独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】 超臨界流体研究センター【センター長 新井邦夫】白井誠之有機反応チーム長は、超臨界二酸化炭素溶媒と担持ロジウム触媒の組み合わせにより、フェノールからシクロヘキサノールとシクロヘキサノンを従来技術より低温で且つ高効率に得る合成技術を開発した。この技術は、触媒劣化が起こらないのでその長期使用が可能であること、有機溶媒を使用しないため合成後の生成物の蒸留分離工程を必要としないなどの特長を有する。更に二酸化炭素は反応後に気体として回収し再利用が容易で、環境負荷を低減する製造システムとして実用化が期待される。
超臨界流体研究センターでは水と二酸化炭素の超臨界流体を利用した環境調和型有機合成プロセスの開発研究を実施している。今回、超臨界二酸化炭素と担持ロジウム触媒を用いたフェノールの水素化反応技術を検討し、フェノールを効率よく水素化でき、例えば55℃条件下、フェノール転化率100%でシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物(KAオイル)が得られた。また圧力制御(二酸化炭素と水素圧)によってKAオイルの組成を制御をできることも明らかにした.シクロヘキサノールはナイロン66、ポリウレタン等の、シクロヘキサノンはナイロン6の中間原料として用いられている。これまでのフェノール水素化によるKAオイル製造では、担持パラジウム触媒を用い、反応温度130~180℃と高温で行っている。このため、KAオイル製造中にパラジウム金属触媒表面に炭素質が堆積し、触媒が劣化しやすい欠点があった。触媒寿命の向上化と反応器に投入する熱エネルギー削減の観点から、反応を低温で進行させることが検討課題となっていた。本合成技術では従来技術に比較して大幅に(100℃以上)反応温度を低下させることが可能となった。このことにより触媒表面上への炭素質の堆積が起こらず。触媒寿命が飛躍的に向上し,何度でも触媒を繰り返し使用できることや連続使用が可能となった。更に有機溶媒を使用しない環境負荷低減技術であることも優れた特長と考えられる。
固体触媒と超臨界二酸化炭素溶媒を用いる有機合成技術は、有害な有機溶媒の使用削減のみならず、溶媒である二酸化炭素を反応後に容易に除去可能なことから生成物分離工程が簡略化できる利点もある。すなわち超臨界二酸化炭素を利用した水素化技術はKAオイルの製造のみならず種々の不飽和化合物の水素化反応など、化学工業やファインケミカルズの分野での応用が期待されている。
フェノールを水素化してシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールを合成する手法は、主に欧州で用いられている。現在は主に担持パラジウム触媒を用い、反応温度130~180℃,反応圧力0.1~0.2MPaの条件でフェノール転化率ほぼ100%、シクロヘキサノン選択率97%、シクロヘキサノール3%である。本プロセスは反応温度が高い欠点を有する。
今回得られた知見では、超臨界二酸化炭素溶媒と担持ロジウム触媒を用いることによって反応温度55℃及び転化率100%でフェノールを水素化できる。水素圧と二酸化炭素圧のみの制御によりシクロヘキサノールとシクロヘキサノンの選択率を制御できる利点を有する。
本合成技術は以下の点で従来技術よりも優れている。
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フェノールの水素化反応において超臨界二酸化炭素を利用することで55℃以上の温度条件で反応を進展させることができ、従来技術(反応温度130~180℃)より大幅に反応温度を下げることが可能となった。またそれに伴い、触媒の活性低下を防ぐことができる。
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圧力変化(水素圧と二酸化炭素圧)によってシクロヘキサノールとシクロヘキサノンの選択率を制御できる。
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有害な有機溶媒を使用しない環境調和型合成反応である。
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反応に用いる触媒は固体であり、反応後生成物を簡単に分離でき、触媒も再利用できる。