独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】の人間系特別研究体【系長田口隆久】は、固体材料内部の化学物質の出入りを、光により自在にコントロールできるカプセル状新材料の開発に成功した。固体材料としては、細孔(穴)の大きさがよく揃った(穴の直径は2~4ナノメートル:1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)シリカゲルで、その細孔の出口に、開閉可能な観音開き状の有機分子の「ドア」を施した。このドアは、ある波長の紫外線により閉まり、また別の波長の紫外線によって開くことができる。この材料によって、材料内部に化学物質をあらかじめ入れておいて細孔の出口の「ドア」を閉めておけば、その化学物質は材料外部へ放出されることはなく、貯蔵する事ができる。そして、この化学物質が必要となった時、光をあてることによって材料の外へと放出するような技術が可能となった。
この新材料を用いれば、化学物質を必要な時、必要な場所で提供することが可能となる。化学物質の環境や人体への影響は多くの問題を起こしているが、この新材料を用いれば、化学物質による悪影響を大いに軽減することができると期待できる。応用が期待される分野としては、医療科学で近年注目を集めているドラッグ・デリバリー・システム(DDS)がある。例えば、抗ガン剤等の強力な薬物を投与する場合副作用が問題であるが、薬物を患部のみに運ぶことができれば、副作用をなくすことができる。今回産業技術総合研究所で開発した新材料を用いれば、薬物をあらかじめ投与した後、患部に光を照射することにより、その場所でのみ薬物が放出され、作用するというような技術が可能となる。産業技術総合研究所では、ステロイドホルモン類の放出を完全にコントロールできることを確認しており、実用化に期待を寄せている。また今回の新技術は、シリカゲル材料出口に有機分子により開閉自在な「ドア」を施して、貯蔵と放出をコントロールすることができることを見いだしたものであり、光以外の方法でも化学物質の放出をコントロールすることもできると考えている。
本成果は、英科学誌ネーチャー【2003年1月23日号*】に掲載された。
*Nature, "Photocontrolled reversible release of guest molecules from coumarin-modified mesoporous silica" by Nawal Kishor Mal(ナワル・キショール・マル), Masahiro Fujiwara(藤原正浩) and Yuko Tanaka(田中裕子)
|
細孔(穴)の大きさがよく揃ったシリカゲルの模型図
直径が2~4ナノメートルの穴が、蜂の巣のようにシリカゲル中にできている。
|
|
-
細孔出口にある有機分子が結びついていない場合は、細孔の「ドア」が開いており、化学物質を内部に導入することができる。
-
光照射により有機分子が結合したため、細孔の「ドア」が閉じられ、化学物質は外部へと出ることができない
-
別の光を照射することにより、再び細孔の「ドア」が開き、内部の化学物質は外部へ放出される。
|
|