独立行政法人産業技術総合研究所【理事長:吉川弘之】(以下、「産総研」という)セラミックス研究部門【部門長:亀山哲也】生体機能性セラミックス研究グループ【主任研究員:穂積 篤】【特別研究員:白幡直人】は、ガス検知機能を有するセラミックス薄膜を低温で形成する技術を開発した。このセラミックスガスセンサーは、曲げても割れない、優れた可とう性を有している。さらに、本技術は、現行の半導体プロセス(リソグラフィーやエッチング)、いわゆる「トップダウンプロセス」を用いることなく、基板の所定の位置に、セラミックスを原子・分子レベルから積み上げていく、いわゆる、「ボトムアッププロセス」により、液相中でセラミックスの微細加工を実現できることが大きな特徴であり、これによって得られたセラミックス微細構造の解像度は、現行のマイクロメートルサイズ(1マイクロメートルは1メートルの100万分1の長さ)の電子部品に求められる解像度に匹敵する。
本技術は、セラミックス業界で要求されている成膜温度の低温化・CO2エミッション(二酸化炭素排出)の削減に貢献できるだけでなく、ナノテクノロジー成功の鍵を握るプロセスとして注目を集めている、「ボトムアッププロセス」を実用段階へステップアップさせるための基幹技術となりうる。
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フレキシブルガスセンサー
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次世代電子材料・システム分野において、超小型・超軽量・高集積化デバイスを作製するための技術開発が、世界中で精力的に行われている。ガスセンサー業界もこの例に漏れず、近年の水素社会到来、排ガス規制、ダイオキシン問題、燃料電池の小型化に伴い、複数の危険・有害ガスを瞬時に識別・検知する、小型で軽量な高機能センサーの開発が求められている。そのためには、センサー自身を微細化し、特定の有害ガスにのみ反応する複数のセンサーを基板の所定の位置へ配設する技術の開発が急務である。従来、セラミックス薄膜は、半導体プロセス(リソグラフィーやエッチング)、いわゆる、「トップダウンプロセス」により、所望の形状に微細加工されていたが、セラミックスの多くは化学的に非常に安定なため、不要な部分を化学的に分解除去する半導体プロセスになじまず、その加工が困難とされていた。
さらに、ポリマーフィルム上へセラミックス薄膜を作製する場合、ポリマー表面を構成する有機官能基の種類などが不均一であることから、セラミックス薄膜との密着性が低いという問題点があった。そのために、ポリマーとセラミックス薄膜間の密着性を向上させることが最重要課題であった。
これらの背景を踏まえ、産総研セラミックス研究部門生体機能性セラミックス研究グループでは、セラミックスの低温合成が可能な水溶液プロセスと「ボトムアッププロセス」を駆使することにより、超小型かつ、超軽量である「可とう性に優れたマイクロガスセンサーの開発」に成功した。
具体的には、膜厚1~3ナノメートル(1ナノメートルは、1メートルの10億分の1の長さ)の無機物層を、ガス検知機能セラミックス薄膜とポリマーフィルム間の接着層として、ポリマーフィルム上に予め被覆することにより、ポリマーフィルムとセラミックス薄膜間において、優れた密着性を確保することが可能となった。さらに、ガス検知機能セラミックス薄膜を形成する前に、予め、接着層上に、セラミックス薄膜が付着しにくい有機層(膜厚1~3ナノメートル)を、特定の領域に形成しておくことにより、微小なセラミックスセンサーをポリマーフィルム上の所望する位置に選択的に作製する技術も開発した。
セラミックス薄膜にガス選択性を付与する技術を確立し、複数のガスを同時に検知できるマイクロガスセンサーを1つのポリマーフィルム上に集積する予定である。