産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) 生活環境系特別研究体【系長 小林 哲彦】は、社団法人 ニューガラスフォーラム、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、姫路工業大学と共同で開発した多孔質ガラス電解質(本年1月プレス発表済)を利用して、直接メタノール形燃料電池(DMFC)を作成し発電することに成功し、従来のNafionなどのパーフルオロスルホン酸膜を用いた電池に比べ、高濃度のメタノール燃料で高い出力を得られることを実証した。
次世代のモバイル用電源として期待される直接メタノール形燃料電池(DMFC)では、通常の電解質膜(Nafionなどのパーフルオロスルホン酸膜)のメタノールクロスオーバーが著しいため、特に高濃度のメタノール燃料では大幅な性能低下が避けられないためメタノール燃料を水で希釈しなければならず、エネルギー密度の低下を余儀なくされていた。
このようなナノ細孔を利用する技術によってDMFCシステムの出力密度を高め、モバイル機器の駆動時間の大幅な向上が期待できる。
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多孔質ガラス電解質膜を用いたDMFC模式図
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高機能化を背景にモバイル機器の要求電力は増加の一途をたどっており、バッテリーの出力向上が大きな課題となっている。現状のリチウムイオンバッテリーの高性能化は限界に近づいてきているが、ユビキタス社会を見据えた次世代機器にも格段の進歩が求められており、今後さらに高い電力が必要になると予想される。DMFCは次世代モバイル電源として注目されており、企業・大学などで活発な研究開発が進められている。しかし、一般的な電解質膜であるパーフルオロスルホン酸膜はメタノールを容易に吸収して膨潤し、メタノールクロスオーバーが著しいため、特に高濃度のメタノール燃料では発電効率の大幅な低下が避けられなかった。高分子材料では膨潤の影響を避けられないと考え、膨潤がなくナノレベルで制御された細孔をもつ多孔質ガラスを基体とする電解質を適用した。
産総研では、NEDOナノガラスプロジェクト(PL:平尾京大教授)の一環として(社)ニューガラスフォーラムと共同で多孔質ガラスを応用した電解質膜の開発を行い、100℃以上の高温でも安定で1×10-2 S/cm以上の導電率を示す電解質膜の開発に既に成功している(本年1月プレス発表済)。また、産総研では固体高分子形燃料電池(PEFC)の研究開発を長年継続して行ってきており、触媒などの材料開発をはじめとして、セルの特性評価・劣化機構の検討を通した信頼性向上に関する研究、PEFC用新規燃料や可逆型燃料電池など次世代技術まで幅広く展開している。そこで、多孔質ガラスの材料技術と電気化学的な燃料電池構成技術を融合させ、これまで実現が困難であった高濃度メタノールでも発電可能なDMFCの開発を目指した。
ナノ細孔表面を修飾した多孔質ガラス電解質膜(膜厚:0.5 mm)の両面に白金ルテニウム触媒、白金担持触媒から成る電極を配置し、64重量%メタノール水溶液、酸素をそれぞれに供給したところ、同膜厚のNafion電解質膜より作成したセルを同条件で作動した場合よりも高い出力を得られることがわかった。
多孔質ガラス膜の薄膜化などを進め、出力の向上を進めたい。また、ナノ細孔をもつ修飾可能な材料を広く探索する方針である。