、約600億円の市場がある。また平成14年度の厚生労働省による糖尿病実態調査によると、日本の成人のうち6人に1人が糖尿病の疑いがあるという。また成人だけでなく、若年性の糖尿病も増加しており、今後も引き続き市場の拡大が見込まれている。さらには低価格のグルコースチップを提供することで、発展途上国への市場の拡大が可能である。
共同研究の枠組みを下図に示す。産総研では東京工科大学で着想された次世代グルコースチップのアイデアを基に基礎データの収集を行うとともに、基本特許を出願し、プロト品の開発を完了している。住友電気工業は産総研及び東京工科大学とマッチングファンド方式の共同開発契約(期間1年間)を締結し、産総研で蓄積された技術の移転および東京工科大学の研究指導を受けつつ、グルコースチップの製造装置開発を行い、開発品の性能、コスト検証とともに、04年11月の厚生労働省の認可を得て、05年度からの販売開始を目指す。