発表・掲載日:2003/06/04

世界最高温度で強磁性を示す半導体新材料(Zn,Cr)Teの合成に成功

-磁性体と半導体の機能を併用するスピントロニクス素子の実現に道-

ポイント

  • 世界最高温度で強磁性を示す半導体新材料 (Zn,Cr)Teを開発、強磁性キューリー温度(Tc)は+27℃(300K)の室温
  • 半導体的な電気伝導特性を示す初めての強磁性半導体
  • 可視光を通すワイドギャップ半導体ZnTeを母体とする光学応用にも適した材料
  • (Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることの確実な証拠となる、磁気的機能と半導体的機能の相互作用の検出に成功


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エレクトロニクス研究部門【部門長 伊藤 順司】は、世界最高温度で機能する強磁性半導体(Zn,Cr)Teの合成に成功した。従来は-100℃以下に限られていた強磁性の発現温度領域を、一気に室温の+27℃(300K)までに高めた。 応用のために重要な半導体的な電気伝導特性も見出した。またこの材料は光デバイスへの応用に適したII-VI族半導体系では初めての強磁性材料である。

 強磁性半導体新材料の開発競争は、現在世界的な過熱状態にある。特に、2000年から2001年にかけて室温強磁性を主張する半導体新物質の報告が相次いだ。しかしこれらの新物質のいずれもが、その後、否定されたり、疑義をいだかれたりで、現在まで室温強磁性半導体の確証を持つ物質は存在しなかった。産総研は、強磁性半導体の最大の特徴である磁気的機能と半導体的機能の相互作用を、独自の磁気円二色性(MCD)分光法により検出し、(Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることの確証を得た。

 室温で強磁性を示す半導体新材料の発見は、従来全く別々に開発されてきた磁性体デバイスと半導体デバイスの融合を可能にさせるものであり、強磁性体のメモリ機能を持つ新しい電気・光信号処理機能半導体素子(スピントロニクス機能素子)の実現に道筋を開くものである。現在の不揮発性磁気メモリ(MRAM)のような記憶部と素子選択機能の分離が必要無い超大容量不揮発性メモリ、高機能モバイル機器に必要となる不揮発性論理素子、高速光情報処理用光アイソレータなどへの応用が期待される。

○世界最高温度で強磁性を示す半導体新材料(Zn,Cr)Teを開発。強磁性キューリー温度は+27℃。
II-VI族半導体ZnTeをベースとし、そのZnイオンをCrイオンで20%程度置換することにより、強磁性キューリー温度(Tc)が+27℃(300K)の(Zn,Cr)Te薄膜の合成に成功した。現在までに強磁性半導体であることが確認されているのはIII-V族半導体系の(In,Mn)Asと(Ga,Mn)Asのみであった。その強磁性キューリー温度(Tc)は180K(-93℃)が最高値であった。

○半導体的な電気伝導特性を示す初めての強磁性半導体。
従来の強磁性半導体(In,Mn)Asと(Ga,Mn)Asでは、強磁性を発現するためには多量のキャリアドープが必要なため、その電気的性質は半導体というよりは金属的であり、半導体的な応用が難しいという問題があった。(Zn,Cr)Teの電気伝導は半導体的であり、半導体デバイス実現に不可欠なキャリアドーピングが可能となると期待される。

○可視光を通すワイドギャップ半導体ZnTeを母体とする光学応用に適した材料。
母体のZnTeは、波長550nm以上の黄、赤などの可視光に対して透明なワイドギャップ半導体。(Zn,Cr)Teも光学応用に適した材料として期待される。

○(Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることの確実な証拠となる、磁気的機能と半導体的機能の相互作用の検出に成功。
従来の"室温強磁性半導体”が認知されていないのは、強磁性半導体の最大の特徴である、磁気的性質と半導体的性質の間に働く相互作用(sp-d交換相互作用)の存在が全く確認されていなかったためである。今回、産総研では、磁気円二色性(MCD)分光法と呼ばれる独自の手法を用いて、(Zn,Cr)Teにおけるsp-d交換相互作用を検出することに成功した。


研究の背景と経緯

 今日の情報通信技術は、ハードディスクに代表される磁性デバイス技術と、トランジスタやレーザに代表される半導体デバイスを使用することによって成り立っている。電子のスピンを利用する磁性デバイス技術と、電子の電荷を利用する半導体デバイス技術は、これまで全く別物として開発されてきた。しかしながら、近年それぞれのデバイス技術がその成熟度を高めた結果、技術的シーズの枯渇という壁にぶつかりつつある。この問題を解決し、かつモバイル機器や埋め込み機器が大量に使用される今後のユビキタス社会の新たな利用形態に対するニーズに応えるためには、電子の持つスピンと電荷の二つの自由度の相乗効果を利用する新しいデバイス技術が必要と考えられるようになった。スピントロニクスと呼ばれるこの新しい技術分野からは、既に大容量不揮発性磁気メモリMRAMが産み出されているが、今後のより本格的な発展のためには、強磁性体と半導体の機能を併せ持つ新材料である強磁性半導体の出現が不可欠とされている。磁性半導体とは磁気デバイスの機能を担うスピンと、半導体デバイスの機能を担う電荷が、一つの物質中で、強く影響を及ぼしあう物質である。これにより、電気(光)的な手段で物質の磁気特性を制御したり、その逆に磁場で物質の電気伝導や光学特性を制御することが可能になる。磁性半導体の中でも、磁気的性質が強磁性であるものは、強磁性半導体と呼ばれ、メモリ効果などを有するため応用上特に重要である。現在世界的な規模で、室温で強磁性を示す半導体材料の開発競争が行われている。

 強磁性半導体の研究自体は1960年代から行われてきたが、特殊な物質系であったり、極低温でしか強磁性状態を保てないなどのために発展しなかった。最近、再び強磁性半導体に大きな注目が集まるようになったのは、InAsやGaAsなどの実用半導体デバイスに使われているIII-V族半導体をベースとしてその一部をMnイオンで置換した(In,Mn)Asおよび(Ga,Mn)Asにおいて強磁性が発見されたこと(宗片(東工大)、大野(東北大)らによる)や、同じくII-VI族半導体をベースとする(Cd,Mn)Teが強磁性にはならないものの光ネットワーク用の重要な部品として実用化されたことによる。これらの成功に刺激され、ここ数年は、十指に余る多様な”強磁性半導体”新物質が報告されるようになった。しかしながらこれらの”強磁性半導体”の報告は、いずれも磁気特性と結晶構造解析のデータのみに基づくものであり、磁性半導体に期待される肝心の磁性と半導体の相乗効果が観測されていないため、結晶構造解析では検出できない微量な強磁性不純物を高感度な磁気測定で検出しているのではないかとの立場からの反論が相次ぎ、現在まで学会レベルで認知されている物質は全く無く、混沌とした状態となっている。

 産総研は、この様な強磁性半導体新材料の開発に伴う困難さを解決する評価手法として磁気円二色性(MCD)分光法を開発した。これは、(強)磁性半導体の最大の特徴であるd-スピンとsp-キャリア(電荷)との相互作用(sp-d交換相互作用)を直接的に検出する新しい手法である。この磁気円二色性(MCD)分光法を幾つかの”強磁性半導体”の評価に適用し、これまでに(In,Mn)Asと(Ga,Mn)Asは本物の強磁性半導体であるが、その他の多くの物質の示す強磁性的な磁気特性は、なんらかの不純物相による可能性が高いことを示してきた。この独自の磁気円二色性(MCD)分光法は、近年、強磁性半導体のもっとも信頼できる判別法として世界的な認知を受けつつある。

 このような各種材料の評価と並行して、産総研では独自の磁性半導体新材料の開発を行ってきた。従来の磁性半導体では、母体の半導体物質に置換するイオンとしてはもっぱらMn(マンガン)イオンが用いられていたが、Cr(クロム)イオンに注目した研究を行ってきた。これまでに、(Zn,Cr)Te、(Zn,Cr)Se、(Ga,Cr)Asなどの新物質の合成に次々と成功してきた。これらの成果を元に、産総研の発足に伴い、エレクトロニクス研究部門ではスピントロニクス研究分野を強化したが、その具体策の一つがこの(Zn,Cr)Teにおける強磁性の探求であった。試料作製技術の高度化により、高品質な(Zn,Cr)Teの合成が可能となるとともに、磁気円二色性(MCD)分光法による評価手法を適用することにより、今回の初の室温強磁性半導体の実現という成果に結びついた。

成果の内容

  1. 世界最高温度で強磁性を示す半導体新材料 (Zn,Cr)Teを開発。強磁性キューリー温度(Tc)は+27℃(300K)の室温。
     分子線エピタキシー法を用いて、GaAs基板上に(Zn,Cr)Teの単結晶薄膜を作製した。超高真空のもとで、Zn、Cr、Teの各元素を分子線ビーム状にし、+250℃の温度に保ったGaAs基板上に照射して、単結晶薄膜を成長した。作製した薄膜は母体のZnTeと同じ閃亜鉛鉱型と呼ばれる結晶構造を持つことを確認した。Znの20%をCrで置換した試料の磁気的性質を磁化測定装置(SQUID)を用いて測定した。【図1】は-253℃(20K)、-73℃(200K)、+27℃(300K)における磁化曲線である。低温で明確な磁気ヒステリシスが観測されることから、この試料は強磁性物質であることがわかる。室温300Kでも強磁性の特徴が明確である。磁気特性の温度依存性【図2】からは、この試料は300K以下の温度で強磁性状態を保つことが分かった。すなわち強磁性キューリー温度(Tc)は300Kである。ただし、後述のように、このデータだけでは強磁性半導体であるかどうかは分からない。その証明は(4)で述べる。
     なおこれまでに知られている強磁性半導体は(In,Mn)As、(Ga,Mn)Asの2つの物質のみである。(In,Mn)Asは発見から12年、(Ga,Mn)Asは発見から7年経過しているが、そのTcはそれぞれ-163℃(110K)、-93℃(180K)と室温よりかなり低い値にとどまっている【図3】。今回見出した(Zn,Cr)Teの300K(+27℃)は初めて室温に達する値であり、全く新しい材料であることを考えると更なる高温度化が可能と期待される。
     
  2. 半導体的な電気伝導特性を示す初めての強磁性半導体。
     デバイス応用の観点からは、強磁性半導体には、SiやGaAsなどの普通の半導体と同じく絶縁物のような電気伝導特性が望まれる。この絶縁状態を元にキャリアのドーピングという手法で、望み通りの電気的光学的特性を実現できることが、半導体の応用にとって最も重要だからである。しかしながら、(In,Mn)Asと(Ga,Mn)Asには試料の合成時に自動的に大量のキャリアが含まれるため、その電気伝導特性は、半導体というよりは金属的であり、応用上の問題点となっている。一方今回の(Zn,Cr)Teはほぼ絶縁体的な電気伝導特性を示すことが見出され注目される【図4】。絶縁的な電気伝導特性はこの材料におけるキャリアドープ技術の可能性を示すものである。
     
  3. 可視光を通すワイドギャップ半導体ZnTeを母体とする光学応用に適した材料。
     母体のZnTeは、波長550nm以上の黄、赤などの可視光に対して透明なワイドギャップのII-VI族半導体。そのため(Zn,Cr)Teも光学応用に適した材料として期待される【図5】。II-VI族の磁性半導体 (Cd,Mn)Teと(Cd,Hg,Mn)Teは既に高速光ネットワークを支える重要な光部品である磁気光学効果を利用した光アイソレータに利用されている。これはII-VI族系の磁性半導体の結晶品質が光デバイスへの使用に耐えるグレードになるからである。今回開発した(Zn,Cr)Teは同じII-VI族系の半導体であるZnTeを母体とするものであり、今後のデバイス化の可能性は高いと期待される。また、従来のMnイオンを用いる(Cd,Mn)Teと(Cd,Hg,Mn)Teは、今回の(Zn,Cr)Teと異なり、強磁性ではなく常磁性という磁気的性質の材料である。そのため、そのデバイス応用には外部から磁場を加える永久磁石が必要であった。強磁性半導体のCr系の(Zn,Cr)Teは強磁性のため、外部磁石を必要としない磁気光学デバイスに使用されることが期待される。さらに(Cd,Mn)Teと(Cd,Hg,Mn)Teや、従来知られている強磁性半導体(Ga,Mn)As、(In,Mn)Asなどは、人間の目に見える光(可視光)に対しては不透明であった。(Zn,Cr)Teは透明な磁石などへも発展する可能性を秘めている。
     
  4. (Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることの確実な証拠となる、磁気的機能と半導体的機能の相互作用の検出に成功。
     "室温強磁性体"の報告は多いが、その強磁性的な磁気特性が本当に目的としている強磁性半導体から発生しているのか、それともわずかに含まれるなんらかの強磁性不純物から発生しているかの判定は極めて困難である。強磁性半導体物質は通常の熱平衡状態では存在しない物質であるため、薄膜形状の試料となるために試料体積が少なく、不純物が存在していてもX線回折などの手法では検出が難しい。一方超伝導ジョゼフソン効果を利用して磁化を検出するSQUID磁化測定技術は、極めて高い検出感度を持つために、試料中に微量に含まれる強磁性不純物からの磁性をも検出してしまう。この点に十分な配慮を払わないままに”室温強磁性半導体”の報告が2001年~2002年にかけて大量に出回ったが、2002年後半ころからこの問題点が広く認識され始め、現在は磁気特性と結晶学的データだけに基づく”室温強磁性半導体”の報告は評価の高い学術誌には掲載され難くなっている。
     産総研では、強磁性であるかどうかにかかわらず、磁性半導体であることを確実に判定できる新しい評価法として独自の磁気円二色性(MCD)分光法を開発して今回の(Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることの確証を得ることに成功した。
     磁性半導体の最大の特徴は、スピンと電荷の間に働くsp-d交換相互作用であるため、磁性半導体の最も直接的な証拠はこのsp-d交換相互作用の存在の検証であることに注目したものである。磁性半導体ではsp-d交換相互作用のためにsp電子からなる半導体の荷電子帯と伝導帯がスピンの方向に依存してエネルギーが異なるゼーマン分裂を起こす。そして、このゼーマン分裂により右回り円偏光と左回り円偏光の光吸収率が異なる現象が発生する。磁気円二色性(MCD)分光法は、この左右円偏光の光吸収の差を検出するものである。よってMCD信号の有無が、測定試料におけるsp-d交換相互作用の有無、すなわち磁性半導体であるかどうかの判定基準となる。そしてMCD信号の磁場依存性が強磁性的に振舞う場合には、試料は確実に強磁性半導体といえることになる。上記の磁気円二色性(MCD)分光法を用いて、(Zn,Cr)Teの評価を行った結果、この物質が本物の室温強磁性体であるとの確証が得られた【図6】。磁気円二色性(MCD)分光法のデータを決定的な証拠として、この成果は、先月、"室温強磁性半導体”新物質に関して懐疑的になっている米国物理学会発行のPhysical Review Letters誌に掲載された。

 Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の各温度における磁化曲線図

  Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の磁化の温度依存性の図
図1 Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の各温度における磁化曲線
 
  図2 Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の磁化の温度依存性
磁性半導体の強磁性キュリー温度の比較図   Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の電気抵抗の温度依存性の図
図3 磁性半導体の強磁性キュリー温度の比較   図4 Crを20%含む (Zn,Cr)Te膜の電気抵抗の温度依存性。
代表的な強磁性半導体である(Ga,Mn)As膜のデータも併せて示す。
 
(Zn,Cr)Te写真
図5 (Zn,Cr)Teの写真。下の文字画が透けて見える。
 
(Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることを示す磁気円二色性(MCD)分光スペクトル図
図6 (Zn,Cr)Teが真性の強磁性半導体であることを示す磁気円二色性(MCD)分光スペクトル。母体となる半導体ZnTeに特徴な、Γ点、L点と呼ばれる光子エネルギーにおいて、大きな磁気光学効果が見られるのが特徴。強磁性不純物として心配されるNiAs型-CrTeのMCDスペクトルの形は、(Zn,Cr)Teとは全く違うため、強磁性不純物の可能性を完全に否定できる。
従来の強磁性半導体ではこのような情報は全く得られていない。

今後の予定

 更に結晶成長技術を高度化し、より高い強磁性キューリー温度を実現すると共に、半導体デバイスへの応用に不可欠なキャリアドープ技術を開発する。これにより、光デバイスや不揮発性論理素子の実現を目指す。また (Zn,Cr)Teの強磁性発現機能には基礎科学的な面からの注目も強いため、その解明も行い、その成果を元に更に新しい物質系を開発する。


用語の説明

◆不揮発性磁気メモリ(MRAM)
不揮発性磁気メモリ(Magnetic Random Access Memory)は強磁性体のヒステリシス現象を利用したコンピュータ用メモリである。原理的には、不揮発、高速、低消費電力、低電圧駆動、高集積といった、メモリに要求される特性を全て兼ね備えた次世代メモリである。[参照元へ戻る]
◆不揮発性論理素子
現在のコンピュータは、電源を切ってしまうと記憶が失われてしまう。これは、コンピュータの中で記憶や演算を担う半導体素子が揮発性(電源を切ると記憶を失う性質)であることに因る。通常、ハードディスクに情報を記録し、コンピュータの電源を入れた際にハードディスクの情報を半導体素子にコピーしている。このため、パソコンの起動には時間がかかり、また、電源が入っている間は(たとえパソコンを使用していなくても)少なからず電力を消費している。もし、不揮発性論理素子(電源を切っても記憶が保持される素子)が実現できれば、電源を入れると瞬時に起動するコンピュータができ、さらに、ほとんど電力を必要としないコンピュータもできるはずである。[参照元へ戻る]
◆光アイソレータ
2個の口があり、一方向からの光を通し、逆方向の光を遮断するデバイス。レーザ光源や光増幅器の動作は外部からの戻り光により簡単に不安定化し、光システム全体が使用不能となる。光アイソレータはこの戻り光を遮断し、光システムの正常な動作を保つ。ギガビットオーダー以上の通信速度で必須となる。[参照元へ戻る]
◆磁性半導体
磁性の機能を持つ半導体。GaAsやZnTeなどの半導体産業で多用されている半導体材料を構成する陽イオン元素(GaやZn)を、磁性イオンで置換することにより作製される。磁気光学効果を示す半導体材料や、強磁性を示す半導体材料など、重要な新機能材料として期待されている。磁性半導体のうち、強磁性的な磁気特性を示すものを、特に、強磁性半導体と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆強磁性、強磁性キュリー温度
電子はそれ自体が小さな磁石の性質を持っておりスピンと呼ばれる。多数の電子スピンが一方向に揃っている性質を強磁性という。強磁性物質の代表例が永久磁石である。温度をが上昇すると熱エネルギーによりスピンの方向が乱され、ついには完全にバラバラになる。このときの温度を強磁性キュリー温度(Tc)という。実用材料として利用されるためには、この温度が少なくとも室温以上であることが要求される。[参照元へ戻る]
◆常磁性
スピンはあるが、その方向がバラバラな状態。外部から磁場をかけると一方向に揃って、強磁性と似た状態になり、デバイスなどに利用できる。[参照元へ戻る]
◆キャリアドープ
半導体をデバイスに応用するためには、半導体の電気伝導を自由に制御することが必要となる。一般に電気的に絶縁状態の半導体を準備し、電気を運ぶキャリアと呼ばれる電子・ホールを入れ込む技術をキャリアドープ技術という。[参照元へ戻る]
◆sp-d交換相互作用
磁性半導体の最も重要な性質。半導体の性質を担っているキャリアと磁性体の性質を担っているスピンがお互いに影響を及ぼしあうこと。キャリヤはs電子、p電子、スピンはd電子と呼ばれる量子力学的状態から発生するためsp-d交換相互作用と呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆分子線エピタキシー法
非常にきれいな超高真空中で、作製したい物質を構成する元素をビーム状にして、お互いのビームを基板上で交差させることにより物質を成長させる技術。通常の熱で溶かして冷却する方法では実現できない物質が作製できるが、制御すべきパラメーターも多い。[参照元へ戻る]
◆単結晶
試料全体にわたって原子が規則正しく並んで作られている結晶。これに対してところどころで結晶の並びからが異なっているものは多結晶といわれる。単結晶は、材料の機能を高めることやデバイス応用に重要。[参照元へ戻る]
◆円偏光
光は波の性質を持ち、振動しながら伝播する。白熱電球など発する自然の光はこの振動方向が任意の方向に一様に分布しているのに対して、特定の方向に揃っている場合を偏光という。偏光方向が時間と共に回転するものを円偏光と呼び、右回り偏光と左回り偏光がある。[参照元へ戻る]
◆磁気円二色性
磁場の印加により、左右の円偏光に対して吸収率が異なる現象が磁気円二色性である。ゼーマン効果により発生する。磁気円二色性は物質の電子状態を反映するので、その研究の有力な手段である。[参照元へ戻る]
◆ゼーマン効果
物質に外部から磁場をかけると、電子の持つスピンと磁場の相互作用のために、電子のエネルギーがわずかに変化する現象。[参照元へ戻る]
◆磁気ヒステリシス
磁性体の磁化の大きさが、同じ磁場であるにも関わらず、以前の磁場変化の経路に依存して異なる現象。磁場がゼロであってもほとんどのスピンが一方向に揃っており、強磁性体で見られる。ハードディスク等の磁気記録媒体は全てこの磁気ヒステリシスを利用したものである。[参照元へ戻る]
◆ワイドギャップ半導体
半導体はある波長より長い光に対して透明であるという性質を持っている。その限界の波長は物質ごとに異なる。InAsの場合には3000nm(ナノメータ)、GaAsの場合には830nmであり、人間の目が感じることのできる波長350nmから750nmの可視光の光をすべて吸収するため、真っ黒に見える。それに対してZnTeの場合の限界波長はもっと短い550nmであるため、赤(~650nm)から黄(~590nm)の光を通し、人間の目には赤みがかった透明な材料として見られる。[参照元へ戻る]


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