独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)単一分子生体ナノ計測研究ラボ【ラボ長 馬場 嘉信】(以下「単一ラボ」という)は、近畿大学・九州工学部【学長 野田 起一郎】(以下「近大・九州」という)と共同で、従来法では毒性なく精密に細胞内に導入することが困難であり、かつ、細胞内で速やかに分解されてしまうことから、細胞内(生体内)で効率良く機能を発揮することができなかったオリゴDNAを、産総研が開発した「細胞内酵素活性測定法」と近大・九州が開発した「固相フラグメント縮合法」を用いて、輸送シグナルペプチドをオリゴDNA分子上に集積化したバイオナノ構造体【図1】を構築することにより、その細胞への取り込みの促進と細胞内での精密な局在化制御を達成した。併せて、その機能集積化オリゴDNAにより特定の遺伝子発現を強く抑制できることを、主にヒト白血病細胞に発現するテロメラーゼ(細胞不死化をもたらす酵素)を標的として証明した。
本成果は、産総研の有している白血病細胞内での特定酵素活性や遺伝子発現測定技術と、近大・九州が開発している機能性生体分子をオリゴDNA分子上に集積化する固相フラグメント縮合法を融合することにより達成したものであり、本技術開発によって、細胞内での所在をも制御できる精密遺伝子導入法を確立し、薬物精密デリバリーツールやゲノム情報に基づいた遺伝子機能解析ツールの開発に道を拓く成果である。
今後は、本技術を遺伝子治療用非ウイルスベクターの開発・商品化や、特定の疾病原因遺伝子(例えばガン遺伝子やエイズウイルス遺伝子)に選択的に作用して副作用なく疾病を治療できる遺伝子医薬の開発・実用化へと展開する予定である。
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図1 多機能集積化オリゴDNA/RNA=バイオナノ構造体モデル
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30.7億塩基対からなるヒトゲノムが解読され、コードされる32,615個の遺伝子の機能解析、一塩基多型解析が今後の課題となっている。しかし、細胞内(生体内)で未知遺伝子とその発現タンパクの機能を解析する手法はなく緊急の課題である。一方、ゲノム創薬・遺伝子治療においては、より精密なデリバリーシステムの構築が望まれている。本研究では、生体分子機能の集積化によりバイオナノ構造体を構築し、細胞内への精密な遺伝子導入法及び細胞内(生体内)で応用可能な遺伝子機能解析法を開発することを目的とした。
産総研・単一ラボは、白血病細胞内での特定酵素活性や遺伝子発現測定技術を有している。一方、近大・九州では、機能性生体分子をオリゴDNA分子上に集積化する固相フラグメント縮合法を開発している。両者は互いの技術を融合し、上記の研究課題を解決するために平成13年度から共同研究に取り組み、今回の技術開発に到った。
研究グループは、独自に開発した固相フラグメント縮合法により輸送シグナルペプチドやその他の機能性生体分子をオリゴDNA分子上に集積化したバイオナノ構造体を構築して、その細胞への取り込みの促進と細胞内での精密な局在化制御を達成した。さらに、その機能集積化オリゴDNAにより特定の遺伝子発現を強く抑制できることを主にヒト白血病細胞に発現するテロメラーゼを標的として証明した。
今後は、オリゴDNA/RNAのカスタム合成を担当する株式会社ジーンネット【代表取締役 明日山 康夫】と、血液検体や医療現場から情報提供を担当する福岡大学【学長 山下 宏幸】医学部の田村研究室を共同研究機関として加え、これらの基本技術の応用として細胞内での所在をも制御できる精密遺伝子導入法を確立し、薬物精密デリバリーツールとしての実用化を目指す。これらのキットはゲノム医療・ゲノム機能(プロテオーム)解析に重要なツールとなリ、その分野の研究の推進に大きく貢献する。
(注)本記事中の「オリゴDNA/RNA」、「機能集積化オリゴDNA/RNA」との表現のうち、RNAについては現在では合成できることが確認されていますが、発表当時はアイデア段階であり、実験に裏付けられたものではありませんでした。正確を期すため「DNA/RNA」のうち成果について記載した部分の「RNA」を削除し訂正するとともに、発表当時としては不適切な表現であったことをお詫びいたします。