独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)成果普及部門工業標準部【部長 山内 徹】と人間福祉医工学研究部門【部門長 斎田 真也】は、高齢者・障害者に配慮した「聞き取りやすい報知音を組み込んだ家電製品」や「見やすい視覚表示物(案内板等)」の普及促進に寄与することを目的とした「高齢者・障害者を配慮して設計するための指針(推奨事項)」を日本工業規格(JIS)として制定するため、3件のJIS原案を作成し、工業標準化法第12条の規定に基づき、経済産業大臣に対してJIS制定の申出を行った。今回、申出を行ったJIS原案は、日本工業標準調査会(JISC)の審議を経て、年内には経済産業大臣によって正式に日本工業規格(JIS)として制定される予定である。
これら3件のJIS原案は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構【理事長 齋藤 紘一】(以下「NITE」という)と共同で実施した標準基盤研究の成果(高齢者人間感覚特性DB)を基に、NITEの全面的な協力を得て、高齢者・障害者を含む利害関係者で構成した「JIS原案作成委員会」で審議し、成案化したものである。
また、現在、産総研では、昨年11月に策定した「産総研・工業標準化戦略」において、社会的ニーズや行政からの要請が大きく、産総研の研究ポテンシャルの高い分野の一つとして、「消費者保護/高齢者・障害者配慮分野」を選定し、組織をあげて工業標準化に取り組んでいるところであり、今回のJIS原案作成もこの戦略に沿って実施していたものである。
なお、ISO/COPOLCO(国際標準化機構/消費者政策委員会)への我が国の提案によって審議が開始されたISO/IECガイド71(規格作成における高齢者、障害者のニーズへの配慮ガイドライン)が2001年に制定され、高齢者・障害者に配慮した具体的な規格作りの推進が国際的に求められている中、現在ISO/TC159(国際標準化機構/人間工学専門委員会)に設置されたアドホック委員会【委員長:佐川 賢(産総研)】において、高齢者・障害者配慮国際標準化の方策が検討されており、産総研としては、今回のJIS原案を基にISOへの国際規格提案を行うことを視野に入れている。
○ JIS原案の名称は以下のとおり 【 下記「JIS原案の概要」あり 】
・高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活製品の報知音-妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル
・高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-年代別相対輝度の求め方及び光の評価方法
・高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法
1.高齢者・障害者配慮設計指針-消費生活製品の報知音-妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮した音圧レベル
○概要
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消費者は、電気・電子機器、情報通信機器、OA機器、燃焼機器、玩具、衛生設備機器、健康器具などにおいて、動作の終了や異常などを知らせるために報知音を使用した様々な消費生活製品に囲まれているが、これらの報知音は、使用者の加齢に伴う聴力低下及び周囲の妨害音(生活環境音)の影響によって聞き取りにくくなることがあるため、生活環境音の有無にかかわらず適切に聞き取れる報知音を設計するための指針が安全性や使い易さの面から必要となっている。このため、このJIS原案は、視覚障害者、視力及び聴力の衰えが見られる高齢者をはじめとする使用者が消費生活製品を使用する際、操作のフィードバック、製品の状態などの情報を得るために必要な報知音の音圧レベル(音量)に関して、妨害音及び聴覚の加齢変化を考慮して設計するための指針について規定するものである。この原案がJISとして制定されることによって、使用者にとって聞き取りやすい適切な報知音を用いた製品の普及が期待できる。
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○審議委員会
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高齢者・障害者配慮設計指針(報知音)JIS原案作成委員会
〔委員長:西原 主計(神奈川工科大学 教授)〕
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2.高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-年代別相対輝度の求め方及び光の評価方法
○概要
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我が国における高齢者人口の急激な増加にもかかわらず、高齢者にとって見にくい視覚表示物が増加しているため、その安全な生活と快適な生活のために必要な視環境の評価・設計の指針が必要となっている。例えば、高齢者は眼球レンズの透過率の加齢変化により青色が見えにくくなるにもかかわらず、青色を用いた公共のサインや標識などが少なくない。このため、このJIS原案は、若年者から高齢者までの年齢の対象者が光源及び物体を見るときの種々の色光に対する光の視覚的明るさとそれに基づく視認性を、対象者の年齢を考慮した年代別相対輝度を用いて評価する方法について規定するものである。この原案がJISとして制定されることによって、光源や物体の明るさが計算でき、特に高齢者が安全で快適な生活を送るために必要な見やすい視覚表示物のコントラストなどの評価・設計に資することが期待できる。
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○審議委員会
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高齢者・障害者配慮設計指針(年代別輝度)JIS原案作成委員会
〔委員長:成定 康平(元中京大学 教授)〕
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3.高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法
○概要
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文字情報は、情報技術時代の社会生活にとって必要不可欠であるにもかかわらず、様々な形・サイズで表示・印刷されるため、特に年齢とともに視力の低下する高齢者にとって視覚表示物(印刷物、標識、表示ラベルなど)が読みづらい文字で表示されている場合が多く、日常生活においてすべての人に対して、読みやすく適切な文字を提供するために文字の最小可読サイズを定量的に推定・設計する指針が必要となっている。このため、このJIS原案は、平仮名、片仮名、アラビア数字、及び漢字を日本語文字とし、若年者から高齢者までの年齢の対象者が、様々な環境下でそれらの1文字を読むことのできる最小の文字サイズの推定方法について規定するものである。この原案がJISとして制定されることによって、対象者の年齢や見る環境に応じた最適な文字サイズを設計するための指針が得られ、特に高齢者が安全で快適な生活を送るために必要な見やすい視覚表示物の文字サイズの評価・設計に資することが期待できる。
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○審議委員会
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高齢者・障害者配慮設計指針(最小可読文字サイズ)JIS原案作成委員会
〔委員長:神作 博(中京大学 教授)〕
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