発表・掲載日:2004/01/20

産総研で測定したアボガドロ定数、物理定数を決定する国際機関で採用

-基礎物理定数の改訂に貢献、原子質量標準の実現に道を拓く-

ポイント

  • シリコン球体の形状のナノメートル計測技術を開発、アボガドロ定数の高精度化に成功
  • わが国で測定した基礎物理定数を科学技術データ委員会(CODATA)が初めて採用
  • プランク定数などの基礎物理定数の改訂に貢献、原子質量標準の実現に道を拓く


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)計測標準研究部門【部門長 小野 晃】の藤井 賢一 室長らの研究グループは、EUの共同研究センター標準物質計測研究所【所長 Alejandro Herrero Molina】(Institute for Reference Materials and Measurements 以下「IRMM」という)との協力により、原子の数を基本とする新しい質量の定義である原子質量標準を実現する上で鍵となるアボガドロ定数の高精度化に成功した。このデータは、科学技術データ委員会(CODATA)で評価され、これにもとづいて全面改訂された基礎物理定数が、2003年12月9日に公表された。日本で測定した基礎物理定数がCODATAで採用されるのは初めてである。

 アボガドロ定数は1モルの物質に含まれる原子や分子などの数のこと。その値からは原子や素粒子などミクロな世界を扱う量子力学に登場するプランク定数など重要な定数を導くことができる。これらの定数は物理学や化学で用いられる多くの定数のなかでも特に重要なので基礎物理定数と呼ばれる。基礎物理定数は科学技術にとって極めて重要であり、他の多くの物理定数がこれらの定数に依存しているので、学術的な波及効果が高い。このため、世界各国の標準を司る研究所でアボガドロ定数を高精度化するための研究が行われてきた。

 今回、アボガドロ定数の測定に産総研とIRMMが用いた方法はX線結晶密度法と呼ばれる方法である。シリコン結晶の密度と格子定数(原子間距離)を産総研が、モル質量(平均原子量)をIRMMが測定した。産総研では、数十ナノメートルの真球度で超精密研磨された質量1キログラムのシリコン球の形状を数ナノメートルの精度で測定するレーザ干渉計【写真1参照】を開発した。さらに、シリコン結晶の密度差を極めて高い精度で測定できる新しい計測技術【写真2参照】を開発した。その結果、結晶の密度を8桁という極めて高い精度で測定することが可能となり、アボガドロ定数の精度向上に成功した。産総研とIRMMはこの結果を米国の科学論文誌(IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement、2003年、52巻、2号、646-651頁)に発表し、他の基礎物理定数に頼ることなくアボガドロ定数を直接的に測定する方法としてはこれまでの最高精度である2×10-7を達成した。このデータは、CODATAで評価され、これにもとづいて約200の基礎物理定数が全面改訂された。

 アボガドロ定数の現在の測定精度は約7桁であるが、あと一桁向上すれば、国際キログラム原器という分銅で定義されている現在の質量の単位を再定義し、原子の数を基本とする新しい定義である原子質量標準へと移行することが可能となる。今回の産総研の成果は、基礎物理定数という人類共通の科学技術情報の整備に加え、原子質量標準の実現にも道を拓くものとして注目されている。

 メートル条約加盟国の代表からなる国際度量衡委員会(CIPM)はアボガドロ定数をより精密に測定するための国際プロジェクトを開始することを計画している。このプロジェクトには産総研も参加する予定。また、産総研が開発した固体密度の超精密比較技術は、今まで検出することが困難だったシリコン結晶中の微小な欠陥を定量的に測定することが可能なので、半導体産業のための新しい結晶評価技術への応用などが期待されている。

シリコン球の直径を測るレーザ干渉計の写真
写真1 シリコン球の直径を測るレーザ干渉計


研究の背景

 自然現象を支配する物理法則には幾つかの普遍的な基礎物理定数が存在する。実験による理論の検証を基本とする現代物理学では、幾つかの基礎物理定数と、その数値を決めるための尺度である標準によって理論やモデルの妥当性が検証され物理学体系の基礎が築かれている。光速度、プランク定数、微細構造定数などは最も重要な基礎物理定数である。このうち光速度は定義で決められている定数であり、プランク定数と微細構造定数は測定から決められる定数である。プランク定数は1900年にドイツの物理学者マックス・プランクが発見し、その後の量子力学の発展に繋がったことでも良く知られている。現在広く使われている電圧や電気抵抗などの電気計測ではジョセフソン効果量子ホール効果によって実現される電気標準が基準として使われているので、その高精度化のためにはより正確なプランク定数が必要とされている。

 プランク定数は厳密な関係式によってアボガドロ定数からも導くことができるので、プランク定数と同様にアボガドロ定数の測定値も重要である。これらの基礎物理定数は極めて基本的な定数であり、他の多くの物理定数がこれらの定数に依存しているので、学術的な波及効果が高い。このため、これらの定数決定を個人的なグループに委ねるのではなく、パリに本部を置く科学技術データ委員会(CODATA)が世界中で得られた最新の実験データを集め、これらを各国の専門家が評価して基礎物理定数の推奨値を決め、4年に一度公表することになっている。

 前回にあたる1998年にCODATAが推奨したプランク定数は、英国物理研究所(NPL)と米国標準技術研究所(NIST)がワットバランス法によって測定したプランク定数を主なデータとして決められた。ワットバランス法とはジョセフソン効果と量子ホール効果から決められる電圧と電気抵抗の測定からプランク定数を求める方法のこと。しかし、この値には偏り(データの不確かさに比べて真値からのずれが大きいこと)があるのではないかと以前から専門家などから指摘されていた。このため、全く異なる測定原理による新しいデータの報告が待ち望まれていた。

研究の経緯・内容

 産総研(旧:工業技術院 計量研究所)がアボガドロ定数の測定に着手したのは今から約30年前のこと。アボガドロ定数を正確に測定することができれば、国際キログラム原器という分銅で定義されている質量の単位を原子質量標準に移行させることが可能になるからである。パリにある国際度量衡局(BIPM)に保管されている現在の国際キログラム原器は質量の単位として定義されてから既に100年以上も経過しているので、表面に吸着したガスなどの影響により、その質量は徐々に増加している。また、事故などにより原器の質量が変わってしまうとその質量を再現することができなくなる危険性がある。このため、炭素原子の数、あるいは、不偏的な定数をつかって質量を精度良く再現するための方法が検討されてきた。産総研では、結晶の密度、格子定数(原子間距離)、モル質量(平均原子量)の測定からアボガドロ定数を求めるX線結晶密度法を用い、アボガドロ定数の測定を開始した。

 研究を開始した当初はX線干渉計【図1参照】を使ってシリコン結晶の格子定数(原子間距離)を測る実験からスタートした。1987年、シリコン結晶を極めて真球に近い球体に研磨する技術が開発され、シリコン結晶の密度を高い精度で測ることが可能となった。産総研では、数十ナノメートルの真球度で超精密研磨された質量1キログラムのシリコン球の形状を数ナノメートルの精度で測定するレーザ干渉計【写真1参照】を開発した。1994年には世界で最初に真空中でシリコン球の密度を測ることに成功し、空気の屈折率の影響を受けることなく密度を測定することが可能となり、固体密度の世界最高測定精度を達成した。さらに、シリコン結晶の密度差を極めて高い精度で測定できる新しい計測技術【写真2参照】を開発した。その結果、結晶の密度を8桁という極めて高い精度で測定することが可能となり、従来、アボガドロ定数を精密に測定する上で問題となっていた結晶中の微小な密度分布を評価することができるようになった。X線干渉計による格子定数の測定については1997年に成功している。また、シリコンには安定同位体が3種類あるため、そのモル質量(平均原子量)を決めるためには同位体存在比とその結晶中での分布を精密測定することが必要である。産総研はIRMMの協力を得てシリコン結晶のモル質量(平均原子量)を測定し、2002 年に信頼性の高いアボガドロ定数の測定に成功した。その結果は2003年4月に米国の科学論文誌(IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement、2003年、52巻、2号、646-651頁)に掲載された。

 産総研のデータから導かれるプランク定数は、1998年にCODATAが決めた値とは6桁目で異なり、この違いは測定の不確かさを大きく上回る。産総研が論文発表した直後に、ドイツ物理工学研究所(PTB)の研究グループもシリコン結晶を使ってアボガドロ定数を測定した結果を論文発表し、産総研とほぼ同じ値を報告した。このため、CODATAでは2003年に産総研とPTBから報告されたアボガドロ定数は信頼性の高い値であると判断して採用し、これらのデータに基づいて新しいプランク定数の推奨値を決定した。

 電気標準を使って導かれたプランク定数とシリコン結晶から得られるアボガドロ定数を介して導かれたプランク定数とが異なる理由は今のところ解明されていない。ジョセフソン効果や量子ホール効果などの量子効果の完全性を疑う研究者もいるが、今のところ明確な結論は得られていない。今後、プランク定数のより正しい値については理論と実験の両面から検討が進むものと予想される。

X線干渉計による格子定数の測定原理図


図1 X線干渉計による格子定数の測定原理。

一塊のシリコン結晶を加工してスプリッター、ミラー、アナライザーを構成する。アナライザーを切断してx方向に1原子間距離移動する毎に透過X線と回折X線が明滅する。アナライザーの変位を光波で測定すればシリコン結晶の格子定数が求められる。

  圧力浮遊法による固体密度の超精密比較装置の写真
 
写真2 圧力浮遊法による固体密度の超精密比較装置
 
シリコン結晶とほぼ同じ密度の液体中に固体試料を浮かべ、試料間の密度差を8桁のオーダーで比較する。写真は2つの固体試料が入った圧力制御容器(上)を真空断熱恒温槽(下)に入れるところ。

基礎物理定数の新しい推奨値

 アボガドロ定数は物理学の厳密な関係式によってプランク定数へと換算することができる。このためCODATAではプランク定数の推奨値を決めるにあたって、シリコン結晶から得られたアボガドロ定数を介して導かれたプランク定数と、ジョセフソン効果や量子ホール効果に基づく電気標準から得られたプランク定数などを比較した。

 今回CODATAがプランク定数の推奨値を決定するのにあたって採用した主なデータを図2に示す。これらはジョセフソン効果や量子ホール効果などにもとづく電気標準から導かれたデータ(□)とシリコン結晶から得られるアボガドロ定数を介して導かれたデータ(○)とに大別できる。これら2つのグループのそれぞれの測定の不確かさは7桁のオーダーである。それに比べて、2つのグループ間には6桁目の相違があり、理論的には一致するはずのこれらのデータがグループ間では一致しないという矛盾が観測された。CODATAでは、これらのデータを報告した論文などを精査し、測定に用いられた実験や理論などをあらゆる視点から検討したが、この矛盾が生じる原因は見出されなかった。このためCODATAでは、現在の物理学では解明されていない未知の物理現象や未知の不確かさが存在するものと判断し、統計的な整合性が得られるまで全てのデータの不確かさを拡張して、それらの重み付け平均値としてプランク定数の推奨値(△)を決定した。日本で測定した基礎物理定数がCODATAで採用されたのは今回が初めてである。

プランク定数の決定に貢献した主な実験データの図

図2 プランク定数の決定に貢献した主な実験データ
バーは実験データの標準不確かさを表す。NML(豪)-8HOSU 干す9:オーストラリア連邦科学産業研究機構の水銀電圧計によるジョセフソン定数の測定(1989年)、PTB(独)-91:ドイツ物理工学研究所の電圧天びんによるジョセフソン定数の測定(1991年)、NPL(英)-90:英国物理研究所のワットバランスによるプランク定数の測定(1990年)、NIST(米)-98:米国標準技術研究所のワットバランスによるプランク定数の測定(1998年)、NMIJ(日)/IRMM(EU)-03:産総研と標準物質計測研究所によるアボガドロ定数の測定(2003年)、PTB(独)/IRMM(EU)-03:ドイツ物理工学研究所と標準物質計測研究所によるアボガドロ定数の測定(2003年)。従来はワットバランスなど電気標準に基づいて測定されたプランク定数(□)のみからプランク定数が決められていたが、シリコン結晶から信頼性の高いアボガドロ定数(○)が得られたことによりCODATAによる新しい推奨値(△)が公表された。

今後の予定

 現在到達できるアボガドロ定数の測定精度は約7桁であるが、あと一桁向上すれば、原子の数を基本として質量の単位を決めることが可能となる。今回の産総研の成果は、基礎物理定数の決定など人類共通の科学技術情報基盤への貢献に加え、キログラム原器という分銅で定義される最後のSI単位であるキログラムの原子質量標準化に道を開くものとして注目されている。原子質量標準が実現されれば、現在の国際キログラム原器は不要となり、歴史上初めて質量の定義が人工物から切り離され、不偏的な定数と結びつくことになる。このため、メートル条約加盟国の代表からなる国際度量衡委員会(CIPM)は、アボガドロ定数をより精密に決定するための国際プロジェクトを開始することを計画している。このプロジェクトでは、3つの安定同位体から成る自然界のシリコンを同位体濃縮して、濃縮度99.99 %の28Siからなる数キログラムのシリコン結晶を創生し、モル質量の不確かさを極限まで減少させることが検討されている。また、シリコン結晶の密度と格子定数についてもその計測の不確かさを極限まで減少させるための国際共同研究を開始することが検討されている。このような同位体濃縮結晶を創生するために産総研のほか独、伊、英、米、豪の標準を司る研究機関やEUの共同研究センター、ハーバード大学、ロシアの研究機関などが協力する予定。

 アボガドロ定数決定の過程で開発された固体密度の超精密比較技術は、今まで検出することが困難だったシリコン結晶中の微小な欠陥の定量的評価にも使えるため、今後は高集積デバイスのための新しい結晶評価技術への応用などが期待されている。また、同位体濃縮シリコンは既に量子コンピュータや高熱伝導材料の開発に応用され、そのための基礎研究が進められている。これらの基礎研究や応用への期待に支えられながら、近い将来、メトロロジスト(Metrologist)の永年の夢である原子質量標準が実現されるものと予想される。



用語の説明

◆原子質量標準
国際キログラム原器は、1889年に開催された第1回国際度量衡委員会において質量の単位として承認されて以来、一世紀以上パリにある国際度量衡局(BIPM)に保管されてきた。この白金イリジウム製の分銅という人工物に頼る最後のSI基本単位を、炭素原子の数、あるいは、アボガドロ定数を定義とする新しい標準に置き換えるための研究が行われている。アボガドロ定数やプランク定数の測定精度があと一桁向上すれば原子質量標準が実現できると考えられている。[参照元へ戻る]
◆アボガドロ定数
イタリア・トリノ大学の教授アメデオ・アボガドロ(Amedeo Avogadro 1776-1856)は1811年、「一定温度、一定圧力、一定体積の気体には、物質の種類によらず、ほぼ同数の原子や分子が含まれる」という仮説を提唱したが、当時はその値を知るための理論や実験手段がなかった。その値が知られるようになったのは20世紀に入ってからのこと。CODATAによるアボガドロ定数の最も新しい推奨値はNA= 6.022 1415(10)×1023mol-1である(括弧内の数値は最後の桁の標準不確かさ(標準偏差で表した測定結果の不確かさ)を表す)。[参照元へ戻る]
◆科学技術データ委員会(CODATA:Committee on Data for Science and Technology
パリに本部をおき、基礎物理定数、環境、生物、地球、海洋、地質、化学、画像情報などの科学技術データを定期的に公表するための幾つかの作業部会からなる。そのなかの一つ基礎物理定数作業部会(Task Group on Fundamental Physical Constants)は各国からの専門家15名からなり、1973年、1986年、1998年に基礎物理定数の推奨値を公表してきた。4度目にあたる今回の公表では、2002年までに報告された実験データから基礎物理定数を決めたので「2002年の推奨値」と呼ばれる。CODATAが公表する基礎物理定数はあらゆる分野で採用され、最も信頼性の高いデータとして国際的にも広く引用されている。(参考:http://www.codata.org[参照元へ戻る]
◆モル(mol
国際単位系(SI)はキログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)、ケルビン(K)、アンペア(A)、モル(mol)、カンデラ(cd)の7つのSI基本単位から構成される。このうちモルは「物質量」(amount of substance)を表す単位であり、「0.012kgの炭素12の中に存在する原子の数に等しい数の要素粒子を含む系の物質量である」と定義されている。[参照元へ戻る]
◆プランク定数
ドイツ物理工学研究所(PTB)のマックス・プランク(Max Planck 1858-1947)は1900年、黒体からの熱放射を研究する過程で光子のエネルギーが不連続であることを発見した。光子の振動数をv とすれば、このエネルギーの不連続さはhv で表される。h はプランク定数を表す。プランク定数は1905年にアインシュタインが提唱した光電効果に取り入れられ、その後の量子力学発展の基礎をなした。現在ではジョセフソン効果による電圧の標準や量子ホール効果による電気抵抗の標準を実現する際の定数として用いられている。CODATAによるプランク定数の最も新しい推奨値はh = 6.626 0693(11)×10-34Jsである(括弧内の数値は最後の桁の標準不確かさ(標準偏差で表した測定結果の不確かさ)を表す)。[参照元へ戻る]
◆基礎物理定数
物理法則を支配する普遍的な定数。光速度、プランク定数、微細構造定数などは最も重要な基礎物理定数であり、このうち光速度は1983年から定義となった。プランク定数と微細構造定数は実験から決められる定数。プランク定数は厳密な関係式によってアボガドロ定数からも導くことができる。これらの基礎物理定数は極めて基本的な定数であり、他の多くの物理定数がこれらの定数に依存しているので波及効果も高い。科学技術データ委員会(CODATA)によって世界中で得られた実験データが評価され、4年に一度、約200の基礎物理定数が改訂され推奨値として公表されている。(参考:http://physics.nist.gov/constants[参照元へ戻る]
◆X線結晶密度法
結晶の密度をρ、格子定数をa、モル質量をM としてそれぞれを測定する方法のこと。シリコン結晶はダイアモンドと同じ結晶構造をもつ立方晶系の結晶なので、アボガドロ定数はNA= 8M/(ρa 3)として求められる。密度の測定にはシリコン球が、格子定数の測定にはX線干渉計が用いられる。自然界に存在するシリコンには3種類の安定同位体28Si、29Si、30Siがあるので、その同位体存在比を質量分析計で測定すればモル質量が求められる。[参照元へ戻る]
◆格子定数
結晶の最小単位である単位胞(unit cell)の寸法を表す数値のこと。ダイヤモンドやシリコン結晶は立方晶系に属し対照性の高い結晶構造をもつ。シリコン結晶の格子定数は温度22.5℃、圧力0Paにおいて約543.102pmである(記号pmはピコメートルと呼ばれる長さの単位であり、1兆分の1メートル、あるいは、1千分の1ナノメートルを表す)[参照元へ戻る]
◆モル質量
物質1モルあたりの質量を表す物理量。炭素12の質量を基準とする相対原子質量あるいは相対分子質量は無次元量である。これにg/molという単位を付け加えた量のことをモル質量と呼ぶ。自然界に存在するシリコンには3種類の安定同位体28Si、29Si、30Siがあるので、その同位体存在比を測定すればシリコンのモル質量(平均原子量)が求められる。[参照元へ戻る]
◆ナノメートル
10億分の1メートルを表す長さの単位。記号nmで表される。1マイクロメートルの1千分の1。ナノテクノロジーという用語で既によく知られているように、およそ数原子間距離に相当する長さを表す。[参照元へ戻る]
◆レーザ干渉計
レーザ光など可干渉性の高い光を使って長さや変位を測る装置。1983年以来、長さの標準は光速度を定義とする光周波数測定に移行した。従って、光周波数から求められる波長を基準にすれば長さや変位を正確に測定することができる。光の1波長をさらに分割することにより、1ナノメートルよりも短い長さを測定することも可能。[参照元へ戻る]
◆メートル条約
計測標準の開発と普及、国家計量標準の同等性の確保など世界の計量のために国際度量衡総会(CGPM)、国際度量衡委員会(CIPM)、国際度量衡局(BIPM)を組織し、メートル系の新しい形態である国際単位系(SI)の普及と改良を行い、計量学上の諸問題を国際的観点から科学的に解決をすることなどを定めた条約。1875年に欧州を中心とする17カ国により締結され、1921年に一部改正された。わが国が加盟したのは1885年。2003年12月現在、51カ国が加盟している。各加盟国の代表から構成されるCGPMは4年毎に開催されている。[参照元へ戻る]
◆国際度量衡委員会(CIPM:International Committee for Weights and Measures
メートル条約に基づいて組織された国際度量衡総会(CGPM)の指揮下にあり、国籍の異なる18名の委員からなる。測定単位の世界的統一を目的とし、そのための決議案などをCGPMに提案する他、国際度量衡局(BIPM)で行われる研究や事業を監督する。[参照元へ戻る]
◆結晶評価技術
半導体デバイスの高集積化に伴い、成長時導入欠陥などより小さなシリコン結晶中の欠陥を検出できる新しい計測技術が必要とされている。レーザ散乱法など従来の計測技術では約50nm程度がボイド(空孔)型欠陥の検出限界であるが、半導体工業会(SIA)の技術ロードマップなどによれば、メモリーなどのピッチや線幅は2016年頃までに10~20nm程度まで減少するものと予想されている。このため基盤材料となるシリコン結晶中の欠陥の数とサイズをさらに減少させる技術とそのための新しい評価技術が必要とされている。ボイド型欠陥が存在すると結晶の密度は減るので、8桁のオーダーの高い感度で結晶の密度を測定すれば、結晶の完全性を評価することが可能となる。[参照元へ戻る]
◆ジョセフソン効果
厚さ2nm程度の絶縁膜を挟んだ2つの超伝導体の間(トンネル接合)を超電導電子対のトンネル効果によって超電流が流れる現象。1962年にブライアン・ジョセフソン(Brian Josephson 1940-)が理論的に予言した。特に交流ジョセフソン効果は電圧の単位であるボルトを設定するのに広く用いられている。トンネル接合された素子(ジョセフソン素子)にマイクロ波を照射すると電流-電圧特性に不連続なステップが誘起される。このときn 番目のステップの電圧はジョセフソン電圧と呼ばれUJ=nv/(2e/h)で表される。ここで、v はマイクロ波の周波数、e は電荷素量、h はプランク定数を表す。特にKJ=2e/h はジョセフソン定数と呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆量子ホール効果
強磁場下の二次元電子系において、i を整数とすれば、電気抵抗が(h/e2)/i となる現象。このときの量子化ホール抵抗はRH= (h/e2)/i で表される。この現象は1979年にドイツ物理工学研究所(PTB)のフォン・クリッツィング(K. von Klitzing)らによってはじめて観測された。特にRK= h/e2はフォン・クリッツィング定数と呼ばれる。量子ホール効果は電気抵抗の標準を設定するために用いられるほか、微細構造定数α=µ0c/(2RK)を決めるのにも応用されている。ここでµ0は真空の透磁率を、c は光速度を表す。[参照元へ戻る]
◆ワットバランス法
ジョセフソン効果と量子ホール効果からプランク定数を測定する方法のこと。磁場中の導体に電流Iを流すと力F が発生する。力F は天びんを使い、校正された分銅を使って測定する。この導体を同一磁場中で速度v で移動させると電圧U が発生する。このとき電気的仕事率はUI、力学的仕事率はFv で表され、Fv = UI の関係が成立する。したがって、電気的仕事率を力学的仕事率から測定することができる。さらに、電圧U をジョセフソン電圧UJ=nv/(2e/h)を使って測定し、電流Iを量子化ホール抵抗RH= (h/e2)/i とジョセフソン電圧を使って測定すれば、プランク定数はh =4/(KJ2RK)として求められる。[参照元へ戻る]
◆国際度量衡局(BIPM:International Bureau of Weights and Measures
パリ郊外のフランス政府提供のパビヨン・ド・プルトイユ(サン・クレー公園)の敷地内にある国際機関。その維持費はメートル条約加盟国の分担金で賄われている。国際度量衡局は国際度量衡委員会(CIPM)の監督の下に、主な物理量の基本的な標準を設定し、国際キログラム原器を保管することなどを主な任務とする。約45名の物理学者や技術者から構成され、計量に関する研究や単位の実現、国際比較、標準器の校正などを行っている。[参照元へ戻る]
◆標準不確かさ
1993年にISO(国際標準化機構)から出版された「計測における不確かさの表現のガイド」(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement: GUM、以下「ガイド」という)によって定義された測定値の信頼性を表す指標。従来は計測の信頼性を表すのに「誤差」が用いられてきたが、その大きさを見積もる方法が統一されていなかった。このガイドによって「不確かさ」(uncertainty)を見積もる方法が国際的に統一された。「標準不確かさ」(standard uncertainty)は標準偏差で表した測定結果の不確かさを表す。[参照元へ戻る]
◆SI単位
国際単位系(SI)はキログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)、ケルビン(K)、アンペア(A)、モル(mol)、カンデラ(cd)の7つのSI基本単位と、これらの組合せであるSI組立単位から構成される。SI組立単位には角度の単位であるラジアン(rd)、圧力の単位であるパスカル(Pa)など、固有の名称と独自の記号で表される22のSI組立単位がある。これらを総称してSI単位と呼ぶ。(参考:パンフレット「国際単位系(SI)は世界共通のルールです(PDF:3.9MB)」参照)[参照元へ戻る]



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