産業技術総合研究所光技術研究部門では、ガラス中に半導体ナノ粒子を安定かつ均一に分散させることで、CRTや蛍光灯などに使われている蛍光体の3倍の明るさで輝く新しい蛍光ガラスの開発に、世界で初めて成功した。
この研究は、NEDOナノガラス技術プロジェクト(プロジェクトリーダー:京大平尾教授)の中で進められている。
今までの蛍光体は希土類イオンを添加した酸化物や硫化物がほとんどで、これまで数十年におよぶ研究の歴史を持ち、輝度や耐久性が少しずつ改良されつつある。しかしこれらはいずれも発光寿命が長いため、励起光を強くしても、効率よく蛍光に変換することが出来ない。このため、今後ますます高輝度高精細化が求められるディスプレーや省エネタイプの照明光源のためには、今までの研究の延長線上にない新しいタイプの蛍光体の出現が望まれている。
一方で近年、溶液法により表面状態を制御することで、高効率で発光する半導体ナノ粒子(直径10ナノメートル以下)を合成する研究が世界的に注目されている。半導体ナノ粒子には、
(1) 発光寿命が希土類より10万倍短く、吸収、発光のサイクルを素早く繰り返すので、非常に高い輝度が実現できる。
(2) 粒径によって様々な色の発光を示す。(図1)
(3) 有機色素よりもずっと劣化が少ない。(劣化するまでに蛍光として出てくる光子の数は、色素の10万倍程度とされている)
などの優れた特徴がある。しかし溶液のままでは不安定で、数日放置すると光らなくなるため、工学的応用には不向きであった。
産総研では、この半導体ナノ粒子をガラス中に安定に保持する技術の開発に成功した。ガラスは透明性、強度、耐熱性、化学的安定性などに優れ、紫外線照射による劣化も少ない。開発した技術は以下の3つのステップからなる。
(1) 水溶液中で半導体ナノ粒子を合成する。
(2) ナノ粒子の表面と親和性の良いアルコキシドを完全に混和させる。
(3) ナノ粒子の表面状態を保ち、凝集を防ぎながらゾル-ゲル法によってナノ粒子分散ガラスを作製する。(図2,3)
「ナノ粒子分散ガラス」は、ガラスやポリマーなどの様々な基板上に塗布して、高精細ディスプレーや照明用の蛍光体として利用されることが期待されている。また、長い間明るく輝くので、医療分野では細胞内の化学反応の検知や、ウイルスの位置の追跡に利用する研究も検討されており、様々な新産業創成に貢献するものと期待される。
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図1 一つの紫外光の照射で、粒径で決まる様々な色の発光を示す。
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(a)室内光での概観
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(b)紫外線照射での発光
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図2 水分散性の半導体超微粒子を作製し、その表面と親和性の良いアルコキシドをまずナノメートルのオーダーで超微粒子と完全に混和させた。この条件のもとでゾル-ゲル反応を行わせて表面状態の保持と凝集の防止を行うことで、写真に示すナノコンポジットガラスを作製した。(a)は、室内光での概観、(b)は紫外光照射での発光。
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図3 このガラス中の超微粒子とその近傍の様子を示す模式図。
このように発光する超微粒子を透明なガラス固体中に安定に保持したのは、世界で始めてである。
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ナノ粒子(直径数ナノメートル)では、およそ半分近い原子が表面に位置する。このため、表面欠陥が多く、これにより発光が妨げられる。長年の研究により、溶液中ではこの表面欠陥を取り除くことが可能になった。しかし、これを固体中に安定に保持することが難しかった。
今回、ゾル‐ゲル法を工夫して、ナノ粒子表面と化学結合を作ることでガラス網目の中に安定化する方法を考案した。ナノ粒子表面がマイナス電荷を帯びて安定化されることに着目し、これに親和性の良いアミノ基を結合させることがポイントであった。このようにして作製したガラスは、透明で化学的安定性に優れている。このため、概要で述べたように、高精彩ディスプレーや照明用の蛍光体等として広い応用があると期待される。
発光するナノ粒子を透明なガラス固体中に凝集させずに安定に保持したのは、世界で始めてである。
これらは、室温で溶液の状態から固まらせてガラスにする。このため、溶液の状態でガラス基板上に特定の形状で配置することで、容易にデバイス化が可能であると期待され、そのための準備を進めている。